そのひととなり


インセクトロンは一般トランスフォーマーとは文化が違う。つまり、インセクトロンとトランスフォーマーはわかり合う事ができない。
お伽話の中でも無ければーーー。

昔、あるジャーナリストがいた。
彼はそれなりの腕を持つ記者だった。両軍が隠していた司令官、大帝の死をすっぱ抜いたのも彼だし、戦場の悲惨さを伝える事に大きく貢献したのも彼だった。
人々は彼を褒め称えたが、彼はいつもにやりと笑うだけだった。

大戦が終わりしばらくしたある時、彼は取材のためある廃村に立ち寄った。
以前はデストロンの領地であったという村で彼は1人で仕事の前の一服を楽しむ。村の様子を眺めながら彼はため息をついた。廃村は静寂に包まれ、世界を飛び回るタフな彼にすらアンニュイな気持ちを湧かせた。彼はタバコの火をもみ消しゆっくりと立ち上がった。
と、その時だ。高い澄んだ声が微かに聞こえる。声は強弱を持ち、波打ち、時たま笑いも混ざる。彼が慎重に声の方へ近づくと、彼は三つの人影を見つけた。
廃村の壊れた屋根の光が降り注ぐ中で人影は唄を歌う。小さな細い身体を震わせ光を浴び楽しそうに歌うのだ。
彼は息を潜め、カメラを構えた。
インセクトロンの幼体だ。それも、絶滅したとされていたアンコレオプテラ[甲虫型以外のインセクトロン]だ。
普通のインセクトロンにはあり得ないくらい華奢な形をし、唄を歌う幼体達に彼は言葉を失った。
彼は震える手でシャッターを切ろうとしたが、思い留まりカメラを納めた。カメラの音がインセクトロンは嫌いだと聞いたからだ。わざと見つかる様に、優しく声をかけながら彼は幼体達に近づいた。もちろん、三体はすぐに逃げた。

それから、彼とインセクトロン達の追いかけっこが始まった。
唄声が聞こえれば彼は駆けて行き、彼の姿が見えればインセクトロン達はさっと隠れた。
始めは彼の声ばかりがこだましていた。三日経つとインセクトロン達が何か彼らの言語で話しながら逃げるようになった。

二週間目には、彼らは笑いながら逃げるようになった。
一月後は、逃げながらも彼に向かって何かを話しかけてきている。
一月と二十日が経つとインセクトロン達から彼を探しにきた。
そして、二ヶ月が経ち、インセクトロン達は彼の手からお菓子を受け取り旨そうに食べ、喜んで歌い踊った。

結局の所、彼とインセクトロンの子ども達が友好を結ぶまでには三ヶ月もの月日を要した。
彼はインセクトロンの子ども達を廃村から連れ出した。

廃村で見つけた当初、彼はスクープとしてアンコレオプテラの幼体達を研究所に持ち込むつもりだった。が、彼はそれをしなかった。名前を持っていなかった彼らに名を与え、育てる事にした。
兄妹だという二人にはランサックとキックバックという名を、毒蛾型である少年にはヴェノムという名を与えた。
彼は三体に食事を与え、勉学を積ませ、観察した。普通のトランスフォーマーと異なり身体的にゆっくりと成長していくインセクトロン達を彼は静かに見守る。彼は、記録者としてできる限りインセクトロン達を観察するつもりだった。
彼が、無事である限りは。

毎日の日課の様にキックバックとヴェノムが自宅の塀越しに彼を出迎えようと待っていると、その日は彼でない男がやって来た。呼び鈴を鳴らされ、二人は顔を見合わせる。突然の来客に背を伸ばし拙い準備をし始めていると、奥の部屋から苦々しい顔をしたランサックが出てきた。窓の外に立つ男を指差す二人をランサックはまじまじと見る。ランサックは二人を一度きつく抱きしめた。
そして、面喰らっている二人を部屋に押し込んでから男と共に何処かへ行ってしまった。
しばらくして、三人の後見人である彼が帰ってきた。彼は、全身が動かなくなっていた。

ランサックは帰って来なかった。その代わり、彼とキックバックとヴェノムには大金が入った。

月日が経つと、ヴェノムとキックバックは彼を養うために働きたいと言い出した。彼はそれを始めは拒否した。
インセクトロンにまともな職など斡旋されないからだ。インセクトロンは大概凶暴で低知能であると一般的には言われているからだ。それに、トランスフォーマーとは働けなった段階で死ぬべきものなのだ。インセクトロンには当然である養うという考えなど彼には理解できなかった。親も子も持たないトランスフォーマーにとって養われるという事は恥だった。

が、彼は働くことを許可した。
血気盛んなヴェノムが喚きたてたので諦めたのだ。

ヴェノムとキックバックはデストロン軍に入隊した。それぞれ別のインセクトロン部隊にいれられるという二人に彼は最後に一つだけお願いをした。手紙だけは出さないで欲しいと。自分は手紙など出されても返さないと。

キックバックとヴェノムは不思議に思ったが納得した。そして、アンコレオプテラの身体を隠すための厚い装甲を身に纏い戦場へ向かった。

それから、しばらくして、あるジャーナリストが一人静かにトランスフォーマーらしくこの世を去った。


インセクトロンは一般トランスフォーマーとは文化が違う。
恋をする。
子どもを作る。
理性よりも本能を重んじる。
彼らは自由よりも正義よりも、身内を守る為に戦う。
つまり、インセクトロンとトランスフォーマーはわかり合う事ができない。
お伽話の中でも無ければーーー。


キックバックはインセクトロンだ。
インセクトロンは、唄を歌う。

mae ato
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