そのひととなり


床に食事が投げ出された。
クイックミクスはそれを見てから、こっそりとブーマーの顔色をうかがった。
いや、うかがおうとしたと言った方が正しい。ブーマーはすでに部屋にはいなかったのだから。

クイックミクスは床に散らばった簡易エネルゴンスティックを拾い集め口に頬張った。
隣の部屋からは、ブーマーの話し声がする。きっとペットのターボフォックスのベンにゴハンをあげているのだ。

クイックミクスはむしゃむしゃとエネルゴンスティックを咀嚼しながら、ブーマーの去った扉の方を見つめた。クイックミクスの自室(と呼べるのかはわからない物置)は、灯りがつかない。この前、壊れてしまったとブーマーが言っていた。

最後のエネルゴンスティックを嚥下したクイックミクスは扉の下にあるわずかな隙間から隣を覗き込んだ。廊下でターボフォックスのベンが楽しそうに、ブーマーの足下にまとわりついている。
クイックミクスはそれをしばらく見ていたが、今日軍校で宿題が出たことを思い出してぼろぼろのバックを取り出した。バックを取り出すと、部屋の埃が舞い上がった。くしゃみが出て、鼻からオイルが垂れた。

クイックミクスは慌てて、鼻をかめそうなものを探す。
バックの中から、先月とった『宇宙航空学学徒特別奨励賞』の賞状が出てきた。クイックミクスはそれで鼻をかんだ。

扉の隙間からわずかに漏れる光を頼りにクイックミクスは宿題に取りかかった。
簡単すぎて5サイクルで終わった。

明日は休校日で暇だ。
友人から遊びには誘われているが、遊びに行くと、今度こそ軍校へ行けなくなるかもしれない。

クイックミクスは宿題をカバンに片付けて、自室のすみで膝を抱えて座り込んだ。

キラリとレーザーライフルが光る。

レーザーライフルが喋った。

『あーあ、ダメだろ!!せっかくかっぱらった賞状で鼻をかんじゃ!!』

レーザーライフルは朗々とした声で話しかけてきた。
クイックミクスはレーザーライフルを見つめて答える。

「でも、ブーマーに見せたら捨てとけって言ってたよ」
『バーカ、口下手なんだよ。分からねぇのかよ』
「そうかなぁ。へへへ…」
『そうさ、この前、お前をヘラで殴りつけたのも、熱湯を頭からかけたのも、排オイル飲ませたのも口下手だからさ』
「ふーん。よかったぁ」

クイックミクスは微笑んだ。

「私が悪いからじゃなかったんだ」
『もちろん。ちぃっとタイミング悪いだけさ。ブーマーは、お前のこと、大好きだからさ。だって、この前なんか賭けに勝ったから、新しいコンソール買ったじゃないか』
「へへへ。大好き…かぁ」

クイックミクスが両膝に頭を潜り込ませて笑う。

「本当かなぁ」
『あぁ、間違いねぇよ』

レーザーライフルがかたりと倒れた。
そして、扉ががちゃりと開く。
小柄な機体がクイックミクスを見下ろしている。クイックミクスは慌ててニコニコしながら立ち上がった。
クイックミクスが小柄な機体を見下ろすような形になり、小柄な機体は顔をしかめた。が、今日は虫の居所が悪くはなかったのか、彼はクイックミクスに何をするでもなく声をかけた。

「ベンの散歩に行ってくるから、掃除をしておけ」

それだけ言うと、ブーマーは一度も振り返らず去って行った。
クイックミクスはブーマーが去ったのを確認してから、さっと自室から出て明るい廊下を歩いた。食べかけのエネルゴンがあり、思わず涎が出た。手を伸ばそうとすると、自室から声がした。

『おい!卑しいことするなよ!!恥ずかしいだろ!!』

クイックミクスは自室を振り返って、答えた。

「ごめんよ、ブーマー」

mae ato
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