04
「……っていう夢を見たんだよね。あまりにリアルな物だったから流石に驚いたよ」
「でもそれって私がクロスベルに来る前にあったことでしょ?……というか、何でその夢でも若干私がワジに振り回されてるのよ」
「フフ、夢は願望っていうじゃない?」
しれっとした表情で語るワジにアリシアは呆れたようにため息を付く。何が願望なんだか、と文句を言っていたが今の話で引っかかる所があったのだ。口元を押さえて悩んでいると、考え込んでいることに気付いたのかワジは不思議そうに首を傾げる。
「何か気になることでもあったかい?単なる夢だとは思うけど」
「その記憶、私はもう既に特務支援課に入ってて、元からキーアの調査に来てた?のよね」
「あぁ、そうだね。そうであっても僕としてはまた楽しかっただろうけど。……一度目の拠点潜入を考えるとそうも言えないか……」
一度目の拠点潜入、それはロイド達特務支援課がエステル達ギルドとあまり仲良くならなかった結果、四人だけで行くことになり、暴走したヨアヒムによって殺されたというキーアによって消された過去の事実を示していた。アリシアが結成のタイミングに特務支援課に入っていてそれに巻き込まれていたら、彼女の戦闘能力が優れているとはいえどうなっていたか分からない。
けれど、もしもそんな場面に出くわしたら。その時は、ロイド達を切り捨ててたかもしれない。あの頃のアリシアはケビンを代表とする第五師団やレクター、総長以外の人間に何処までも『他人事』を貫き通せた。その時のアリシアがワジによってどんな変化をもたらされているかは未知数だから断言は出来ないが。
「……でも、導かれる未来の一つの可能性だったかもね」
「どういうことだい?」
「未来を変えようとしたキーアが、私が半年早くクロスベルに来るっていう因果を導いた場合の未来だっただろうなって」
「ふぅん、なるほどね。でもアリシアにキーアの因果律の操作って効くのかな。空間を統べてるとなるとまた僕らとは色々違ってくるんだろうけど」
「私の力も三属性総てるキーアにはねじ伏せられるわよ。でも、多分そんなことがあったら私の未来こそは変わっても、変わる前の過去もちゃんと覚えていて、クロスベルの時が巻き戻った事に気付いてたと思う」
「あぁ、そういえば最初からその事に気付いてたね」
クロスベル全体の時の歪みを、アリシアはクロスベルに来た時から分かっていた。もしもアリシアが半年前から来ていたらまた違う未来が導かれていたかもしれない。そしてもしかしたら、今こうして隣に居たなかったかもしれないと考えると肝が冷える。僕が言うのもなんだけど、お互い本当に数奇な運命を辿ってるよね。
「その場合、僕がどうアプローチかけてたのか気になる所だったけどね」
「……どうせその時も本気じゃなくてからかってるんじゃないの?」
「きっとその時も気に入っていたよ。僕も、ヴァルドもね」
「はあ……」
訳が分からないといった様子で生返事をするアリシアに堪えきれなくなって声を出して笑った。
もしもそんな経緯があったらどうなっていたか。特殊な経歴を持ちながらも正体や目的を隠し特務支援課に潜り込んだ自分と似たような存在に興味を示していた筈だ。ヴァルドも勿論気に入っていただろう。結局感情の行き着く先は同じだったかな。
――――――
リクエストより『もし黒の競売会に参加していたら』です。
ガルシア戦前で切ってしまいましたが、文句言いながらもきっと二人無駄の無い動きでお互いカバーするんだろうなぁ、っていうちょっとした考察です。
あと、キーアの因果律操作にもし巻き込まれていたら、も兼ねました。そのときはまた別の問題も色々発生しそうですね……(主にレクターやレン)
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