カタリナ

02

波打ち際で遊んで魔獣を誘き出す、言葉で言えば簡単かもしれないけれどアリシアの気分は最高に落ち込んでいた。ただでさえこうも露出する事が好きではないのに、変態な魔獣相手にわざわざ曝け出しに行くなんて如何なものか。それに、問題は至極楽しそうにしているワジだ。
そもそも更衣室に来たのはパーカーを回収するためだったのに、結局また水着に着替えている。浜辺で魔獣を誘き出すために午前使っていたビーチボールで遊んでいた(八つ当たり紛いに威力は抑えてないのに平然とした顔で返される)のだが、なかなか魔獣は現れない。相当警戒されているのかもしれない。


「……それにしても魔獣はなかなか現れないわね」

「まあ、一気にこれだけ人が居なくなった中、二人で遊んでたら疑うよね。だったら疑われないようにすればいいんじゃない?」

「は……っ、な、なにし…!?」


手に持っていたボールを離したかと思うと素早く間合いを詰められて腕を取り、抱き締めてきたものだから、思考が止まる位に頭が沸騰して血が上り、突然の事態に反応し切れなくて身体が硬直する。
何度かこういう場面があったような気がするが、今回は訳が違う。お互い水着で、しかもアリシアはビキニだから冗談では流せないほどに密着していて、パニックを起こしかけているアリシアに可愛いなぁ、と零すと耳元に口を寄せた。


「フフ、燃えるじゃない。誰も見てない中、二人きりでビーチなんて……ナニがあってもおかしくないよねぇ」

「ばば、ばか言わないで!」

「おっと、残念」


耳を押さえて勢い良く離れ、ビーチボールを手に取りそれをワジに向かって投げつけた。煩い位に早い鼓動が耳に響いて動揺している中、冷静さを完全に失っていたアリシアは何時もならば直ぐに気付いてもおかしくない、真後ろに近付いてきていた波紋に寸前まで気付かなかった。
まずい、と振り返ろうとした瞬間には後ろで止めている布が切られたのが分かり、それと同時に前を押さえてその場に屈みこんだ。やる前に腹は括っていた筈だけれど、ワジの目の前でというのは恥ずかしさを通り越して頭が真っ白になる。


「ひゃああ!?」

「っ、出たか……!アリシア、これ着て」

「それ、何時の間に…!っ……」

「アリシア?」

「いいから早く追って!」


ワジが投げ渡したのは忘れ物として取りに来ようとしていたパーカーだった。それを着て浜に戻ろうとしたのだが、背中に走った痛みに手で押さえると水とは違う濡れた感覚がしたのが分かったが、アリシアは犯人を逃がさない為にと平静を装ってワジに指示を飛ばす。
アリシアの異変を感じ取ったが、ワジは先に行くよ、と声を掛けて砂浜に逃げ出した魔獣を追いかけた。

アリシアも浜辺に戻り、手すりに掛けてあった服に素早く着替えて武器を手に取り、魔獣が逃げ込んだ先に向かったのだが、大分戦闘が進んだ後だったから少々面食らった。なんか、撃退するのやけに早くない?
逃げた魔獣の数はどう見ても一匹だったけれど、仲間が居たのか五匹を相手にしている。住処を追われた魔獣が集団で腹いせに犯行を繰り返していた、という所だろうか。


「ワジ、手伝うけど、」

「あぁ、いいよ別に。もう終わるから」

「え、」


そう言うとカードが空を切り、同時に地面を蹴ったワジが魔獣に回し蹴りをして吹き飛ばした所で「終わりかな」と呟いて振り返った。割とサポートに回り気味なワジにしては随分と熱が入っていたような、と驚きながらもアリシアも武器をしまって深く息を吐いた。ワジにお疲れさま、と言おうとしたのだけれど、彼の表情が少し険しかったから目を丸くする。


「アリシア、怪我は?良かったら治すけど」

「え?あぁ、爪が少し引っかかった位よ。……それに、あまり使いたくないんじゃないの?」

「……まったく、痛い所を突いて来るね。でも治療しないわけにはいかないし、手当てするよ。背中だったら届かないじゃない?」

「そりゃまあ届かないけど……ねぇ、何でそんなに楽しそうなの」

「フフ、ロイドがエリィ達相手に日焼け止め塗ってた気持ちが分かるよ。いい物もあと少しで見れそうだったんだけどね。まあ見えそうで見えないって言うのも男心を擽られるしいいかな」

「っ、バカ!」


意味深な発言に加えてその笑った顔にアリシアはビーチボールを投げ付けて悪態を付くのだが、まるで効果が無い。煩悩に呑まれるイメージは無い方なのに、どうしてこういうことばかりをさらりと平気で言いのけるのか。……私の反応を思い切り楽しんでるんだろうけど。やっぱり、このペースを乱してくる所が苦手だ。


――――――
フリリクより『ワジと行う水着切り裂き事件の捜査』でした。
ワジさんのセクハラ発言はセクハラ認定されるかも分からない位にさらっとやりますよね。

- 21 -
[prev] | [next]