そのひととなり



<暗闇の中、声が聞こえる>

後ろ向きの機銃、黒い逃げ足、撤退屋。
サイバトロン一の臆病者。
そう呼ばれるようになってから久しい。

<徐々に明転>
<場:デストロン捕虜収容所>
<胡座をかいた壮年と立ったままの若者>

アンブロン:
逃げたくありませんか

トレイルブレイカー:(目だけでアンブロンを見る)

アンブロン:(戸惑いつつ再び口を開く)
逃げたくは、ありませんか

トレイルブレイカー:(首の後ろを掻く)

ーー沈黙ーー

アンブロン:
あなたは勇敢でフォースバリアという特殊な能力を持つ兵士だと聞きました。ボクはあなたを逃がして差し上げようと思います。
もう一度伺います。
逃げたくはありませんか?

トレイルブレイカー:(あくびをしつつ)
何が目的だ。

アンブロン:
ここから逃げ出して、デストロンでない場所へ連れて行って欲しいのです。

トレイルブレイカー:(目線を窓へ向けてゲラゲラ笑う)
へへへ、デストロンの医療将校様が敵兵の兵卒に何を仰るんだか。
信用できるもんかい。もっとも、利用されるなんて、ごめんだね。

アンブロン:
では、情報をお伝えしましょう。明日、あなたは処刑されます。

トレイルブレイカー:(ピタリと笑うのをやめる)

アンブロン:
逃げたくは、ありませんか。
断われれば他をあたります。

トレイルブレイカー:【心中のみで】
この野郎、足元みて来やがってる。誰が、デストロン将校なんかに使われてやるか。
でも犬死は性に合わねぇ。
……そうだ!逃げた後にこいつを捕虜にしてやればいい!!へへへ、そうすりゃワシも栄転だ

アンブロン:(淋しそうな表情をする)
どうしますか?

トレイルブレイカー:(バカにしたように)
あぁ、逃げてやるよ


<暗転>
<鍵の音と二つの足音>
<たまに銃声>
<3週間後>

<場:セイバートロン・セントヴァイロ>
アンブロン:
あの岩陰に銃を構えている兵士がいます。それで最後です

トレイルブレイカー:(銃を撃つ。ヘッドショット)
よく分かるな。

アンブロン:
お褒めいただきありがとうございます。
どうやら、ここまでがデストロンとサイバトロンの交戦地域のようですね

トレイルブレイカー:
はぁ…。何でそんなことを言い切れる

アンブロン:
それは、先程あなたが撃った方が知っていたからですよ

トレイルブレイカー:(銃を片づけながら首を傾げる)
はぁ?変な奴だ。おい、何処へ行く!

<アンブロンは歩き続け、トレイルブレイカーはそれを追う。アンブロンが丘の上に出た。そして、足を止めた>

アンブロン:
見て下さい、空がこんなに美しい

トレイルブレイカー:(驚いて)
……ほんとうだ、気づかなかった。

<アンブロン、空に向かって手をのばす>

アンブロン:
自由になった!ボクは自由なんだ!!
【心中のみで】
合体戦士にならずにすんだんだ。

トレイルブレイカー:(辺りを見回し)
な、なんだ?誰かいるのか?

アンブロン:
あ、驚かせてしまいました。すみません。
【心中のみで】
今更、隠しても仕方ないので、伝えようか

トレイルブレイカー:(ギョッとして後ずさる)

アンブロン:
実は、あなたと同じく能力持ちなんです。
ボクは、テレパスという能力を持っているんです。人の思っていることを聞いたり、自分の内面を伝えたりできるんですよ。

トレイルブレイカー:
じゃあ、こっちがお前をサイバトロンにつき出そうとしてたのも…

アンブロン:
もちろん知っていました。
でも、仕方ないですよ。あなたも生きたいだけなのだから

トレイルブレイカー:
お前は、変わってる

アンブロン:
そうですか?
あなたも自由に生きたいでしょう。
ほら、空を見て。
美しいと思いませんか。
生きてるから、美しいと思えるんです

トレイルブレイカー:
生きているから……?

アンブロン:
そう、ただ、生きているから。


<暗転>

トレイルブレイカー:
その後、俺たちはサイバトロンのある町で別れた。
俺は軍に戻り、アンブロンは何処かへ消えた。

<明転>
<場:サイバトロン軍駐在地>
<何人かのサイバトロンが話をしている>

トレイルブレイカー:
最近、俺が中々前線に行かないって?
……あぁ、うん。まぁな。

兵士A:
どうしたんだよ、トレイリー。お前らしくもないぞ。

兵士B:
そうそう。自慢のフォースバリアーで攻めも守りも見せてくれなきゃ!!デストロンをギッタギタにしてやんのがお前の趣味だろ?

