そのひととなり



英雄は、しんでしまいました。


立派なレーダーがついたそのロボットは大きな若いトランスフォーマーの相棒でした。大きな若いトランスフォーマーは向こう見ずで少し乱暴で、でも正義感の強い優しいトランスフォーマーでした。
大きな若いトランスフォーマーは警察官でした。強きをくじき弱きを救うそのトランスフォーマーの事が小さなロボットは大好きでした。
大きなトランスフォーマーは小さなロボットの英雄でした。

大きな若いトランスフォーマーが大きなそれほど若くないトランスフォーマーになる頃もその小さなロボットはまだトランスフォーマーの相棒でした。
ちょうどその頃に戦争が起きました。
大きなトランスフォーマーと小さなロボットは空を飛ぶ軍艦をいくつも見ました。町の人々はとても怖がっていました。なぜなら軍艦はたまに町を攻撃するからです。
「あれを追い払うためには軍人にならねばならない。でも、良いのだろうか…」
大きなトランスフォーマーは軍艦を眺めながらつぶやきました。
小さなロボットは口も手もないので何も言えません。

大きなトランスフォーマーは結局軍人になりました。大きなトランスフォーマーは皆のために頑張りました。小さなロボットもサポートをします。
崖から落ちたら味方を呼びに、暗くて狭い通路ならば先に見てきたりしました。
大きなトランスフォーマーはいつもにっこり笑ってこう言いました。
「お前は私の英雄だよ」
小さなロボットは嬉しくなりました。でも、口がないので伝えられません。
ロボットは思います。
『ぼくもトランスフォーマーなら嬉しいと言えるのに』


大きなトランスフォーマーはいつしかサイバトロンという軍のリーダーになりました。もう小さなロボットだけの英雄ではありません。大きなトランスフォーマーは皆の英雄です。
その頃になると小さなロボットはよく大きなトランスフォーマーにおいて行かれてしまうようになりました。置いていかれるのは、立派だけれど暗くて寒い部屋です。小さなロボットは淋しくなりました。
でも、手足がないのでついていく事ができません。
ロボットは思います。
『ぼくもトランスフォーマーなら一緒にいけるのに』

ある日、大きなトランスフォーマーはパタリと帰ってこなくなりました。
外が騒がしくなります。
気になりましたが、口も手足もないので小さなロボットは見にいけません。
小さなロボットは大きなトランスフォーマーを待ちました。
来る日も。
来る日も。
何日も。
何週間も。
何年も。
大きなトランスフォーマーが褒めてくれた車輪は錆びてしまいました。
大きなトランスフォーマーが磨いてくれたレーダーは埃が積もってしまいました。
小さなロボットは淋しい気持ちで一杯です。
でも、大丈夫です。大きなトランスフォーマーならいつかは帰って来るからです。だって、小さなロボットは大きなトランスフォーマーの英雄なのですから。

ピカピカのボディがくすんでしまって何年か経ちました。
部屋にパッと明かりがつきました。
小さなロボットは大喜びです。
『やっと帰ってきたんだ』
でも手足がないので近づけません。口がないので話せません。
小さなロボットはそれでも十分でした。大きなトランスフォーマーが帰ってきてくれればそれでいいのです。
でも、部屋に響いたのは大きなトランスフォーマーの低い声ではなく、軽快な声でした。
「この部屋も、取り壊しか!やれやれ全部捨てなくちゃな!」
小さなロボットはひとつも動かずにそれを聞きました。
軽快な声のトランスフォーマーは辺りを見渡します。小さなロボットと目が合いました。トランスフォーマーは小さなロボットを抱き上げました。軽快な声のトランスフォーマーは小さなロボットに微笑みかけます。
「懐かしいな、小さな英雄君じゃないか。捨ててしまうのは惜しいなぁ」
トランスフォーマーは少し考えてから、小さなロボットを抱えて外に出ました。久々に外に出た小さなロボットはワクワクしました。きっと大きなトランスフォーマーと会えるはずです。
軽快な声のトランスフォーマーは小さなロボットに言いました。
「ローラー、君をトランスフォーマーにしてあげよう」




「で、その話の意味は何だったのですか、マイスター顧問?」
ローターストームは苛立ちを隠さずにマイスターに怪訝な顔を見せる。マイスターは小さな金属リングで手悪さをしながら軽快に笑った。
「いやぁ、たまにはお話がしたくてね」
マイスターが椅子に腰掛け伸びをするのを横目に見ながらローターストームは時計を確認した。
「もう時間ですから私は行きますよ。大切な話があるからって来たのに、作り話ですか。あのギャロウズの監査という初めての大役の前に何でこんなろくでもない話をするんです」
ローターストームは部屋をウロウロしながら呟いた。
「大体作り話にしたって、起承転結がなってない。具体的なストーリーもなければ、感情移入する箇所だって不明瞭だ。本当に下らない」
「そう怒るなよ、ローターストーム中佐。第一、作り話じゃないんだぜ?」
ローターストームは不貞腐れているのか振り返らない。マイスターは手悪さしていた金属リングをローターストームに向けて飛ばした。
かこんとローターストームの小さなレーダー部分に当たる。
ローターストームが振り返りマイスターを睨む。マイスターは舌を出した。ローターストームが肩を竦めた。
「…とにかく、私はもう行きます」
「あぁ、ご武運を」
「ありがとうございます、では」
去りゆくローターストームを見送りながらマイスターは椅子の上で背伸びをして笑った。


英雄は、しんでしまいました。
でも、君の中に、いきているよ。


「いってらっしゃい、ローラー」

mae ato
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