そのひととなり

デストロントリプルチェンジャーの身体を持ちサイバトロンを故郷とする。そして、デストロンの輸送参謀副官。
それがオクトーンだ。

彼の出自を彼自身は知らない。
意識が覚醒すると彼はサイバトロンだった。

デストロン出身者特有の赤い瞳をした彼はそれを青いバイザーで覆いながら、サイバトロン中央公文書院にある非常に小さな部署の主任として働いた。つまり、オクトーンはただの司書だった。
オクトーンはその人生に満足していた。サイバトロン最大の公文書院で働ける事に喜びを感じていたし、更にはそれを通じてサイバトロンを支えている事に誇りも持っていた。デストロンの赤い瞳をもつものの、オクトーンは自分は根っからのサイバトロンであると信じていた。

しかし、そうでなかった。

ある日突然に表れた青い瞳の軍警が現れこう言った。
『赤い瞳、デストロン野郎』
軍警に乱暴に奪われた青いバイザーが床に転がる。オクトーンは全ての権利を剥奪され監獄に叩き込まれる。
公式の尋問でも、目を覆いたくなる拷問でも、何度も繰り返される。
『赤い瞳、デストロン野郎』
持ち物を全て徴収された。友人への手紙を目の前で破り捨てられた。そして、サイバトロンのエンブレムを奪われた。

オクトーンは全くの冤罪だった。
しばらくしてから、オクトーンは解放された。しかし、瞳の色を明かされたオクトーンにサイバトロンでの居場所などありはしなかった。
オクトーンは割れた青いバイザーを自分の部署の前に置いてサイバトロンを去った。

オクトーンは手持ちの金で宛もなく船を乗り継いだ。オクトーンの端金が尽きたのはセイバートロン星の隣の銀河に属すフェリクス7という小さな星だ。

フェリクス7は完全にはサイバトロンの領域でなく半ばデストロンに属している。
さらに言えば、デストロンを含めた星の中でも一二を争う治安の悪い星であり、普通のデストロンならばまだしもエンブレム無しでは到底生きて帰れない場所である。

もちろん、そんな事をセイバートロン出身のオクトーンが知るわけも無い。サイバトロンの平和な都市部でしか生活した事がなかった彼はあっという間に人売りに捕まり、ある悪党に使い捨てのオモチャとして買われた。

オクトーンは何でもした。
今日1日を生き延びるためならば、恥も外聞もない。嘲笑と汚泥の中で1日1日を生きながらえた。

本来ならばここでオクトーンの人生は終わるはずだ。が、何の悪戯か彼はその悪党の商売相手である闇商人と出会い、その膨大な知識を買われ緑色の薄汚いオーブと交換されたのだ。

その闇商人の名はクロスカットと言った。クロスカットはその一帯を牛耳る男で小柄で物腰は柔らかいが、狡猾で抜け目なく人望の高い男だった。
そして、彼は青い瞳のトランスフォーマーだった。
しかし、力が全てであるデストロンではそんなことを気にする者はいない。何より、クロスカット自身が大のサイバトロン嫌いなので仲間内では一種のジョークにすら使われていた。
そのクロスカットの下でオクトーンは始めは古代文献の解読屋として働いた。しかし、マフィア抗争の援護や裏取引での交渉を繰り返す内に次第に地位を上げ、ついにはクロスカットの右腕と言われるまでになった。

オクトーンはクロスカットの下で悪事を重ねながら生きる事を嫌だとは思わなかった。むしろ、彼とともにフェリクス7で権力争いをする事が楽しいとすら思っていた。クロスカットが死ぬか自分が死ぬまではこの生活が続くと思い込んでいた。

ある日、いつも通りにクロスカットがオクトーンを呼びつけた。オクトーンは最近忍ばせていた諜報員がいい情報を持って帰って来たのだと足取り軽く彼のもとへ走った。
『元の星に帰りな、赤瞳』
ただ、クロスカットはオクトーンにフェリクス7を去るように告げた。
オクトーンはクロスカットが思っていたよりもずっと優秀だった。いつかはクロスカットを超えてしまうかもしれない。その前に、クロスカットはオクトーンを始末しなければならない。が、それには忍びない。
お互いの保身の為にフェリクス7を去れと言うのだ。オクトーンはしばらく考えてから、黙ってクロスカットの下を去った。昔オクトーンと交換された緑色の薄汚いオーブを彼に託してから。

それから、オクトーンはすぐにデストロン軍に入隊した。始めはただ単に身分を保証するものとしてデストロンのエンブレムが欲しかっただけだった。しかし、オクトーンは考え直した。
腹の内を探り合うのも、高い地位を望むのも、サイバトロン共を叩きのめすのも悪くはない。
オクトーンは一人で笑った。

それから、彼が輸送参謀副官の地位まで上り詰めるのはさほど時間を要さなかった。


デストロントリプルチェンジャーの身体を持ちサイバトロンを故郷とする。そして、デストロンの輸送参謀副官。
それがオクトーンだ。

彼は誰も信じない。

あの割れた青いバイザーがサイバトロン中央公文書院のある部署の一席で待ち続けていることも、あの緑色の薄汚いオーブがフェリクス7である闇商人の手に留まり続けていることも、彼は知らない。

mae ato
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