カタリナ
- ナノ -

07 君の傍らで溶けあった宇宙

こういう時、一緒の部屋というのは非常に便利だ。
規制こそは緩和されたけれど、厳密には星杯騎士団ではないアリシアの自室は教会の騎士団本部に用意されていない。見習い従騎士でも寝る分のスペースがある共同部屋が与えられているのだから相変わらずその扱いは如何なものかと思うけれど、一人には十分な広さの私室を二人で使う口実になっているからこの際良いかな。
一緒のベットで寝ることに数ヶ月掛かって漸く抵抗が無くなったが、アリシアは何処までも初心だ。処世術として適当にあしらう事に慣れ過ぎていて、向き合う事に滅法弱い。そのギャップが好きなんだけどね。

とはいえ普段の態度から勘違いされ易いが僕も人並み以上の欲求はある。健全な男子だったら直ぐ隣に彼女が居たら手も出したくなる。けど、そういう雰囲気に少しでもなろうものなら決まって成人を迎えるまでは駄目だと突っぱねられる。まぁ、それが逃げる苦し紛れの言い訳なんだろうけど。


「ねぇワジ、今日皆変じゃなかった?」

「変って?」

「私が仕事しようとすると総長には今日は休んだらいいって止められるし、アッバスには外出した土産だってお菓子貰うし、ヴァルドも機嫌良く奢るって言ってきたし……妙な一日だったんだけど」

「フフ、アリシアに対する気遣いじゃない?」


曖昧な返答にアリシアは釈然としないと言わんばかりに首を傾げる。シャワールームから出て来た後で、ドライヤーで乾かし切れなかった濡れている毛先をタオルで拭きながら部屋に戻って来たアリシアの顔は蒸気していて、少しばかり赤くなっている。
ちらりと壁に掛けてある時計に視線を移し、残り時間を確認する。あと一時間で日にちも変わってしまうか。


「アリシア、今日が何日か把握してる?」

「……ここ数日忙しかったからカレンダー見てなかった。何日だっけ」

「誕生日」

「え?」

「今日、アリシアの誕生日だったんだけど、気付いてなかったんだ」


自分の事には割と無頓着だとは思っていたけど、日にち感覚がずれるのと一緒に自分の誕生日までずれているとは。漸く今日の違和感の原因に気が付いたのか頭に手を当てて小さな溜息をついていた。しかも自分が忘れていた事を気にするのではなくて「総長以外なんで食べ物なの…」と呟いているから思わず笑ってしまった。
ケビンの元に居ても、潜入調査だとかで離れていた機会も多かったみたいだし、誕生日を祝われるのにも慣れていなければ、気にしている余裕も無かったんだろう。僕も人の事は言えないけどね。


「夜遅くになったけど、誕生日おめでとうアリシア」

「……ありがと」


嬉しさを滲ませた笑みを控えめに浮かべながら礼を述べるアリシアを手で招くと、僕が座っている横に腰を下ろした。成人したお祝いにお酒を空ける、なんて事もしたいのだが如何せんアリシアに酒を飲ませると色々な意味で後悔する事になるからお預けだ。

シャワーを浴びたばかりだからか、真横に居るだけでもほかほかとした熱気が伝わってくる。置かれていた手に重ねると、驚いたように目を丸くして見上げてきた。
普段ならここで少し突っ撥ねるような言葉が飛んでくるのに、頭を肩に乗せて体を預けてきた。


「アリシア?」

「当たり前の事なんだろうけど……なんか幸せだなって思って。ワジが居て、良かった」

「……全く、適わないなあ」


惚気ているのでもなく、甘えている自覚があるのでもなく、こういう事をさらりと言えてしまう辺りは流石だ。
他人の感情に関しては鈍感所か鋭過ぎる程に勘がいいのに、自分自身の感情が絡むとたちまちその直感力は影を潜めて鈍くなる。人並みの幸せとはこういう事を言うんだろう。アリシアと違って手馴れてはいるけど、そういう幸せとは無縁だった僕にとっても初めての感覚だ。

アリシアの頬に手を添えて口付けると戸惑ったように一瞬びくりと動いたが、応えるように唇を僅かに寄せてきたから、限界の所で保っていた躊躇がぷつんと切れた。初めから切れる予定はあったから、まぁいいかな。


「ん…、え、ちょっとワジ!?」

「暴れると落ちるよ」

「そういう事じゃなくて!」


立ち上がってアリシアの背の後ろと持ち上げた膝の下に腕を通して持ち上げると、突然の事に驚いたのか宙に浮いた足をばたつかせながらどういうことだと声を上げるアリシアをそのまま壁際に置かれているベッドの上にそっと下ろすと、何かを察したのか間合いを取られる。
そんな事も気にせずベッドの上に乗り、追い詰めるように近付いて行くとアリシアの背が壁に付いて、瞳を揺らしながら視線を逸らされる。


