そのひととなり


産まれてこのかた、喧嘩にゃ負けたことがねぇ。
戦争ってのは喧嘩みてぇなもんだと思ってた。



「ウチの部隊はどうなった?」
ワーパスが聞くと、トレッズは首を振った。
「ワシとアンタ以外は生き残っちゃないよ」
ワーパスは青い瞳を瞬かせてから首の後ろをがりがりとかいた。トレッズはというと緑の瞳を細めてまさにうんざりといった表情だ。ワーパスは彼のその瞳を見て、むず痒さを感じた。遠くを見ていたはずのトレッズが振り返りワーパスは慌てて目を逸らした。
「困ったな。俺、イグニスに金貸したままだ。あの世には取り立てにいけねぇぞ」
「アンタのそういう所、本当にキライだわ」
トレッズが長銃を抱えなおして歩き始め、ワーパスもそれを追う。

砂漠の街、アレナ。
本来ならば美しい商業都市であるこの街で戦闘が始まりかれこれ12ギガサイクルだ。サイバトロンもデストロン互いに疲弊しきっている。
ワーパスの部隊のように壊滅する部隊も多いという。もちろんサイバトロンもデストロンも。
最近では頭がおかしくなった味方が襲いかかるというのが流行(と、ワーパスは呼んでいる)であり、同士討ちが頻繁に起きている。
死にたくない奴らにとってはまさに地獄の街だ。
しかし、ワーパスにとってはそんなことはどうでもいいことだった。人生の目標が辛くない犬死である彼にとってはこんな現状はよくある話だ。

トレッズが足を止めた。また遠くを眺めている。トレッズは素早く銃から弾を抜き焼夷弾を装填した。
そして、砂漠の中に倒れている高層建築だったものに打った。

建物の残骸から燃えるトランスフォーマーが叫びながら出てくる。
トレッズは長銃に再び弾を装填し火を消そうともがくトランスフォーマー達のスパークを正確に撃ち抜いていく。

トレッズが最後の1人を撃ち終えると、ワーパスは口笛を吹いて称賛した。

「デストロンか?」
「ワシの知ったこっちゃねぇ。銃を構える素振りがあったから撃っただけさね」
「ふーん、そ」
ワーパスはトランスフォーマーの死骸に近寄り使えそうな武器を漁っている。意気揚々と武器を選ぶワーパスとは対照的にトレッズは嫌そうに死骸の武器を見ている。武器のどれもがトレッズとワーパスの武器に一致する。
赤いエンブレムを緑色の瞳が見下ろしているのに気づきワーパスは死体漁りの手を止めた。
振り返るとトレッズは砂漠の砂に座り込んでタバコを吸い始めた所だった。
煙がゆらりゆらりとセイバートロンの空へと昇っていく。
「何でワシらは殺したり殺されたりするのかの」
薄っすらとトレッズの緑色の瞳が夕方の冷えゆく温度の中で光る。ワーパスは肩をすくめた。
「そりゃ、戦争だからだろ。戦争が終わるまではこんなもんだ」
「いつ、戦争は終わるん」
「デストロンを倒したらだろ?」
ワーパスは立ち上がって足についた砂を落とした。白銀の砂と付着したトランスフォーマーの欠片が落ちる。
トレッズはタバコを吸いながら緑色の瞳をいびつに歪めた。ワーパスは緑色の瞳にスパークを鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
「そりゃあ、違うな。デストロンがいなくなったら次の奴らが来る」
ワーパスは自分の青い瞳を瞬かせた。トレッズの手のタバコがじりじりと短くなっていく。

「戦争ってのは負けにゃ終わらんのよ」

ワーパスは何も聞かなかったふりをしてトレッズの手のタバコをとって口に含んだ。
すぐにむせて咳き込んだ。
トレッズの呆れ返った目がワーパスに向けられる。
「アホか、テメェは」
「うるせぇ」
緑色の瞳は存外に優しく弧を描いていた。ワーパスは何故だか無性にイライラした。



その数サイクル後に、トレッズの戦争は、死んで、負けることで終わった。
ワーパスの戦争はまだまだ続いている。



戦争は負けなきゃ終わらない。
ワーパスは戦争は怖くはない。
戦争ってのは喧嘩みてぇなんもんだ。


ただ、緑色の瞳だけが、未だに、怖い。

































サイバトロン巡宙艦、アーク28。
そろそろ出航の時間だ。


アーク28の前で、艦を見上げる姿を見つけてワーパスは歩み寄った。
あいつとは、話したことはない。確か、ロータストームという若造だ。作られたばかりの匂いがプンプンするくせに、艦長のトラックスよりも位が上の中佐だ。驚くほどに若い中佐はこちらに気づかない様子で、何か小さな箱を取り出した。
タバコだ。
ロータストームはタバコを一本出すと、隠すように火を灯した。タバコから煙がゆらりと昇る。

どこかで嗅いだことのある銘柄の匂いだ。

ワーパスは、線の細い若い中佐が喫煙者であることに、少しばかり驚きながらもロータストームに歩み寄った。さすがにロータストームも気付いたらしく、タバコを咥えながら振り返る。
ロータストームはいつもはしている青いバイザーを外している。

青年の瞳は、緑色だ。

ワーパスのブレインサーキットに緑瞳の誰かの姿が朧げに通る。

ワーパスが呆然と見つめていると、青年は緑瞳を明滅させて首をかしげる。緑色が揺らめき、ブレインもスパークも揺さぶられ、言い表しがたい感情に支配され、ワーパスは言葉を失った。

mae ato
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