氷炎、湖面に浮く。 | ナノ


セミの鳴き声と、ちゃぷん。というキヌガサくんが顔を出す音が聞こえる。キヌガサくんはこちらをやや羨ましそうにこちらを見つめていた。
そういえば、もうすぐプール開きが始まるが、キヌガサくんはどうするのだろうか。

私は夏が苦手だ。さらにいうと、夏の暑さが苦手だ。おそらく、体質が関係しているのだと思う。どうも夏の暑さには耐えられなかった。

夏になり特別変わったことといえば、暑さに強いアラくんの調子が全体的によくなったこと。私と同様暑さに慣れていないミヤギくんが常にバテていること。それと、

「はぁー…○○はひゃっこいのぉ…」

コージくんの、スキンシップが激しくなったこと。

確かに、こちらもおそらく体質が原因なのだろうけど、私の体温は全体的に低い。それが気に入ったらしく、コージくんはことある事に私をこうやって抱きしめてくるのだ。
コージくんは食べ物が美味しいから夏は好きだ、と言っていたが、暑いのは得意なわけではないらしい。

コージくんの腕の中でもぞりと身じろぐと、コージくんは自分のほっぺを私のほっぺにぴったりとくっつけ、まるで猫が甘えるようにすりすりと頬ずりをしてきた。やわこいのー、という言葉と、顔の近さについ赤面してしまう。

「こ、コージくん…近い…」

「…だめかのぉ?」

「いや、ダメってわけじゃないんだけど…恥ずかしいよ…」

そう告げると、コージくんは人懐こい笑顔を浮かべ、さらにら身体をくっつけてくる。恥ずかしさと暑さのせいで少し頭がふわふわしてきた。

コージくんが風邪を引いて以来、何故かアラくんとコージくんは喧嘩をすることが多くなった。しかも、喧嘩の内容は大概私が関係しているのだ。
二人のそんな関係に、私は疑問を抱くことしかできなかった。

「…ねえ、コージくん。どうして最近アラくんと喧嘩するの?」

素直な気持ちをぶつけると、コージくんはムッと口を尖らせ、ぎゅっと腕に力を込めた。

「アラシヤマとは今はライバルじゃ。絶対負けられん勝負をしとるけえのお、喧嘩しちょうのはそのせいじゃけん」

「そ、そうなの?勝負って一体…」

「コージはんっ○○ちゃんに何してはりますんやっ!」

バン!と音を立てプールの扉が開かれた。そこにはまさに鬼の形相のアラくんが立っていた。
横から小さくだが、コージくんの舌打ちが聞こえた。

「何って、友達としてのスキンシップじゃけえ、アラシヤマにはなーんにも関係ないけんのお」

「スキンシップというよりは保冷剤の気分だよコージくん…」

「そないにくっついたら○○ちゃんが暑さで溶けてしまいおす!さっさと離れぇー!」

「いやあー!アラくん発火しないで!暑いッ!」

私たちに近寄ってきたアラくんはぼぉ、と体に炎をまとった。さっきまででも十分暑くて結構つらかったのに、ああ、頭がくらくらしてきた。

「うおっこんな至近距離で発火するたぁどんな神経しとるんじゃ!キヌガサくんが焼けてしもうじゃろ!」

「はぁ?キヌガサくんって誰…ううわっなんやこの馬鹿でかい魚っ!?気持ち悪っ」

「んなぁっキヌガサくんをバカにすんなーっ!キヌガサくんはそんじょそこらの鯉とは違うんやど!?のぉ○○!……○○?」

「え、○○ちゃ…ああっ!?バテてらっしゃる!?」

「なにぃっ!?○○!大丈夫け!?」

「あんさんがいつまでもそないな状態でおるから○○ちゃんがバテてしもうたんや!」

「ぬしゃあが発火するから○○がこーなってしもうたんじゃろ!」

「なんどすってー!」

「なんじゃやるんか!?」

「わかったから……どっちでもいいから………たすけて…」

結局、私が涼しい所に運ばれたのは、二人の口論が終わってからだった。


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