そのひととなり


彼は不完全で矮小な身体に産まれた。
なぜなら、彼は使い捨ての兵士として生を受けたからだ。左右非対称の瞳に性別さえあやふやな肢体、鈍重な脚。彼はその様に産まれて来た。

彼の身体の半分以上にビルドロンと呼ばれるデストロンの残骸を再利用している。デストロンの躯とサイバトロンのコンポーネントを無理に継ぎ合わせたのが彼だ。その証拠に彼の右の瞳はデストロンの紅であり、左の瞳はサイバトロンの蒼である。彼を見ればサイバトロンもデストロンも訝しげにする。
『デストロンの部品を使った禍々しいポンコツめ』
『過去の戦士の劣化版が隷属しやがって』

そして誰もが口を揃えて言った。

『なんて醜い奴なんだ』

気にしなかったと言えば嘘になる。しかし、彼は己がサイバトロンであることを理解していたし、そうであろうと自誓していた。立派な身体を与えられず凡庸な頭脳しか持たない彼にできることはただ一つ、ただ勇敢であり続けることだった。

彼は地道に与えられた仕事をこなした。誰も彼の事など気に止めない。それでも、誰かの為になるならばと仕事をこなした。それが錆びついた亡骸の処理であれ、強塩基の雨が降る危険地帯での作業であれ、彼は最善の仕事をした。

そんな日々を送っていたある日、彼は珍しく嘲笑以外の声を掛けられた。
彼が驚いて振り返るとそこには青いスラリとしたサイバトロンがいた。彼はそのサイバトロンの事を知っていた。知っていたも何も彼の上官のそのまた上司だったのだ。青いスラリとした男が言うには、彼が一人になったのを見計らって話しかけてきたらしい。彼が不思議そうにしていると青い男は恭しく彼の手を取り言った。
『私と、来て下さいませんか』
彼はすぐに断った。青い男は上流階級の出身で、エリートで、しかも美しかった。
が、青い男は食い下がった。会うたびに、会うたびに同じことを繰り返す。
かれこれ半ステラサイクル以上も繰り返され、とうとう彼はしつこい男に根負けした。彼は、青い男の引き立て役ならば相棒となる事を了承した。

青い男は諜報のプロだった。
男は何かと一匹狼を気取り、そのくせ寂しがりだった。身体を透明化するという特別な能力は持つものの、実は臆病だった。頻繁に虚勢をはり、嘘をつき、都合が悪くなると誤魔化そうとした。挙げ句の果てには、すぐにホームシックになった。
それらを目の当たりにするたび、彼は嫌な気分になった。が、男はそれを覆い隠すくらいの長所も持っていた。

青い男は継ぎ接ぎだらけの醜い一兵卒の相棒を絶対に馬鹿にはしなかった。男は相棒が自分にない勇気と粘り強さを持っている事を知っていたからだ。

一兵卒と組んでからも男は多くの仕事をこなした。男が言うには、一兵卒と組んでからは仕事がうまくいくらしい。その言に違わず、男は着実に階級をあげていった。
一兵卒の方はというと、男と組むことに貧相な賤しい下層出身者として時たま苦痛を感じていた。だがそれ以上に、以前よりも重大な仕事をできる様になり一兵卒は幸せだった。

男が階級をあげれば、本来ならば相棒の方も階級があがる。しかし、男の相棒である賤しい一兵卒は相変わらず一兵卒の身分のままだ。一兵卒はそれを厭わなかった。男はそれを嫌がっていたようだが。

大戦が終わるころには、男は少佐になり、そして、英雄となっていた。その相棒であるただの一兵卒は、素直に相棒が栄光を掴み取り郷里に錦を飾ることができたと喜ぶだけだ。
男はそれを見ると、不満気で、それでいてどこか幸せそうにした。

停戦協定が結ばれてから半ステラサイクルほど経ったある晩、男はおずおずと相棒の手を取りそっと懇願した。
『私と、来て下さいませんか』
男の相棒は、自分の身体を改めて見直した。男でも女でもない、愚鈍で醜い。
目の前の男は勇敢でこそないが賢く育ちが良く美しい。それに、何よりも純粋だった。

彼女はしばらく考えてから頷く。彼女が男の手を握り返し、緊張していた男はふにゃりと泣き笑いを浮かべる。

明くる日、朝早く、彼女は男が目を覚ます前にメッセージを置いて去って行った。

こうして、彼の手柄はすべて男の物となった。


彼は不完全で矮小な身体に産まれた。
なぜなら、彼は使い捨ての兵士として生を受けたからだ。左右非対称の瞳に性別さえあやふやな肢体、鈍重な脚。彼はその様に産まれて来た。

彼が己の身体を呪ったことは一度きりしかない。

mae ato
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -