地球へくるまで(体)


今日のアーク28は大騒ぎだ。

たった一人の航海士のスプラングが倒れてしまったのだ。
ファイアスターが言うには、60メガサイクル連勤もしたら当然らしい。
トラックスがコントロールルームの記録に目を通す。
スプラング、サンストリーカー、ワーパス、トレイルブレイカー、スプラング、サンストリーカー、トレイルブレイカー、スプラングの順で組んだはずの見張りの予定が変更になっていた。
8人分をスプラングが全て変わっていた。

作業部屋に篭りっぱなしのトレイルブレイカーと鬼の霍乱で病気になってしまったワーパスは(といっても、2回目なのだが)さておき、その場に居合わせた身も心も健康なサンストリーカーは思わず目を泳がせた。
トラックスとアラートの呆れた目、ファイアスターとハウンドの厳しい目。

サンストリーカーは慌てて操縦室へ走って行った。

それが、45サイクル前のことだ。
今、操縦室ではラジオの音が響いている。

『…黄色のあなたの今月のラッキーアイテムは洞窟だ!!こいつはぁ。珍しいものが出たもんだ』

「は?洞窟ってスポットじゃね?」

操縦室で見張りをしていたサンストリーカーは、思わずDJに突っ込んだ。
背後から手が伸びてきた。
サンストリーカーは慌ててその手をつかんだ。

「姉さん、消すなよ!」
「いくら自動操縦とはいえ、ラジオを聞く奴があるか。サニー、お前は反省しろ」
「待てってば!」

ラジオの電源を落とそうとするアラートを、サンストリーカーが抑えようとする。

『黄色のあなたのキーアイテムは…』

「もう少し待てって!姉さんの聞いてないから!」

サンストリーカーがあまりにも必死になるものだから、アラートは苦々しそうにしながらも諦めて腕を組んだ。
サンストリーカーはほっと胸を撫で下ろした。

「訳がわかんないこと言うなよ。大体、何だい。これ。」

迷惑そうにするアラートに、サンストリーカーはただただ驚いた。

「ボディカラー占いも知らないの?すっごい流行ってんのにさ」
「生憎、流行には疎いんだ」
「あーあ。だからもてないんだよなぁ」
「な、なんだと…!!」

やけにムキになるアラートをサンストリーカーはニタリと笑った。
操縦席を立ち、執事がするようにアラートを席へ仰々しく導く。

「ちょっと聞いてみれば?」
「……ふんっ」

どっかりとアラートが席につく。
ラジオからは底抜けに明るい声が響く。

『お次は、赤いボディのあなた!』
「ほら、姉さんじゃん」
「私は私的には白だと思うのだが」
「姉さんはファイアスターより赤いだろ」
「むむむ…そうかなぁ」

アラートが自分のボディを見ている。赤と白の比率は3:1といったところか。

『…運勢は並だから、いつも通りだな。じゃあ、次!!』
「並ってなんだよ」
「姉さん、わかってないな。こういうテキトウさが受けるの」
「そうか…」

アラートが不満げに首を傾げる。サンストリーカーは軽いため息をつくと、アラートが振り返る。

『青いあなただ!!ラッキーアイテムは…』
「トラックス少佐じゃないか」

アラートがラジオに手を伸ばし、少しだけボリュームをあげた。
アラートは、興味がわくとすぐに行動に出る。サンストリーカーはアラートのそんな所が好きだ。
操縦席のデスクにサンストリーカーはあごをのせて呟く。

「ロータストームもだね」
「いや、中佐は緑だよ」
「なぁに言ってんの。緑はハウンドみたいのだよ」
「ロータストームは緑っぽい」
「でもさ」
「緑だ」
「……まぁ、微妙な色だからね」

ボディカラー占いはそのウリのテキトウさを醸し出しながら、テキトウに進んでいく。
サンストリーカーとアラートも、テキトウに誰は何色だのあの色だのと他愛もない雑談をする。
黒は、トレイルブレイカーとウィンドブレード。
白は、ファイアスターにチェイス、ミネルバ。
緑は、ハウンド、バルクヘッド、クロミア。

「サニーが言っているのはさっきから女の子ばかりじゃないか」

アラートはラジオを睨み、サンストリーカーはデスクに顔をつっぷせる。

「まぁ、男だからね」
「そういうもの?」
「そういうものさ。緑はライザックに…」

アラートは呆れてサンストリーカーを無視した。サンストリーカーはへらへらと笑っている。
つまらなそうにアラートはラジオを聴く。

『紫のあなたは、』

アラートが、ハッとしたように、呟いた。

「スカイワープだ。」

サンストリーカーの手が、ラジオのチャンネルを変えた。
急にニュースになる。

「なんだい、最後まで聞かせてくれよ」
「……もういいよ」
「そうかなぁ」

アラートがサンストリーカーから顔を背けた。
サンストリーカーは黙って見ているだけしかできない。

「皆、帰ってこないって言うけど」

アラートは操縦席のイスに座ったままオプティックを暗くした。

「いつかまた会える気がするんだ」

サンストリーカーが顔をしかめて黙っていると、また青いオプティックに光を戻した姉がラジオに触れて電源を落としてしまった。
急に静かになった。

「俺はどこにもいかないよ」

サンストリーカーがぼやくと、アラートは振り返って笑った。

「そんなこと、知ってるよ」

アラートの笑顔を見て、サンストリーカーは胸を締め付けられた。
少し、自分のキャラと外れたようだ。戻さないとと、サンストリーカーはにっと笑った。

「あ、でも。占いでラッキーアイテムが洞窟だから、洞窟には行こっかなー」
「仕事中に行くなよ」
「どうしよっかなー?」

姉弟が騒いでいると、操縦室の扉が開いて、スプラングとファイアスターが入ってきた。
騒ぎ続ける姉弟を見て、スプラングは肩をすくめ、ファイアスターは眉間に手を当てた。

地球まであと、もう少しだ。









『おっと、間違いがあった!黄色のあなたは、アンラッキーアイテムが、洞窟だ!これは、相当アンラッキーだから、絶っっっ対に近寄るなよ〜!!』

mae ato
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