地球へくるまで


パッドから現れたホログラムはふわりふわりと踊る。

おひめさまみてぇだろ。
でも、すぐに老いて、醜くなる。
それがインセクトロンだ。

ホログラムは純粋無垢に微笑みシャボンのように弾けて消えた。




グラップルが組んだシフトにミスがあり、倉庫備品の整備が3人もいる。1人はトレイルブレイカー、ワーパス、それからハウンドだ。

ワーパスは「あの引きこもりの臆病者はどうせこねぇよ」と言ってたが、いざ時間になってみればトレイルブレイカーがいの一番に来ていた。黒い大型機体が細やかな作業に勤しんでいるのを見てハウンドは驚いた。トレイルブレイカーを艦内職務で見たのは初めてかもしれない。
ハウンドはトレイルブレイカーからすこし離れたところで、倉庫備品のチェックを始めた。
ワーパスは来ない。先ほどロータストームとまた揉めていたから、トラックス少佐かスプラングが仲裁に入るまではあのままだろう。

ハウンドが黙って作業をしていると、背後で足音がした。振り返るとトレイルブレイカーがハウンドの後ろに立っていた。昨今のトランスフォーマーでは見られなくなった大型機体を縮こめながらトレイルブレイカーは力なく笑った。
「お前さんと、仕事するのは、初めてだな」
トレイルブレイカーの言葉をハウンドは大して感慨もなく動作だけで肯定を示した。トレイルブレイカーは巨体を屈めながら申し訳なさそうに肩をすくめる。微塵の自信も自尊心も感じられないその動作にハウンドは内心イライラしていた。
「いやー、わしと同じ能力持ちだって言うから楽しみにしてたんだ。お前さん、ホログラムなんだろ?わしはバリア形成なんだ。同じ形成型、仲良くしたいと思ってね」
ハウンドは黙って作業に戻った。相手は臆病者で有名な二等兵トレイルブレイカーだ。あまり関わっても良いことは起きそうにない。背後でトレイルブレイカーが慌てているが、ハウンドにとっての優先事項は目の前の壊れた謎の回路の修復だ。
ハウンドが首を傾げていると、黒い手がハウンドの手の回路を取り上げた。
ハウンドがそれを見ていると、トレイルブレイカーは指先を僅かにトランスフォームして細やかな工具にした。目の前で回路が恐ろしい速度で直されていく。
「ほら、完成だ」
ハウンドでは30サイクルはかかりそうな仕事がわずか15クリックで終わる。ハウンドは新品同然になった回路とトレイルブレイカーを何度も見比べた。
トレイルブレイカーは首の後ろをかきながら笑う。
「こういうことしか、わしはできんのだよ」
ハウンドはとにかく拍手をした。トレイルブレイカーはにやつきながらバイザーを直す。
ハウンドは倉庫にある壊れた回路を探した。トレイルブレイカーに渡せば、どれもすぐに治って返ってくる。『この人物は、間違いなく天才だ。』ハウンドは生まれて2度目にこう思った。
興奮して次から次へと故障品を探してくるハウンドにトレイルブレイカーは気を良くしたのか、ガラクタを拾い即興でパッドを作ってくれた。
「画面を上に向けて、電源を入れてみてくれ」
トレイルブレイカーに言われて、ハウンドはパッドの電源をゆっくりと入れた。

画面の真上に紫色の光が現れ、見たこともないトランスフォーマーのホログラムが現れる。
4枚の薄羽、糸を織り込んだような触角。そして、すらりと伸びた細く繊細な手足。
ホログラムはハウンドに微笑みかけるとニコリと微笑んでお辞儀をした。
お辞儀をしてからホログラムは跳ねるように踊り始める。
時折、薄羽が擦れ複雑に光を反射し。
時折、指先で空をつかんでは離し。
「ははは、お姫様みてぇだろ。アンコレオプテラ[甲虫型以外のインセクトロン]っていう既に絶滅したインセクトロンだ。歌い、踊り、そして老いる。コレは美しいけど、すぐに老いて醜くなる。それがインセクトロンさ」
ハウンドはパッドの上を舞う妖精に見惚れた。
光の粒子でできた妖精は明るく笑う。それが、儚く美しい。
「気に入ったならアンタにやるよ」
トレイルブレイカーの声が倉庫に響いた。

突然、乱暴な足音がした。

「ちくしょっー!!マイスターの七光りめ!!」
怒鳴り声がして倉庫の備品が蹴り倒される。ワーパスが怒りながら入ってきた。
「聞けよ、ハウンド!!子リスちゃんが少佐を懐柔して……お、トレイルブレイカー。珍しいな」
ワーパスはトレイルブレイカーがいるのに気づくとそこかしらのものを蹴散らしながら近づいてくる。蹴散らしたものの中には先ほど直したばかりのものも入っている。
ニタニタしながら近づいてくるワーパスを見てトレイルブレイカーはきょろきょろと視線を彷徨わせた。ハウンドはパッドを持ったまま、ワーパスの前に立った。
ワーパスの目がパッドの上のインセクトロンに行く。
「カワイイ姉ちゃんのホログラムじゃねぇか。トレイルブレイカーが作ったのか?」
「いや……ハウンドが、わしと同じ能力持ちだから、仲良くしたいと…」
トレイルブレイカーが困ったようにボソボソ言っていると、ワーパスは大笑いしながらその背中を叩いた。
「ビビリなお前とハウンドを一緒にするなって!!ハウンドは後付け能力だ。……お前と背負ってるものが違うんだよ!」
ワーパスの言葉にトレイルブレイカーは声を失った。トレイルブレイカーの青い瞳が瞬く。
ワーパスの笑い声がして、ハウンドはいても立ってもいられなくなる。

ハウンドは黙って倉庫を後にした。


ハウンドの手の中のデータパッドの上では、インセクトロンが舞い踊っている。













これから、醜くなるのは、俺も、君も、一緒だ。

mae ato
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