そのひととなり

現在の名前はトラックス(軌跡)。過去の名前はギャロウズ(死刑台)。

彼はデストロンとサイバトロンが対立する前から存在するトランスフォーマーで、警官として働いていた。そして、大戦が始まる直前にサイバトロンの指導者に共感しサイバトロンに加わった。
明晰な頭脳に人当たりの良い笑顔と密やかな残虐性を併せ持った彼はそこそこの人望を掻き集めることに成功し、軍の中での地位を次第に高めていく。敵を屈服させその心血を浴びる快感と底なしの野心に身を任せ、多くのデストロンを屠った彼はいつしか『デストロンの十三階段』として怖れられていくこととなる。彼は大戦中に幾つもの罪を生んだ。
生きている捕虜から声帯を奪い仲間をおびき寄せ一網打尽に生き埋めにした。
戦意を削ぐ為に想像を絶する残忍さで敵の命を弄んだ。
己の保身の為に多くの仲間を見殺しにした。
彼が重ねた罪の中でも特筆すべきは惑星サイファーの破壊である。彼は作戦の為だけに多くのデストロンの非戦闘員と罪のない原住生物を星ごと吹き飛ばしたのである。
数々の罪のおかげで彼は停戦が結ばれた直後には中将の地位まで登りつめていた。

しかし、彼はその罪の罰を受けることとなったのだ。

停戦後、彼は突然に殺人が当たり前でない世界に投げ出された。彼は困ってしまった。これまでは名誉だった行為がただの犯罪になってしまったのだ。彼はその変化に乗ることが出来なかった。彼は次第に狂い始め、遂には味方にすら手を出すようになり始める。
運の悪い事に彼は狡猾で経験が豊富であった。彼は気づかれぬまま日常を繰り返す。その罪に苦しみもがき、それでも日常を繰り返す。
周囲が彼の行為にようやく目をやった時のは彼が屍の山を作った後だった。

彼はその罪により殺されなければならない。彼は、それを認めた。罪から解放されたかったのだ。
しかし、彼の能力を惜しんだ人物達は彼を生かす事を決定した。

彼は生まれ持った名前を奪われた。大柄な身体を奪われた。培った地位を奪われた。

小さな姿に押し込められた彼は多くの罪を背負い生き続ける。彼は知らずの内に重ねた罪を悔いながら、己を呪う。己を育てたサイバトロンを恨む。
そして、未来の世代に淡い期待を寄せる。彼らを友とし、仲間とし、子どもとし、師とし彼は生きる。

お偉方から巡宙艦[戦艦よりもグレードが落ちた艦]を与えられた彼は未来の世代を育て慈しむ。そして、偶然に立ち寄った地球で彼は己の罪の結晶である惑星サイファーの生き残り達と邂逅を果たす。
交戦命令を受けた彼は罪の意識を感じながらも、更なる未来に光がある事を信じデストロン達と対峙する。

彼の現在の名前はトラックス(軌跡)。彼の過去の名前はギャロウズ(死刑台)。

mae ato
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -