そのひととなり


君は、星がたくさん堕ちる所で産まれたんだよ







「アタシ、お外に出てみたいわ」
ナイトバードは要塞の頑丈な建物の中で呟いた。部屋の片面一面に張られたマジックミラー越しに見るデストロン要塞ジャールでは、様々な若いトランスフォーマーが飛び交っている。笑いあってケンカして仲直りして。ナイトバードはじっと観察する。

ナイトバードは外には出れない。彼女の身体は異様なほどに高い測定値をたたき出しブレインの情報処理能も測定値外だ。ただ彼女は感情の発達が、著しく遅い。
教育係が近づくとナイトバードはよく壊してしまった。壊そうとは思っていなくてもちょっと力を入れただけで、壊してしまう。ナイトバードが様々な驚異的能力を有していなければ、彼女は確実にスクラップ行きだっただろう。
ナイトバードはその利用価値から生きながらえていた。

ナイトバードの元へはたまに科学者も来る。連中は教育係と比較し替えが少ないのかナイトバードについて知らされてからあまり近づかないような仕事をしていた。
ナイトバードは頭から下がなくなってしまった教育係をぬいぐるみのクマのように抱えながら外を見る。

白くて大きなトランスフォーマーがナイトバードの部屋に入ってきた。
「あぁ、また壊してしまったのかい」
研究者であるそのトランスフォーマーはナイトバードに笑いかける。ナイトバードは彼をちらりと見るとまたマジックミラー越しの外を眺め始めた。
その柔らかな物言いのトランスフォーマーがナイトバードは嫌いだった。
しかし、それは近づいてくる。
「何を見ているのかな?」
薄ら笑いを浮かべトランスフォーマーがそっとナイトバードの肩に手をのばす。

ナイトバードは放電した。一瞬で壁や天井が悲鳴を上げる。確かな質量を伴う放電により白いトランスフォーマーが壁際まで飛ばされる。
しばらく横たわっていたが、それはすぐに立ち上がった。そして、ヒビの入った自分の指を眺めばらばらに動かす。指は正常に動いているようで、それはゆっくりとナイトバードの方へ向いた。相変わらず、笑っている。
「ははは、私でなければ死んでしまっていたよ?」
ナイトバードは生首を大事に抱きながらそれを睨みつけた。
「うるさい、寄るな。スカイファイアーに退出を命じる」
白いトランスフォーマー、スカイファイアーはまだ笑っている。
「困った子だね、分かった。出よう」

スカイファイアーが扉へ近づき手をロックへかざす。すると、扉が液状化しスカイファイアーはその中に入って行った。
最後に扉のぴちゃんという音が響いた。
ナイトバードはため息をつき腕の中の頭を撫でながら呟く。
「アタシ、あいつキライなの。あんたならわかるでしょ?」
頭は何も答えない。ナイトバードは頭を抱え上げて、視線を合わせる。頭のオプティックの光は消えたままだ。
ナイトバードはため息をついた。
「そうよね。分かってくんないもん」
ナイトバードが手を離すと頭はごとりと床に落ちて窓の方へと転がって行く。そしてガラスに当たり止まった。
外では相変わらず日々の喧騒が続いている。

昔は誰かが分かってくれてた気がする。そんな、不思議。
えっと、貴方は…。
『アンタと組めて光栄だったよ、相棒』『バカな女だ。そこがいい』『怖がるな、絶対に助けに行く』『オマエタチだけでも逃ゲロ』『赤い瞳、でも私には君が一番のサイバトロン』『俺を置いていかないでくれ』

ブレインサーキットを駆け巡る名前。
スリザード、サイクロナス、ファーストエイド、サウンドウェーブ、アラート、スモークスクリーン。

私、怖いの。なんか、昔を思い出すととっても怖いの。

でも、外に出たいの。














『第3戦艦タイタニアのメインコンピュータを入れ換えるそうだよ』
『…ソウ。生体組込スルンデショ

『ばれていたか、君には敵わない』
『ウフフ。ナイトバード、カワイソウ』
『そうだねぇ。君は見張り役で行っておいで』










あたし、いつか、外へいきたい。

星がたくさん産まれる所で、いろんな人と、泣いたり笑ったり話をしたい。
そして、アナタとまた会いたい。











…情報参謀提出用ファイル…

No.1:デフコン:
エンブレム無しの賞金稼ぎ。
デストロン領で情報収集活動を行ってた所を射殺。
能力持ちでPSI保持。
[思念による物体操作が可能、有効範囲12.1アストロメートル、威力150キロアストロトン]
サイバトロン・デストロンを通し、伝説視されていた機体のため、機体の部品を欲しがるものが続出。(フットパーツを丸まる手に入れるために鉱山1つを手放した者もいるそうだ。)
軍開発課に渡された頃には、ブレインサーキット半分しか残っていなかった。他部品、回収不可能。
ナイトバードのブレインサーキットの7%を占める。


No.4:ランブル:
カセットロン。歩兵。
終戦直前にデストロンより暴行を受け、スクラップになる。
能力持ちで広範囲感覚保持。
[精神集中により透視を含めた五感での広範囲察知が可能、有効範囲1092.5アストロメートル。ただし、負荷重は大]
面倒見は良いが、我が強い部分もあったという。ブレインサーキットのみを回収。
犯人はドラッグシフト・スカイストーカー・ブレストオフの3名。
釈放後に全員栄転したため、犯行は医療参謀部開発班命令の可能性大。
ナイトバードのブレインサーキットの23%を占める。


No.2:スリップストーム:
ジェットロン。航空参謀。
ザラック3攻防の際に、サイバトロンによるリンチで死亡。
能力持ちで超学習能保持。
[通常トランスフォーマーの6.5倍の速度と容量で学習が可能]
ブレインサーキットのみ回収に成功。奔放で気は強く、感情が豊かであったという。
ナイトバードのブレインサーキットの30%を占める。


No.3:アンブロン:
合体戦士になるはずだったが、サイバトロンへ逃走。潜伏先でデストロンであることが判明しガーラス9で拷問ののち銃殺。
能力持ちでテレパス保持。
[他生物ブレインへケーブルなしの直接アクセスが可能、最大有効範囲9.8アストロメートル]
上半身を回収。温和な性格で、非常に大人しかったらしい。
ナイトバードのブレインサーキットの22%を占める。


No.5:スカイワープ:
サイバトロンのスパイ。ジェットロン型。サイバトロンには珍しく赤瞳。捕縛時は初任務であり、まだ起動年数は短いように見受けられた。
能力持ちで瞬間空間移動保持。
[半径1673.2アストロメートルの範囲で瞬間移動可能。一度での転送限界は自身を中心とした半径2.9アストロメートルの球形]
利用価値の高い能力であるため、ブレインサーキットを2分割にし、ナイトバードの作成に利用。
ナイトバードのブレインサーキットの18%を占める。

















「Danke schön.」

ブラスターは、蝙蝠型カセットロンであるラットバットの頭を撫でた。ラットバットは気持ち良さそうに喉を鳴らした。
足元のスチールジョーは丸まって眠っている。

さて、これからどうしようか。
医療参謀スカイファイアーと情報参謀ブラスターでは参謀としてはほぼ同格だ。いや、ブラスターがサイバトロン出身であることを隠していないだけ、ブラスターの分が悪いか。

ブラスターはパイプから口を離し、プカプカと煙を吐いた。肩にとまっているラットバットがその煙を食べようとして、空を噛んだ。
その様子をスチールジョーが眠そうに丸まったまま眺める。

「Jetfire, Nichts ist wertvoller als Freiheit. Wissen Sie was? 」

mae ato
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