「付き合い始めて一年、妥協に妥協して僕も大分我慢した方だと思うよ」

「……そ、それは、そうだけど……」

「無理強いはしたくないけどさ、全部僕のものにしたい、って言ったら怒る?」


自分でも卑怯な聞き方だとは思う。男子たる欲求を満たしたいという想いもあるけれど、やはり一番の行動基準はアリシアを愛しているという感情だ。愛を確かめる行為、なんてよく言ったものだ。慣れているように見えて、これまで最も縁遠かった。
何時もの冗談交じりな雰囲気でないことにアリシアも気付いているのか、逃げる言い訳も出来ずにただ視線をさ迷わせていた。

けれど、気恥ずかしそうに俯きながら、そっと手が伸ばされて頬に触れた。


「優しく、して……」

「……善処するよ」


あぁもう限界だ。アリシアを引き寄せて触れるだけのキスをしながら押し倒して組み敷いた状態になる。段々と深いものに変わり、僅かに開かれた唇の間に舌を入れると戸惑いがちに舌を絡ませると声が吐息混じりに零れだす。

服の裾からそっと手を差し込むと、つつ、と脇腹から背中を這っていく直接触れる感覚にアリシアの身体がびくっと跳ねた。徐々に上へ向かう指先に耐えるように目を瞑りながら服を掴んでくるアリシアの頭をそっと撫でて額に口付ける。


「外すよ」

「っ、ま、待って…!」


下着の留め具を外すと、胸の締め付けが緩んだ事に困惑したのかアリシアは胸を押してくるけれど、わざとそれを無視して膨らんでいる下着の下に手を差し込んで緩急を付けならがら揉むと口からは甘い声が漏れ出す。
頬が上気しているのはシャワーの後だからなのか、それともこの行為のせいなのか。あるいは両方かもしれないけど。


「……んぅ、あっ……」

「手で塞がないでよ、アリシアの声聞きたいから」

「こっちは恥ずかしいんだから…!」


自分の口を覆おうとするアリシアの手を取って口の端にキスを落とすと、僅かな抗議が飛んでくる。こういう所はらしいなぁ、と思いながらも、慣れてない反応が逆に嬉しい。
こうして感じるのも初めてで、甘い声を漏らすのも初めてで。それが僕の手によってだと思うと優越感に浸る自分がいる。男の独占欲は醜いよね、本当に。

弛んだ下着をずり下げて胸の先端を摘むと、堪えきれずに熱の篭った喘ぎ声が零れる。そうして口づけをしながらまた胸を弄るのを再開させる。ロイドやランディ達が胸は大きい方がいいと言うけれど、確かに楽しみは増えるな、と笑みを浮かべて手を滑らせる。


「前から大きいとは思ってたけど、予想以上かな」

「あ、んっ!さ、サイテー…!そういうの、言わなくていいから!」

「フフ、男としては自制心を削られるポイントだからね」

「え……?あっ、ちょ、ちょっと待ってワジ…!」


下着を上にずらして胸の突起を口に含むとアリシアの身体は快楽に震え、声を堪えるようにシーツを強く握り締める。
反応を見る限りそろそろいいかなと思い、太股に手を這わせるとびくりと逃げようとして、不安そうに開かれた目がじっと僕を見詰める。安心させるように頭を撫でると、少し力が抜けたのが分かった。

濡れた下着の上から秘豆を擦るように素早くスライドする。下着の隙間からするりと手を入れて割れ目をなぞると、擦る度に快楽の波が押し寄せてくるのか愛液が指に纏わりつく。それが僕に対する興奮剤となるのは確かで、余裕が無くなってきた事を感じながらもアリシアの負担を減らす為にも性急になるべきじゃない。


「あっ、あぁ!それっ、だめ……!」

「ダメじゃないでしょ?というか、これ位は耐えてもらわなくちゃ」


その先が辛いじゃない?その言葉を言う事はなかったが、言いたい事が分かったのか頬を赤らめて少しの抵抗か、腕を軽く小突かれる。可愛い抵抗に自然と目を細め、口角を上げて笑った。
下着を脱がせ、足を左右に開かせると刺激と快楽を求めてひくひくと震える秘部が露になる。ぬぷりと1本の指を入れて中で折り曲げると締まるのが分かる。その感触だけでも誰にも進入を許したことが無いと分かって、独占欲に心が満たされる。


「あ、や…っああ!んぅ、だめ……変に、なるっ」

「そんなにナカが気持ちいいのかい?」

「っ、あん!や…!?ワジ、やめ……!」


ならばお望み通り、と言わんばかりに人差し指も挿れて中から押し広げるように抜き差しを繰り返しながら指を折り曲げると、ある一点でびくりと身体を揺らして目を瞑ったまま僕にしがみ付いてくる。経験した事がない快楽に困惑しているのかアリシアはふるふると首を横に振る。
まるで犯しているみたいだ、とぼんやり馬鹿なことを考えながら音を立てながら掻き回すとくちゅくちゅという厭らしい音が部屋に響き、アリシアの中が断続的に締め付けてくるのを感じて、そろそろ限界だと分かった。


