ag_short | ナノ

「おー、おかえりー」
「、……」
「な、なに。え、何!?」

私を見るなり眉間に皺を寄せた沖田に思わず身構える。この顔は何か怒ってらっしゃる。身の危険を感じる。

「世那、」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーー!!」
「……」

ヒィ、と頭を抱えてしゃがみこむ。けど、予想していた痛みは無い。そろそろと顔を上げると、沖田は眉間に皺を寄せて小さく溜息をついた。

「来なせェ」
「はい…?」







ピピッ
合図の音に脇に挟んだ体温計を引き抜いて表示窓を覗く。

「あり?」

沖田が無言で差し出した掌に、それを乗せる。

「なんで分かったの?」

小さな窓には、37,8と表示されていた。沖田がハアアと深く溜息を吐く。

「自分で気付かねェ程バカだったんだねィ」
「そんなこと言われても」

呆れたように言う沖田に、ムッとして答える。

「顔赤くなってらァ。只でさえ不細工なのに更に不細工に…」
「もうちょっと労わって」
「はい、おやすみなせェ」
「え!?私今から食堂に行ってお腹を満たそうとっぶふ!」

後頭部に沖田の手のひらを感じた瞬間、布団がハイスピードで近付いて慌てて目を閉じたが、口は間に合わなかったようだ。

「むが、もが」
「寝ろ」
「うー…」

少しの間抵抗したけど、相手は男で、しかも沖田で。敵うわけないと諦めて大人しくする。

「もう、分かったよ。寝ればいーんでしょ寝ればー!」

拗ねた様に言って布団に潜り込むと、沖田は部屋を出ていった。







「世那、起きてますかーィ」


スパン


「ちょ、せめて返事聞いてから開けてよ!着替えてたりしたらどうすんの!」
「目が腐るヤメロ」
「いや、あの、それ酷くない?私病人なんだけ、ど…?」

ふんわりと香ってきた柔らかい香りに、視線は沖田の手元に移る。

「食いなせェ」

ズイ、と差し出された盆に、お椀が一つ。

「お粥?」
「見て分かんねーのかィ、テメェの目は節穴か」
「お願いもっと優しくしてあげて」

真っ白な粥の上に、梅干が一粒。

「寂しい…こんなの寂しい。夕食が2色だなんてー!」
「俺の飯が食えねーなんて言わねェよな?あ?」
「ヒィ!めめめ滅相も無い、標準語になってますよ沖田さん!食べます、もちろん!」

にっこりと笑みを浮かべる沖田の後ろに禍々しいオーラがしっかりと見えて、わたわたとレンゲを手にとって口に運ぶ。

「ああっつ!やけど、やけどした…」

熱いのは当たり前だろという沖田の蔑むような目と舌に痛みに涙目になりつつ、今度は冷ましてから口に運ぶ。

「あー、おいしい。なんか癒されるわー」
「当たり前でさァ」

元気だと思っていたものの、お粥がこんなに美味しく感じるなんて、やっぱり体は弱っているのかもしれない。優しい味にじんわりと体が温まる。

「あれ、…え?ええー!?」
「何ですかィ、耳障りでさァ」
「お、俺の飯?」
「あァ」
「俺の?」
「そうでさァ」
「お、沖田が作ったの!?」
「そういうことになるねィ」

カランと音を立て、レンゲが器に落ちる。

「な、な…」

沖田が、あの沖田が、私のために粥を作ったと。

「まさか…」
「なんですかィ」
「なんか入れたでしょ!?正直に言って、早く言って何入れたのォオ!!」
「ハァ?何失礼なこと言ってんでィ、俺はそんな鬼畜な奴じゃありやせん」
「いや超が付くほど鬼畜でしょ!?鬼畜の王様でしょ?何白々しいこと言ってんだー!」
「この粥お前の顔にぶっ掛けてやろうか」
「ごめんなさい黙りますすいませんでした」

眼光にやられて思わず土下座。私病人なんだけどな。

「面倒くせェ」
「ああ!私の食料が!」

沖田が私の手からお椀を奪う。疑ってかかっていた物だが、盗られてしまうとまた別だ。沖田を恨めしい気持ちいっぱいで見つめる。当の沖田はというと、気にした素振りもなく、レンゲに取った粥をふうふうと冷ましている。

「もう疑わないんでそれ下さい…」
「ほれ、食いな」

ズイ、と差し出されたのは今度はレンゲ。その行動にまた身構えた。

「今度は何企んでんの…?」
「もう疑わないって今言ってたのはどこのどいつでさァ。俺の厚意を無碍にするんですかィ、あーあーよく分かりやした」
「とんでもないですごめんなさい」

よく言う、棒読みのくせに!でも背に腹は変えられない。おずおずと口を開け、一口。
適度な温度のそれは、普通のお粥。そのことと、その優しい味にホッとする。

「風邪か何かも分かんねーんで薬は出しやせん。明日自力で医者行け」
「はーい」

結局沖田に全部食べさせられたけど、お腹は満たされてすっかり満足だ。体もポカポカと暖かい。

「じゃ、今度こそおやすみなせェ」
「うん、おやすみー」

よいしょ、と立ち上がって部屋を出て行く沖田の後姿に、思わず口角が上がる。

「ねー沖田」
「なんでィ」

顔だけこちらを振り返る沖田は、私の顔を見て片眉を上げる。

「明日やっぱ病院いいや」
「は?」
「起きたら、治ってる気がする」
「寝言は寝て言うもんって知らねェのかィ」
「知ってますー」

口を尖らすと沖田は怪訝な顔をして、何かと聞いてくる。

「沖田が優しいから」
「は、」
「明日は槍降るなって思ったけど、ちょ、待って人の話は最後まで聞くのがマナーでしょー!?」

刀に手をかける沖田に、急いで両手でストップを示す。

「半分は何かしらに効くでしょ、ほら、ね?」

慌てて先を言うと、沖田は怪訝な表情を深めた。

「何言ってんでィ」
「…薬の半分は優しさなの知らないの?」
「……」

あんなに有名でしょと続けると、沖田は呆れたような顔で何かを呟いた。

「え、なんて?」
「なんでもねェよ。じゃァな馬鹿」
「馬鹿じゃない!だって風邪ひいてるし!」



(そりゃ鎮痛剤でィ、馬鹿ヤロー)

あなたはお薬



12/07/08

総悟お誕生日おめでとう!

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