地球へくるまで


デッドエンドはレイヤーシティの上層部では産まれなかった。中層部でも、下層部ですらない。彼女は最下層のスラム街で生を受けた。彼女が生まれた頃、レイヤーシティはサイバトロンに属していた。生まれて1ステラサイクルもしない頃にはデストロン領になった。しかし、デッドエンドにはそんな事は関係なかった。彼女はただただその日を生き延びるだけで精一杯だった。

ゴミ溜めのなかを掻き分けていると、光るものを見つけた。
エネルゴンの欠片だ。
デッドエンドはそれを見つけると周囲をよく伺った。隣にいる乞食はデッドエンドに注目していないようだ。デッドエンドは急いでエネルゴンを口に含み飲み込んだ。

甘い味が口の中いっぱいに広がる。
デッドエンドは小さな欠片を舌の上で転がし、移動させて行く。口の中を余すところなく転がしていると、欠片が溶けて薄くなる。壊さないように丁寧に舐めるが、ふとした瞬間に欠片はぴしりと割れてしまった。
二つになった破片を慌てて舌で追うが、直ぐに行方不明になりあとはエネルゴンの甘い味が残るばかりだ。それだって、段々と消えてしまう。
デッドエンドはため息をついて上を見上げた。

摩天楼は天を切り裂く勢いで上へ上へ伸びている。その中でも異様に大きな美しい建物が見える。
あれはセンターポートだ。

その中にこちらに向いている瞳を見つけた。
デッドエンドははっとした。
上層部の人々特有の、汚いものか可哀想なものを見るような目ではない。
デッドエンドがポカンとしていると、その目の持ち主はこちらに微笑み手を振って来た。
デッドエンドはびっくりした。
綺麗な黒いハンドパーツが、こちらへ振られている。彼の肩に真新しいデストロンのエンブレムが光っている。
きっと思い違いだと感じた。自分に振られているわけではないと。
でも、顔が真っ赤になった。もっと身体を磨いておけばよかったと、唐突に思った。
デッドエンドは、反射的に手を振り返した。
すると、彼は、ニコリと微笑んだ。
それから、誰かに呼ばれたのか、すっと顔をあげると、何処かへかけて行ってしまった。
デッドエンドはしばらくポカンとしたままだった。ただ、また彼と会いたいと思った。
エネルゴンの甘い味はまだ舌に残っている。
彼の肩のエンブレムを思い出す。

デストロンだった。






その1週間後、レイヤーシティは戦地になった。

デッドエンドは、天使らしき者の導きでデストロンになった。

がむしゃらに働いていると、いつの間にかに遊撃参謀までになっていた。
ただ、今でも、あのトランスフォーマーを思い出すことはある。





デストロン軍港、キーフォーク。
停泊中の第3戦艦タイタニア、参謀専用ボーディングブリッジ前の喫茶。
2人のトランスフォーマーがタイタニアを見ながら休憩をとっていた。
「今も甘いエネルゴンを食べると、思うんだよ。あー、もう一度会ってみたい!ってなぁ!!アタイの王子様だよぉ、あん人は」
遊撃参謀デッドエンドの話を聞きながら、デストロン科学参謀は手にもっていたコンソールを落としそうになった。デッドエンドはそれに気づき、険しい顔をした。
「なんだよこの不能野郎。アタイがこういう話しちゃいけねぇのかよ」
デッドエンドの気迫に、科学参謀マグニフィカスはしどろもどろになりながら答える。
「い、いや…、き、君に好かれて、その随分と補正のかかった王子様も、きっと幸せなんじゃないかい?」
「全然思ってもないこと言うんじゃないよ!!あったまにくる!!…まぁ、イイ。とりあえず、アタイはあんたにお願いしに来たんだよ。あんたの技術で、その王子様を特定しておくれよ」
デッドエンドが目を輝かせながら、マグニフィカスに詰め寄る。マグニフィカスは冷汗をかいた。
「なぁ、乙女のお願いだよ。死んでるなら、墓にいって花を手向けたいんだ。」
「お、乙女……?いや、なんでもない。とりあえず、生きていたらどうするんだい」
「そりゃ、会うよ!!きっと、すっっごくカッコイイ人になってるさ。渋くてダンディで、クレバーな素敵な人!!会えたら、無理にでも友達になる!……きゃー!!」
デッドエンドのどす黄色い悲鳴にマグニフィカスはたじろいだが、デッドエンドは気に留める様子はない。
「穀潰しのくせに、なぁに言わしてんだ!恥ずかしいだろっ!!」
恥ずかし紛れに勢い良く腕を振り回すデッドエンドに背を叩かれ、マグニフィカスはむせた。一人で盛り上がるデッドエンドを見て、マグニフィカスは目を泳がせるしかない。
「渋くて、ダンディか…」
マグニフィカスは手元のコンソールを操作し、鏡面にする。コンソールの中にいる人物は、10人に聞けば8人が神経質で虫が好かないと答えるような男だ。
「なーに考え込んでるんだよ。もう行くぞ。タイタニアに乗って、仕事して、あんたは特定キットを作る!」
デッドエンドに肩を叩かれ、マグニフィカスは我に返った。デッドエンドはすでにブリッジへ向かい始めている。
マグニフィカスは肩を軽くすくめてため息をついてから、彼女の後を追った。
デッドエンドがこちらに手を振っている。マグニフィカスは、昔のことをふと思い出した。
それから、ゆっくりと手を振り返す。


王子様が自分だなんて、今更とても言えそうにない。

mae ato
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