「あっ、あん!や、……も、だめっ、あっ!やっ、やめ、ワジ…!」

「このままイっていいよ」

「ひぁっ、だめ…!や、ぁああん!」


指をきつく締め付けてくる感覚に、ゆるゆると熱が篭るが、何食わぬ顔でしがみついたまま肩で息をするアリシアの頬に口付ける。引き抜いた指に絡み付く愛液を舐めると、無言で胸を叩かれる。
怒声の一つや二つ飛んできてもおかしくないのに、控えめな抵抗に燃えない訳も無い。ゆっくりと開かれた目はとろんとしていて、欲情と不安に揺れているアリシアに、これ以上の我慢は無理かな、とやけに冷静に自己分析して、ベルトに手をかけるとアリシアは硬直する。


「ワ、ジ……あの、わ、私、まだ……」

「不安かもしれないけど、僕に任せて欲しい。優しくしきれる自信は無いけど、アリシアを愛してるからさ」

「……っ、ワジは、ずるい…」

「フフ、そうかもしれないね」


自身を取り出すとまだひくついている秘部に宛がった。ゆるゆると入り口の辺りを擦ってからゆっくりと挿入すると、やはり鳴らしたとはいえ初めてだからか締め付けがきつくて射精感に襲われるがそれを堪えて腰を沈めていくと、逃げるようにアリシアの腰が揺れる。


「ひぁっ…!う……っ」

「大丈夫かい…?」

「ん、いい、から……動いて…?」

「でも、きついんじゃない?」

「ワジにも、気持ち、っ、良くなって、欲し、い、から、ぁああん!」


あぁもう、どうしてこう煽るのかな。
優しくしようと思っていたけれど、誘うような言葉に残っていた余裕は無くなって、奥を深く突くように腰を沈めて、動き始める。痛みに僅かに顔を歪めていたアリシアだが、段々とその口からは甘い嬌声が零れ、結合部からはぐちゅぐちゅと卑猥な水音がする。必死に僕の手を握り返す手に、突き上げるたびに裸体を艶かしく撓らせ、きつく絡みつくように締め付けてくる中に、僕が焦らされている気分になる。


「ひゃぁあ、あんっ、そこは……だめ…!」

「そこって、どこのこと?」

「ワジの、意地悪……!」

「フフ、そういうのは今度にするよ」


生理的な涙を目の端に浮かべながら悪態を付くアリシアに安心感さえ覚え、舌を絡め取るような深いキスをして、一度自身を引き抜いて再度深く奥を付くと、限界を訴えるようにふるふると首を横に振って背中に腕を回してきたから驚いて少し面食らったが、嬉しさに気持ちが高揚する。


「ワジ……ワジぃ…っ」

「……そんなに甘えた声で求められたら、僕も頑張るしかないよね」

「あっ、やぁ、だめ……っ」


指で解した時の狭さとはまた違う圧迫感と収縮の間隔が短くなる膣内に、顔を歪めながらも腰を揺らして突き入れる。


「ん、ふっ、ひゃあ、あああ!」

「っ…!」


腰を引き一際強く打ち付けると膣内が締まり、目を瞑って甲高い嬌声を上げたアリシアはそのままくたりと倒れこんでくる。その締め付けに耐え切れず中に吐き出すと、その刺激で再び中がぎゅっと締め付けてくる。収縮を繰り返す中に出し切るようにゆるゆると腰を動かしながら引き抜くと、白濁の精液が零れ落ちた。……これはまたなかなか欲情する光景だね。

疲れたのかアリシアは瞼が落ちかけている目を僅かに開き、僕の口に触れるだけのキスをして、離れたかと思うと目を閉じて寄りかかったまま眠りに入る。穏やかな寝顔を見ているとふっと笑みが零れて、一人参ったなと呟いてアリシアを抱き締めてベッドの上に転がった。
――人並みの幸せな気分、ってこういう事を言うのかもね。



「……何時までそっち向いてるつもりだい?」

「……、何でワジにそんなに余裕があるのか分からない」

「何でって、まぁ、愛してるからじゃない?アハハ、別に隠さなくても全部見たのに」

「っ、最低!」


毛布で身体を隠しながら枕を投げてくるが、それを手で受け止めると恨みがましくじとりと睨まれるが、それが照れ隠しである事を経験から知っている僕にしてみれば、やはり可愛い抵抗だ。初めてだったのに少し無理をさせたとは分かっているが、痛みを耐えてでも受け入れようとしている姿を見ると自制心なんて簡単に吹っ飛ぶものなんだよね。
身体の向きを変えようとしたアリシアが痛みからか目を細めて、腰を抑えているのを見て少々の罪悪感が沸いた。


「無理させたね」

「……別に、嫌じゃ、なかったから気にしなくていいわよ」

「……今日もどうせ仕事入ってないだろうしもう一回どうかな?」

「返す言葉間違ってると思うんけど…!」


ロイドやランディの煩悩が先行するのを茶化してきたけれど、僕も彼らと同じ男ってことかな。

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