そのひととなり


今日から、君に手紙を書く。と言っても、長くは書かないから安心して欲しい。ちなみに、貯めて読んでもらっても毎日読んでもらっても構わない。
でも、いつか、読んで。


今日は、君がこの世にいることを知った。
驚いた。君は私の双子なんだね。
ねぇ、君は何をしてるの?
私はセイバートロンの軍校で警備上曹の訓練を受けてるよ。


おはよう。
君って朝は好き?私は好き。セイバートロンの朝は冷たかった大気が急に、カッと熱くなるから好き。そこら中から、夜の内に凍った物が溶ける音がする。セイバートロンの朝は、音と温度だ。どこかの星では、朝には空の色が変わる星もあるみたいだよ。
君と会ったら、それを一緒に見に行きたいと思う。


何も書くことがないから、級友について紹介するね。
軍校には警備曹長養成クラスは一つしかない。だからクラスの7人が私の級友ってこと。
インフェルノ。無口で腕っぷしが強い。
グルーブはクラスで一番ひ弱だけど、すっごく頭がいい。
ロールバーは居眠りの鬼で適当な奴。
バルクヘッドは怒りっぽいけど本当は優しい。
チェイス。堅物すぎるイケメン。
クロミアは私と同じ女性型。
スカイワープ。いつもバイザーをかけた嫌な奴。
かなり長くなっちゃった。今日はこんな所で。


今日はちょっとした事件だった。
スカイワープとバルクヘッドが喧嘩して、教室の壁に穴があいた。私がびっくりして教官のアイアンハイドさんを呼ぶと、喧嘩は止まったんだけど。帰りがけにスカイワープにどつかれた。
スカイワープなんか嫌い。
今日は、なんかごめんね。


今日は君にちょっとした贈り物を贈る。学校で昨日作ったライトサインだ。あんまり、上手くないかもしれないけど、喜んでくれると嬉しい。
あと、もしも、君がこれを読んでるなら、……ううん。何でもないんだ。


今日は、救助実技試験があった。
二人一組だったから、クロミアと組んだ。クラスには女ってクロミアと私しかいないからね。
クロミアは、すごく可愛くて頭もイイし気もきく。だから、インフェルノとロールバーはいつもクロミアのことばかり気にしてる。普通の女の子ってこんな感じなのかな?
君は、いったいどう?私の双子だからちょっとガサツかな。


実を言うと、私たまに写真を撮るんだ。
警備兵になるように作られた私だけど、警備兵以外だったら通信員になりたいと思う。通信員ってカッコイイ。なんか、真実を伝える正義の人って感じ。
あぁ、写真ばっか撮ってないで、ちゃんと警備兵になるように勉強しなくちゃ。


ねぇ、前に朝は好きだって言ったの覚えてる?
あの温度がガラリと変わるのが好きなんだ。あと、今日、朝で、もうひとつ好きなことに気づいた。
氷の溶ける音だけでなくて、皆の声が段々と聞こえて来ること。
君も耳をすませてみてよ。私の声も交じって聞こえるかもよ。
私も君の声を探してるかも。


今日はスカイワープに君宛ての手紙を書いているのが見つかった。驚いて隠そうとしたんだけど、取られちゃった。頭くる。なんなのあいつ。すばしっこいったら、ありゃしない。グルーブが取り返すの手伝ってくれたけど、逃げちゃった。
あ、これ、新しい手紙ね。


今日は、珍しく磁気雨だったね。
磁気雨の後って、たまに極光ができるの、君は好き?極彩色の層が揺ら揺らしてて綺麗だけど、ちょっと怖いよね。なんか、不確かな感じがして…。モヤモヤする気持ち、君は分かるかな。
双子だから、私と同じような気持ちになるの?
そうだと嬉しい。


こんばんは。
こんな事書くのも何だけど、最近やたらと視線を感じるんだ。全身洗浄をするために装甲を外した時、何故かそわそわする。
私の自意識過剰かな。なんか、怖いかも…。
君も、女だろうから、よく分からないけど、気をつけてね。


大ニュースだよ!!
この前の実技試験で、私が総合1位だった。クラスでなくて、軍校の学年で1位だよ!
アイアンハイドさんは、すっごく褒めてくれた。メダルをもらったので、君にも見て欲しい。メダルを一緒に入れるね。
いつか会った時に返してくれればいいよ。すごいんだから!!
ps.なんか、スカイワープがこの前の手紙返してくれたから、一緒に入れとくね。