トレイルブレイカー:
確かにそうだけどよぉ…。デストロンだってそんな悪い奴では、いや、なんでもねぇ。
それより、今日は空が綺麗だな

兵士B:
え?どうした、急に

兵士A:
最近ずっとこんな感じだよ。頭でも打っちまったのかもな

兵士C:
おい、見ろよ。軍警だ。

<兵士達は静まりかえり、軍警の方を見る。軍警は何かを探しているようだが、トレイルブレイカーを見つけるとつかつかと歩み寄る。兵士達は驚きを隠せない>

軍警:
君がトレイルブレイカー兵長かい?

トレイルブレイカー:
はぁ。そうですが…

軍警:
ご同行願おうか。

トレイルブレイカー:
へ?ワシ、何かしましたか?

兵士A:(驚くトレイルブレイカーを押しのけて)
おいおい、軍警さん。トレイリーはなーんもしないですぜ?場合によっちゃあ…

<軍警が兵士Aの眉間に銃を向ける。兵士達が静まり返る>

軍警:
他言は無用。さぁ、来たまえ


<場:軍警取調室>
<軍警とトレイルブレイカーが向かい合って椅子に座っている>
トレイルブレイカー:
違う!ワシは裏切り者じゃない!!

軍警:
何を言っているんだ?デストロン将校をサイバトロンに侵入させただろう?

トレイルブレイカー:
あいつはもうデストロンじゃないんだ!

<軍警がトレイルブレイカーを蹴り倒す>

トレイルブレイカー:
ひっーー!!

軍警:(緩慢にしゃがみ込みトレイルブレイカーに目線を合わせる)
なぁ、裏切り者はどうなるのだろう?
君は知っているか?

トレイルブレイカー:(唾を飲み込む)
ーー銃殺だーー。

軍警:(指を拳銃に見たててトレイルブレイカーを撃つ真似をする)
そうだね。
でも、私も鬼ではない。
特別に見逃してやろう。
(トレイルブレイカーの肩に手をかける)
君が、デストロン医療参謀部大尉アンブロンの居場所を教えてくれるならね

トレイルブレイカー:(軍警越しに、窓越しに、空を見上げる)
……。


<暗転>


<電子音、通信>

アンブロン:(電話)
はい、もしもし。
あ、トレイルブレイカーさん。お元気ですか?
ーーー久々に会いたい?
いいですね。そういえば、ボク、ご紹介したい人がいるんです。ルームメイトができたんですよ。
ーーー嫌だなぁ。テレパスは電話じゃ使えませんよ。

<電子音、通信終了>

軍警:
なんだ、相手はテレパス持ちなのか。では、君は会わない方が得策だ。我々だけで行こう。

<明転>
<場:クリスタルシティのある居住区>
<複数の軍警がいる>
<軍警がドアベルを押す>

ルームメイト:(扉を開けながら)
はい、どうも。こんにちは…あれ?
おい、アンブロン。違うぞ?

軍警:(ルームメイトを押しのける)
どいて頂こう。

ルームメイト:(驚きながらも、軍警の一人の肩をつかむ)
おい!お前ら、なんだ!!

<ルームメイトが軍警に殴り倒される>


<場:軍警取調室>
<トレイルブレイカーが1人でデスクに座っている>
トレイルブレイカー:(頭を抱えながら)
許せ、許してくれ。

<場:クリスタルシティ居住スペース内>
アンブロン:(電子端末の片づけをしながら)
あなた方……?
(突然、ギョッとする)
な、何ですか!!ボクは違いますよ!!デストロンじゃありません!!

軍警:
うるさい。貴様がデストロン医療部将校であることは調べがついている。

アンブロン:
やめて下さい!ボクはもうデストロンではありません!!

ルームメイト:(軍警に蹴られながら、縋る)
彼女を離してやれ。彼女は兵士ではない、一般人だ。


<場:軍警取調室>
<取調室の窓から澄んだ空が見える>
トレイルブレイカー:(項垂れて)
許してくれ、許してくれ。
死にたくないんだ、仕方ないんだ。
許してくれ。

<暗転>
<場:居住区前の道路>
<アンブロンが軍警に車に乗せられそうになっている>
<ルームメイトが軍警の拘束を振りほどき、駆け寄る>

ルームメイト:
怖がるな、絶対に助けに行く

アンブロン:
ファーーーー
<ドアが閉まる>

【テレパス】
たすけて


<場:軍警取調室>
トレイルブレイカー:(頭を抱える)
やめろ!!無理なんだ!!


<完全に暗転>


トレイルブレイカー:
後ろ向きの機銃、黒い逃げ足、撤退屋。
サイバトロン一の臆病者。
そう呼ばれるようになってから久しい。


アンブロン:
ほら、見て。
空はこんなに美しい。


<銃声>

mae ato
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