カタリナ
- ナノ -

15 雨と唄う家族の夢

※『truth』の時間軸の話です


今日の天気予報は晴れのち雨、そして定期的に行われる日曜学校の授業参観日だった。熱心な様子で授業に参加しているキーアを見ていると成長を感じる、と特務支援課のパパママ達はこれまた熱心に語っていたのだが。


「え、今回は私とワジが?」

「でもいいのかい?君達、キーアの授業参観に行きたいんじゃないかい?」

「まぁ、勿論その気持ちもあるけど……二人は一度も参加した事ないだろう?教会がむず痒いっていうのは個人の意見だからこの際つっこまないにしても、キーアが寂しがってたぞ」

「えぇ、アリシアさんとワジさんは何時来てくれるのか、とツァイトに零していたらしいです」


ロイドとティオから聞かされた事実に申し訳なさを感じた。大人数で行くのもあれだから、と毎回授業参観は行きたい人や都合の合う人が行くのだが、そうなると特務支援課初期メンバーが一番キーアの成長を見守りたいと思っているだろう、と思ってつい毎回彼らに任せてしまうのだけど、それがキーアを悲しませていたみたいだ。
それにワジと私はまた別の意味もあって教会に不要に立ち入ろうとしない。正体は隠しているみたいだけどワジは星杯騎士団の一員のようだし、エラルダ大司教に目を付けられるのは勘弁したい所なのだろう。私も人の事は言えないけれど、エラルダ大司教が私の存在を知っている筈も無いしそこは心配に値しないのだが。


「分かった、二人で行ってくるとするよ、君たちの代わりにキーアの成長をちゃんと確認して来ようかな」

「そういえばさっき変わったみたいだけど今日は午後から雨が降るんだっけ?傘、持って行ってあげないと」

「えぇ、キーアちゃん持って行ってない筈だから。それと、あまり心配はしていないけど悪目立ちはしないで頂戴ね…?」

「ふふ、ちゃんとそこら辺は弁えてるわよ。それじゃあ行って来るわ」


果たして真面目に授業参観をするのか、そこを心配されているみたいだけど流石に私もワジもその辺りは弁えているし、下手に教会で目立つのも宜しくないだろう。キーアの分と自分達の分の傘を持って特務支援課ビルを出る。晴れてはいるけど確かに雨が降りそうな雲が遠くに見える。
日曜学校の授業参観、これも初めてだけど日曜学校の授業を見るの自体が初めての経験だった。自分で勉強出来るからあまり通ってないと言ったけど、私は一切通えなかった身だし、その意味でも行くのを控えていた。


「僕らが二人で行くと周りにどう思われるのかな」

「え?さぁ、悪い影響与える姉と兄程度じゃない。というか何でそんなこと?」

「フフ、どうしてだろうね?それに僕らじゃ流石に兄弟には見えないよ」

「それはそうだろうけど……」


意味深な事を言うワジに眉を潜めるが、はぐらかすばかりで真意を言おうとはしない。何なの、思わせ振りな事言うだけ言っておいて。不満は残るがワジの言葉を深く考える方が無駄だとそこで思考を中断した。

マインツ山道方面の出口にあるクロスベル大聖堂に向かい、聖堂内右手にある教室に入ると他の保護者も揃っているようで子供たちはそわそわしている。前から二番目の席にタリーズ商店の子、モモと一緒にキーアは座っていて、今日は誰が来るのだろうときょろきょろ辺りを見回していたのだが、アリシアとワジを見つけた途端に顔を綻ばせながら嬉しそうに笑ったから、手を振った。


「もう少し早く来てあげるべきだったかな?」

「そうも思うけど……今嬉しそうな顔してるならいいんじゃない?あんな顔されたらロイド達が溺愛する気持ちも分からなくないわ」

「へぇ、珍しいね、アリシアがそう言うの。あんまり愛情を言葉にするタイプじゃないと思ってたんだけど」

「まぁ間違ってはないと思うけど……なにその笑み」

「いや、だから僕にも冷たい態度が目立つのかと思うと堪らなく愛おしく見えるよね」

「なっ、そ、そういう無駄な冗談は要らないから…!もう始まるんだし大人しくして」


外れているとも言えないワジの指摘にアリシアは狼狽しながらも突っ撥ねるが、まるで意味のない否定にワジは満足そうに笑みを浮かべる。アリシアが口説き文句よりも自分の表面的な調子で隠している内面を指摘される事の方が弱いことを熟知しているワジに振り回されることが段々と多くなってきていた。
そんな傍から見たら仲睦まじい様子の二人に、誰もキーアという兄妹の授業を見に来ているとは思わず、隣に居た保護者はくすりと笑みを零した。