今日は外出許可を取って、クロミアとウィンドブレードと買い物に行った。
2人とも塗装の前で1時間くらいいて、疲れちゃった。最近の女の子っておしゃれな子が多いから、ホント大変。
私もカメラ売り場の前に随分いたけど。
私たち、誕生日近いから、君にプレゼント贈りたい。


プレゼント、ありがとう。
失礼な話だけど、まさか君から返信が来るとは思ってなかったからびっくりした。
ちゃんと全部読んでくれてたんだ。
とっても嬉しい。住所、研究所なんだね。君って、文化系なの?
私と全然違う。
でも、なんでだろう、違うと淋しいはずなのに、全く淋しくないんだ。君のこと、前よりずっと知れた。
いつか会えるのが楽しみ。


君から手紙が来たのが嬉しくて、皆に見せて回っちゃった。
チェイスが、この住所探して君に皆で会いに行こうって言うんだ。珍しくあの偏屈スカイワープも乗り気だった。
ねぇ、会いに行ってもいい?


お返事ありがとう。
わかった。会いには行かない。ごめんね、ぬか喜びして。それから、手紙を今後あまり送らないでってこともわかった。
さようなら。


一週間ぶりの手紙、ごめんなさい。
そっちにスカイワープは行ってない?スカイワープが何故か君に怒っています。あいつ、馬鹿なので何をやり出すか分かりません。
至急返事お願いします。


〜電報〜
スカイワープを引き取りに、そちらへ向かいます。君の言う通り、1人です。






アラートは、研究所のやたらに細っぽいトランスフォーマーに連れられてアイアコーン第58研究ブロックの一角に着いた。
研究ブロックの中央には青い緩衝液が満たされた巨大な水槽が鎮座しており、その前に後ろ手を縛られたスカイワープがいた。
「あ、アラートじゃん」
珍しくバイザーを外したスカイワープが、どかりと座り込んでいる。強がってしかめ面をしているが、半ベソをかいている。
「スカイワープ!!馬鹿だな!!」
アラートはスカイワープに駆け寄ろうとして、ハッとした。
「君、瞳が……」
スカイワープはしかめ面をさらにしかめて、顔を伏せた。
「そうだよ、赤い瞳なんだよ。デストロンの機体が元になってるからな」
アラートは辺りを見渡した。緩衝液の中に誰かがいる。
「…それ、誰かに見られたの?」
「いんや。さっきここにいる奴に取られたばっか。お前とあいつにしか見られちゃないさ」
そう言って、緩衝液の方をスカイワープは見上げた。緩衝液の中には誰かがいるのが分かるが、今一はっきりしない。アラートがよく見ようと瞳を細めていると、急に銀色のコードに身体を掴まれた。
「うわっ!何をするんだ!!」
アラートは叫ぶが、コードは増えてアラートの身体に巻きつき、身体を持ち上げる。
それを見ていたスカイワープは舌打ちをして立ち上がり、急に虹色に発光し消えた。
そして、また急にアラートの目の前に現れた。間髪入れずに、コードに噛みつく。
「んがっ」
スカイワープは顎の力だけで宙吊りになった。もちろん、アラートが驚いただけで大して何も起きない。だから、スカイワープは馬鹿なのだと、アラートは思った。
『君が、アラート?』
部屋中に声が木霊した。アラートが慌てて周囲を見渡している間に、コードが緩衝液の近くまで、アラートと噛みついたままのスカイワープを運んだ。
『ねぇ、会いたかった。中にいる。俺、中にいるよ』
アラートが、緩衝液の方を見ると半分だけできあがった機体がこちらに向かって手を振っている。
「…え、男…」
「そうだ、アラート!!こいつは男だぁ!!」
スカイワープが怒鳴る。同時に、口を離すものだから、床に落ちた。強か身体を打ち付けたはずだが、スカイワープは怒鳴り続けた。
「双子なんて、ぜってぇ嘘だ!!」
『ちょっと君、黙って』
銀色のコードがスカイワープの頭を叩く。スカイワープは気絶した。
『初めまして、俺はサンストリーカー。君とスパークを分けた双子だ』
「…で、でも…。男…」
『そうだね。何でか男なんだ。初めは女だと思われてたみたいなんだけど、違ってさ』
「そ、そうか」
『でも、君と双子なのは本当さ。信じてくれる?』
「……。」
『確かに、無理があるよね…』
緩衝液の中のサンストリーカーが悲しそうな顔をした。アラートは慌てて首を振った。
「違うよ!君が双子なのは信じる!!だって、私たちそっくりだ!!」
サンストリーカーはオプティックを瞬かせた。
『本当?』
「あぁ。なんかそんな気がするんだ」
サンストリーカーはしばらく驚いた顔をして止まっていたが、突然満面の笑みになった。アラートを掴んでいる銀色のコードが激しく揺さぶられる。
『こんな最高な日は初めてだ!!よろしく、アラート…いや、姉さん!!』
「よ、よろ、よろしく…」
アラートは激しい上下運動に吐きそうになりながらも返答した。と、ピタリとコードの動きが止まる。
アラートの目の前でサンストリーカーは緩衝液の下の方へ半分だけの機体で器用に泳いでいく。
『それはそうと、姉さん。このデストロンはどうする?軍に突き出してやろうよ』
サンストリーカーは先程の明るい顔とは打って変わって深い憎しみを浮かべている。サンストリーカーは気絶したままのスカイワープをコードで掴んだ。アラートはサンストリーカーとスカイワープを交互に見返した。
「…スカイワープはデストロンじゃないよ?」
サンストリーカーは訝しそうに、アラートを振り返った。
『何故?赤い瞳じゃないか。』
「スカイワープはサイバトロンだよ。こんな馬鹿なデストロンいてたまったものか」
サンストリーカーはオプティックを見開いた。それから、緩衝液の中で大笑いをした。
『あははは!!すっごい理由!!うん、こいつは確かにサイバトロンだ!!』
サンストリーカーは笑い続けていたが、銀色のコードはゆっくりとアラートの身体を床へ降ろした。コードが解けると、アラートはスカイワープに駆け寄った。そして、スカイワープの頬をペチペチ叩いた。
「おい、起きろよ。バカワープ」
「んがっ!」
スカイワープががばりと起きる。それから、無いバイザーを上げる動作をした。
「アラート!無事か!!偽の双子はどこだ!!」
銀色のコードが青いバイザーを投げてよこす。そして、スカイワープの拘束を解除した。
『なんだい。ホンモノの双子だよ』
「ええい、嘘つけ!!アラートは女だ!!俺は何度も覗いたことがある!!アラートが全身洗浄しているところをだぁ!!」
しんと、第58研究ブロックが静まり返る。
場の空気が、一気にしらけた。
スカイワープがハッとして振り返ると、アラートが腕を組んでつま先で床を叩いていた。





