地球へくるまで


世の中には知らなくてもよいことが溢れている。


後付け能力って知ってるか?
あれは、禁断の技術だね。サイバトロンではそういうのがあるらしいんだ。

2人のインセクトロンがニタニタしながら話しているのをキックバックは耳に挟んだ。バラージの腰巾着、サルボーとザップトラップだ。
第3戦艦タイタニアは至極順調に航路を進んでいる。
平和すぎてケンカが増えてきた艦内でも、遊撃参謀部に属するインセクトロン第2部隊は特にケンカが多い。ケンカのせいでモノを壊したりするとこの2人のように掃除をさせられるのだ。
ちなみに、キックバックも掃除に来たクチだが彼らと違い、彼女は仕事をサボって踊りの練習ばかりしていたのがばれたからである。
キックバックを見つけると2人はおざなりな挨拶をしてから、また話をし始めた。

「で、後付け能力があるとどうなるんだ?」
「まず第一段階、エネルギーの燃費が悪くなる」
「なんだよ、普通だなぁ」
「話は最後まで聞けっての。第二段階で体の五感が半減する。もちろん、痛みなんかも減るわけだ」

ザップトラップは触覚を動かしながら身を乗り出した。

「それすげー便利だ!バラージの兄貴にぶん殴られても痛くねぇ」
「…オメェ、気持ちよかったりするのも半減だからな?」

ザップトラップの触覚がぺたりと垂れた。

「それは、イヤだ」

サルボーは勝ち誇ったように翅を鳴らした。インセクトロン特有の高い飛行音がリズミカルに刻まれる。

「とりあえず、次はどうなんだよ」
「次はなぁ、凶暴化らしいな。なんでも、人を見ると襲いかかったりしてくるらしい」
「クソ迷惑だわ。ていうか、それ、寝起きのバラージ兄貴じゃね?」
「兄貴は不機嫌なだけだよ。……ちなみに自殺率が上がるのはこの辺りだとよ」
「どうでもいい。次!」
「えっと次は確か、体の変化らしいぞ。直しても直しても変な形になっちまうんだ。頭が二つに分かれたり、口の中が目ん玉だらけになったり。足から足が生えまくったり」
「最後には?」
「思考まで、化け物みたいになっちまうんだよ。能力の暴走ってやつだ。もう化け物だ。処分しか道はない。最近、グロ画像が回ってるだろ。アレだよアレ」

キックバックは彼らの話を聞きながら、眉をひそめた。つい先日、イヤだというのにあの2人に気味の悪い画像を見せられたのを思い出したからだ。全身から変な触手が伸びたり腕が背中から大量に生えたりしている画像だった。

「能力を得るということは、何かを失うということなのさ」
「へぇ、デストロンでよかったわぁ」
「ばーか。インセクトロンはデストロンにしかなれねぇよ」

話してばかりの2人と対照的に、キックバックのノルマは終わりにさしかかっている。

ザップトラップが相変わらず下品な表情で振り返る。キックバックはため息が出そうになった。インセクトロンってなんでこんなに小うるさいんだろう。

「キックバックはどう思う?後付け能力のこと」
「ウチ、よく分かんない」
「かーっ!全然怖がんねぇよ!かっわいくねぇなぁ!そんなゴテゴテの装甲つけてっから中身までゴテゴテになったかぁ?!歌の一つくらい歌ってみろっての」
「アンタらに聴かせる歌なんてないよ」

キックバックは紫色の瞳を閉じてデッキへと去る。ザップトラップは舌打ちをして、サルボーは肩をすくめた。
「どうせお前、歌が下手なんだろ!兄貴みたいによ!」
ザップトラップの怒鳴り声がしたがキックバックは無視をした。


そんなことより、アタシ、王子様を待つのに、忙しいの。

どんなに恐ろしいことも、やっつけてくれる王子様が来るの、待ってるの。



きっと、そんな恐ろしい化け物が現れても、王子様なら私を守ってくれる。

mae ato
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