「ふふ、あなた達、随分と若い夫婦ね」

「……、え?」

「あら、あの子でしょう?どちらにも似てるわ。将来は美人になるのかしらね」

「フフ、どうもありがとう。母親似だと僕としては嬉しいんだけどね」


突然声を掛けられて理解するまでに大分間が空いたが、夫婦だと言われたのが自分たちで、あの子、というのがキーアの事を指していると気付いた瞬間アリシアは顔を赤く染めてワジに振り返るが、相変わらず食えない笑みを浮かべて笑っていた。
キーアの髪の色と目の色、柔らかく緩やかなウェーブのかかった髪は少し違うとはいえそれぞれの特徴に似ているといわれてもおかしくないものだ。ワジが悪乗りをしたせいで完全に誤解されているとアリシアは否定しようとしたのだが、その時丁度シスター・マーブルが教室に入って来たから私語を慎まなくてはならず、恨みがましくワジの腕を抓った。



「二人とも来てくれたんだー!えへへ、初めてだよね!キーア、うれしいよ」

「ロイド達に遠慮して来た事なかったんだけどね、僕としても色々と新鮮だったよ」

「?どうしてアリシアは疲れた顔してるの?」


授業参観が終わり、友達と別れの挨拶を交わしたキーアは後ろに控えていたワジとアリシアに駆け寄ってきた。ワジの意味深な言葉にキーアは首をかしげたのだが、その横に居るアリシアが頭を抑えているのに気が付いた。


「……そこのワジに聞いて。悪乗りするから変に誤解されるわ……キーアの授業参観自体はいい思い出だけど……」

「どうゴカイされたのー?」

「僕とアリシアがキーアのパパとママと思われたみたいでね。そしたら随分早い結婚になるよね」

「だからそういう冗談いいから!あそこに居た保護者に誤解されたなんてあぁもう……」

「けっこん?ワジとアリシア、ケッコンしたの!?」


無邪気に尋ねてくるキーアに毒気を抜かれたのか、アリシアは恥ずかしそうに目線を泳がせて、キーアの純粋な質問にまたしても悪乗りするワジに悪態を付いた。ワジと一緒に来るとろくな事にならない、とアリシアは頭を抱えるが、ワジにしてみれば一緒に居ると本当に楽しいと言った所だ。
クロスベル大聖堂を出て特務支援課ビルに戻ろうとしたのだが、来た時には晴れていた空が曇っていて、しとしとと雨が既に降っていた。


「雨降ってたの?キーア、傘持ってきてない……」

「大丈夫、キーアの分も持ってきたから。ワジ、キーアの傘……」

「あぁ、アリシア、その傘を渡してくれるかい?」

「え?」


言われたから反射的に自分の傘を渡すとそのまま取られてワジは二本の傘を持ったまま自分の傘を差した。どういう事、と呆然としているとその大きめの傘がアリシアとキーアの頭上に広げられる。


「家族で一緒の傘で帰るっていうのもいいんじゃない?」

「だから誰がワジと、」

「そしたらキーアのパパがワジで、ママがアリシア?えへへ、何かすっごくうれしいね!」

「……そっか。もう……今日だけだからね、ワジ」

「はいはい、フフ、それじゃあ帰ろうか」


キーアの嬉しそうな顔には勝てず、表情を緩めたアリシアはワジとの距離を詰めて、間の少し前にキーアが来るように並んで歩き始めた。小雨ではあるけどキーアに雨が当たらないように傘を少し傾けている辺り優しいじゃない、とアリシアが笑みを零すとワジも目を瞑って笑みを浮かべた。
こういう体験を自分が子供の時でもしたことがなかったのに、こうも温かい気持ちになるものなのかと考えていたのはアリシアだけではなかったのだ。



(お帰りなさいキーアちゃん。凄く嬉しそうね?)
(やっぱり二人を行かせて正解だったな)
(うん!それにね、今日はワジとアリシアがキーアのパパとママだったのー)
(へぇ……、えっ!?)
(おうおう、どういうことだ、ワジ?俺にちゃんとくわーしく聞かせてくれ)
(やだなぁ、言葉通りの意味に決まってるじゃない)
(……もう疲れた……)
(アリシアさんも大変ですね……)


―――――――
フリリクより『キーアの授業参観』です。
よく考えたら見た目も似てるといわれてもおかしくないなぁ、と思ったので誰かに言われて慌てふためく姿を書きたかったんです^^
家族にあまり縁がない二人に偶にはこんな日があってもいいですよね。

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