氷炎、湖面に浮く。 | ナノ


「は?アラシヤマ、○○くんのこと好きなんじゃないだらあか?」

能天気忍者の言葉につい飲んでいた水を吹きかけてしまった。
放課後、夕食を食べ終えて自分の部屋に戻ろうとした時、シンタローとバカ2人、そしてコージに呼ばれ、正直な話不本意ではあるが食堂に残り5人で雑談をすることになった。
○○ちゃんは、やり残していた課題があると言って一足先に部屋へ戻ってしまった。
会話を続けているうちに○○ちゃんの話になり、ふいに能天気忍者の爆弾発言に反応してしまったのだ。

「ゲホッ…すっすすす好きって、なんどすの…っそっそっそりゃ、友達としてはすすす好きどすけど?」

「いや、あからさまに動揺しとるべ?」

「あんだけわかりやすけりゃ誰だって気づくよな」

「あれで隠してるつもりなら神経疑うっちゃよ」

「○○も○○でアラシヤマにベッタリじゃけんのお!」

「なっ…あっあんさんら口揃えて…!○○くんとはただのお友達どす!それ以上でもそれ以下でもあらしまへん!」

無意識に立っていたらしく、どかりと音を立てて座る。4人は相変わらずニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていた。

「ふぅーん…?じゃあよ、○○の笑顔とか行動ひとつひとつにドキッとしたこたあねえのか?」

「そないなことっ…ない、わけでは、あらしまへんけど…」

「○○くんがほかの男と喋ってるのを見てむかっとしたことは?」

「…あり、ます」

「○○と一緒にいてもっと傍に寄りたいーとか思ったことは?」

「……」

熱くなった顔を隠すように小さく頷くと、輩共は三日月をさらに深くした。

「それって〜やぁーっぱり○○のこと好きなじゃないんだべか〜?」

「やーっとアラシヤマも自分の気持ちに気づきよったか!」

「つーか、本人が気づいていなかったことが1番驚きだけどな」

「だっだから、そんなんじゃ…そんなんじゃあらしまへんって言うてますやろ!」

机を強く叩くと、コップの中の氷が音を立てて揺れた。そんな自分を横目にいやらしい笑みを浮かべる4人に、小さくため息を吐く。

「そういや、コージも○○くんのこと好きなんか?」

「ん、おお!わしも好いとおよ!あんなええ女他にはおらんぐふぅっ…」

「この脳タリンっ声がでかいどす!」

禁止ワードを口にしたコージに思い切りボディーブローを食らわせる。
慌てて周りを見渡すが、どうやら誰も聞いていなかったようだ。ホッと息をついて隣で腹を抑えるでくのぼうを睨む。

「んだよ、○○のやつ、男2人たぶらかして呑気に過ごしてんのかよ。すげえ神経だな」

「○○はどのつく鈍感だけ、こいつらが自分を好いてること気づいてねえんじゃねーのけ?」

「そうじゃろうなあ。ま、そういうとこ含めて惚れとるけえ、いつか絶対振り向かせてやるけん!」

「うわっコージベタ惚れやないか…その気持ち悪い笑顔やめえや」

ゲラゲラと笑う輩共を横目にガタンと立ち上がり、部屋に戻ると言って振り返らずにそのまま食堂を出た。
先ほどのコージの言葉と、○○ちゃんの笑顔が交互に脳裏をかすめ、胸の奥がモヤモヤとし始める。ああ、まただ。この嫌な感じ。このモヤモヤを感じている時、自分がいつも考えることは、彼女に会いたいということだった。

部屋の扉を開けると、いつも被っている帽子を脱ぎ、机に向かってペンを走らせている○○ちゃんの姿があった。そんな姿にホッとすると同時に、奴らの発言を思い出して顔が熱くなったのがわかった。

「あ、アラくん。おかえりなさい」

「あ…ただいま、どす」

蚊のなくような声でそう返すと、○○ちゃんは首を少し傾げながら立ち上がり、そばに寄って来たのでつい条件反射で身を引いてしまう。
しかし彼女はまるで逃げないように自分の左手を掴み、額に手を添えた。
彼女の顔がすぐ近くにあるという事実と、額のひんやりとした感触に、顔から火が出たのではないかと思うくらい熱くなった。
だめだ、自分て思っているより、あいつらの言葉を鵜呑みしてしまっているようだ。ドキドキと心臓の音が痛いくらい鳴り響いている。彼女に、聞こえていなければいいけど。

「アラくん、顔赤いし、熱い気がする。熱あるんじゃない?大丈夫?」

「え…あ…熱なんか、出てまへんし、大丈夫どすっ○○ちゃんが気にすること、ない、おます…」

しどろもどろに答えると、○○ちゃんは少しムッとした顔になり、自分の手を引いてベッドに無理やり寝かせる。突然の彼女の行動に、瞬きを繰り返すことしかできなかった。

「嘘。アラくん、私に隠し事してる時いっつも目逸らしながら話すもん。本当は熱でてるんでしょ。
今日はもう寝てていいよ?後で氷袋持ってくるね…あ、ドクターから解熱剤貰ってこようか?」

袋を取り出しながらそう言う彼女に本当に平気だから、と告げるが、口を尖らせ呆れたように息を吐くだけだった。
氷袋を額に乗せ、何かあったら何でも言ってねと告げ、彼女は再び机に向かった。心配症すぎる彼女も彼女だが、自分も相当隠し事が苦手なタイプらしい、と少し反省をする。
氷袋を枕の横に置き、先程彼女が触れた所に手を重ねる。手袋越しではあったが、自分とは全然違う小さく、冷たい手だった。
いつも触れているはずの手をいやに意識してしまい、また顔が熱くなってくる。
もしかすると本当に自分は何か病に侵されているのかもしれない、と思い、氷袋を握りしめ少しでも早くこの心臓と音が静まればいいと思い目を閉じた。


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