帰り道、顔がボコボコになったスカイワープがバイザーを直しながら、アラートの後ろを歩く。
「まだ怒ってんの?」
「…怒らないと思うかい?」
スカイワープは言葉に詰まり、そっぽを向いた。
「ちぇっ、出るとこも出てねぇ大平原なくせに。一丁前にキレやがる」
「君、それが胸のことなら、相当に失礼だぞ!」
アラートが振り返ると、スカイワープはニヤリと笑った。
「へへへっ」
「…急に笑うなよ、気味が悪い」
「だって、アラートがやっと俺の方振り返ったからさ」
要領を得ないアラートがポカンとしていると、スカイワープは口笛を吹いた。
「俺、デストロンに潜入するスパイになろうかなって思うんだ」
アラートが真顔になって立ち止まる。スカイワープはまだヘラヘラしている。
「デストロンの情報をしこたまゲットして、サイバトロンを勝利に導くんだ。すげーだろ?」
アラートは真顔のまま呟いた。
「やめなよ、なんでそんなことするの?」
サイバトロン諜報員は戦時下で無い今、確かに必要ではあるが、最も殉職率の高い仕事だ。
「んー、俺、サイバトロンだからさ。お前の言う通り、馬鹿だし」
スカイワープは立ち止まったままのアラートを置いてさっさと歩いて行ってしまう。
「サイバトロンにはお前がいるしさ」
スカイワープは歩き続けていた。アラートは、スカイワープを追って走った。







こんにちは。
今日は特別な日。
一つ目はスカイワープが任務に出る日だってこと。私、スカイワープってホントにサイバトロンらしいサイバトロンだと思う。
それから、二つ目、お誕生日おめでとう、サンストリーカー。
級友皆で撮った写真を一緒に入れておきます。

また後で。

あなたの姉、アラート。

mae ato
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