そのひととなり

トレパンのブレインサーキットは3人のトランスフォーマーからなっている。


1人目は、サイバトロン将校。
大層賢い将校で、その賢い作戦で何度も軍を勝利に導いた。しかし、いかんせんインテリ過ぎて、脳まで筋肉であるサイバトロンでは嫌われていた。そして、とうとうある日、仲間に裏切れてデストロンに売られてしまった。
デストロンに捕まった彼に出来ることといえば、部下のジェットファイアーを逃がしてやるくらいだった。
『信じた俺がバカだった。俺はピエロだ』
彼は最期にそう言い残して自殺した。


2人目は、惑星セイバートロン星のケイオンの民間人。
日用品の小さな部品を作る職人で、細々とのんびり生きていた。しかし、ケイオンが突然戦地と化して、彼は着の身着のまま逃げ出した。サイバトロンには物品徴収され、デストロンには殺されかけ、野盗には身ぐるみ剥がれる。散々な目にあった末に、ジェットファイアーと名乗る放浪者にとうとう殺された。
『どいつもこいつも皆不幸になれ』
彼は怨嗟の言葉を世界に吐きつけ、絶命した。


3人目は、名もなきデストロン兵士だ。
使い捨てとして作られたから、名前もなければ個性もない。片腕をなくして、彼は戦場のど真ん中で置いてけぼりを食らった。
一人でこそこそ生きていた彼は、行き倒れの白い大きなトランスフォーマーを見つけ介抱した。そして、数ヶ月匿った。元気になった白いトランスフォーマーを逃がしてやろうとした時に、彼はうっかり地雷を踏んだ。
『死なないで』
白いトランスフォーマーは大泣きした。でも、彼は笑うばかりだ。
『無理だト思ウよ』
白いトランスフォーマーの名前をジェットファイアーと言った。


ジェットファイアーは医療兵だった。
名もないデストロン兵士を蘇らせるため、ジェットファイアーは3つのブレインサーキットを用意した。
1つは、3デカサイクル前に自殺した上司。
1つは、3メガサイクル前に殺した民間人。
1つは、3ギガサイクル前に死んだ敵兵。
慎重に、丁寧に繋ぎ合わせる。
ベースは使い捨てのデストロン兵士。
不足は賢いサイバトロン将校。
繋ぎには行き摺りのエンブレムなし民間人。
ジェットファイアーは30メガサイクル粘って、手術を成功させた。


手術が終わり、デストロン兵士はむくりと起き上がった。
はて、ここはどこだろう。
目の前の男は誰だろう。
部下のような、人殺しのような、大切な人のような。
いや、その前に自分は誰だろう。


デストロン兵士は妖しく笑った。
「ネェ、僕ハ誰?」
ジェットファイアーは膝まづき顔中ぐしゃぐしゃにしながら、デストロン兵士に縋りついた。大柄な身体で小柄な者に縋るものだから、デストロン兵士は転びそうだ。
「君は、トレパン。トレパンだ。私のパートナーだ」


それから3週間後、ジェットファイアーはスカイファイアーというデストロンになり変わった。
また300ステラサイクル後、スカイファイアーはデストロンの医療参謀になった。

トレパンは、ひたすらにスカイファイアーについて行く。
責任、憎悪、慈愛。何が何やら分からないがついて行く。

今から30ステラサイクル前にスカイファイアーは少しオカシクなり始めた。
そして、3ステラサイクル前、第3戦艦タイタニアが改修された。



トレパンはスカイファイアーのお願いで、30分前に第3戦艦タイタニアに乗ることになった。

『デストロン戦艦の艦医だと?屈辱だ!』
『そろそろセイバートロンに返してくれよな』
『みンな、スカイファイアーの云ウことヲ聞いてアゲて』

トレパンの中の3人は、今日もてんでバラバラのことを考える。

スカイファイアーが瞳だけこちらへ向けて笑う。かれこれ33時間前からスカイファイアーの顔は笑いっぱなしだ。
「トレパン、また早く会おうね」
トレパンは首を傾げる。
そして、3人の思考から導かれる答えを紡ぎ出す。
「ソウダネ、スカイファイアー、会イタイネ」

mae ato
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