地球へくるまで


「主任と助手さん、ここがあなた方のラボですよ」

第3戦艦タイタニア内の研究室を見てクイックミクスは驚いた。
思わず、隣にいた自分の上司である科学参謀副官のフレイムウォーを何度も振り返ってしまったくらいだ。

「…マジかよ、おい」

肩にかけているブーマーも驚いたのか、いつもの威勢がない。いつものレーザーライフルの形のまま黙ったままだ。

それほどに、クイックミクスに与えられた設備は多かった。
フレイムウォーは口元に手をあて肩を竦めた。

「本当に羨ましい物ばかりです。今回の任務には分析化学が欠かせません。参謀か、副官のどちらかが同行する事になっていたのですよ」
「あ、副官のオバハンは化学苦手だもんな〜」

フレイムウォーはブーマーを見て眉を顰める。クイックミクスは慌てて、ブーマーを小突いた。ブーマーが、『いてっ』と声をあげた。
フレイムウォーはそれを見てため息をついた。

「まぁ、確かに私の専門は生物学ですからね。ちなみにご存知の通り、参謀の専門は量子学です。どちらも化学ではないので、とりあえず参謀殿が行かれることになったんですよ」
「そうだったんですね…」
「へぇー。おい、でもよ」

クイックミクスが、素直に相槌を打っている間にも、ブーマーがぴょこぴょことクイックミクスの背で揺れる。
クイックミクスとフレイムウォーはブーマーを見た。

「確か、参謀サマは界面化学が壊滅的だったろ?そんな奴がよぉ、分析化学なんかできんのかねぇ〜」
「ちょっと、ブーマー。だから、私達が呼ばれたんだって…」
「けっ!オイラはゼータ電位も即答で説明できネェ奴と仕事はゴメンだね」

フレイムウォーが眉間に手を当てた。クイックミクスはブーマーをぎゅっと握ったが、ブーマーはお構い無しだ。ぎゃあぎゃあ騒ぎ続けている。

「大体よぉ、ウチのクイックミクスはそんな身体が強くねぇんだ。だから、内勤で頼むってオイラから、なーんどもオネガイしてんだろうがよぉ!それが、この前だって、地質調査に連れてかれたりしてんだ。そりゃあ、同行してるオイラがちゃーんとロボットモードになれるなら、ちったぁイイがこのザマだ。もう少し、考えてくれても…」
「ブーマー!!静かにしてくれよ!!」

ブーマーはピタリと黙った。クイックミクスがギロリとブーマーを睨むと、ブーマーはレーザーライフルの姿のまま、ふるりと揺れた。

「私が行きたいって言ってるんだから、いいんだよ」
「確かに、彼が希望してきたんですよ?保護者さん」

フレイムウォーがクイックミクスの肩にかけられているブーマーに近寄り、そっとその銃頭を撫でた。ブーマーは詰まらない様子で「ちっ」と舌打ちをした。

「ブーマーさんがクイックミクスに様々な助言を下さっているのは我々もよく知っています。同時に本当に心配なさっているのも」
「…オイラはこんなナリで口しか使えねぇからな」

ブーマーが不貞腐れているように言ったので、クイックミクスはブーマーを手元に寄せようとした。しかし、フレイムウォーにそれを制された。
フレイムウォーが、はっきりとブーマーに微笑みかけた。

「だとしても、ブーマーさんがいればクイックミクスは大丈夫ですよ。これまで、一緒に仕事をしてきたからよく分かります」

ブーマーは黙りこくってしまった。クイックミクスがオロオロしていると、フレイムウォーがそっとクイックミクスの背を押した。

「…さぁ、そろそろ出港ですよ?」

クイックミクスは慌てて頷いた。走り出そうと、一歩を踏み出した時に、ブーマーがぼそりと呟いた。

「ババア…いや、恩師に礼を言いな」
「まぁ!またババアとは失礼な!!」

クイックミクスが振り返ると、フレイムウォーは腰に手を当てて戯けて怒っていた。クイックミクスは片手を出した。フレイムウォーの両手がそれを包むようにしっかり掴む。そして、その手を祈るように自身の額へ持っていった。

「科学参謀は気難しい方です。大変な事も沢山あると思いますが、新しい発見も沢山あるでしょう。お二人にとって、良い任務になることを本当に、心からお祈りしています」

フレイムウォーが瞳を閉じてる。クイックミクスも瞳を閉じ、ブーマーも静かになった。
フレイムウォーが落ち着きを払って言った。

「プライマスの御加護がありますように」


mae ato
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