地球へくるまで


司書免許を手にして、試験を受けた。
サイバトロンでは、その試験の結果から初期配備が決まる。
「中央公文院、中央公文院!!僕、絶対、中央公文院!!」
「オクトーン、うるさい」
「でも、僕は公文書院がいいんだ。うー、《真に一擲を成して乾坤を賭せん》…!プライマス、僕を中央公文院に!!」
「お前、ホントその言葉好きだな…」
プライマスに祈りながら歩いていると友人に頭を小突かれた。公示されるのを大勢のトランスフォーマーと待つ。半メガサイクルも経つと、長い書状を持って1人のトランスフォーマーが現れた。
受験番号を握り締めながら書状がボードに貼られていく様を固唾を飲んで見守る。
隣の友人がガッツポーズをした。
「きた!大学図書館だ!」
まだ発表されていないオクトーンは喜ぶ友人を複雑な思いで見守った。アカデミックな図書館の後には公立書院が続く。公立書院はピンキリだ。その中でも一番所蔵図書数が多く研究が盛んであるのが中央公文院である。
エイペックス書院、本部、第2支部……まだ中央公文院は出てこない。
オクトーンの受験番号は0910。
中央公文院本部の字が出てきた。番号は一つしかない。
オクトーンは口内オイルを飲み込んだ。おそるおそる下の方を見ると、そこにあったのは0910の番号だった。
「やった、本部だ」
オクトーンが呟くと友人に背中を強く叩かれた。振り向くと満面の笑みの友人がいる。オクトーンもつられて笑うと、自分よりも小さい友人はオクトーンをひょいと担いだ。
「うわわ!」
慌てて青いバイザーを掛け直す。危うく赤い瞳が見えるところだった。
「お互い第一希望だ!!」
「お、降ろしてよーー」
電子掲示も始まったようだ。担がれるオクトーンの持つ端末にお祝いのメッセージが入る。
ピロン、ピロン。小気味いい音だ。


ーーー

オクトーンはハッとして目を覚ました。
何か幸せな夢を見ていたような気がする。

ピロン、ピロン。端末にメッセージが入った音が鳴り、オクトーンは端末を手に取った。
差出人は航空参謀部に潜ませていたスパイからだ。
『至急。話し合いは明後日より』
オクトーンはため息をついた。今日中に始末をつける必要があるようだ。
リチャージスラブに腰をかけたままオクトーンは考え込んだ。

『サイバトロンとの和平を結び、戦争を辞めよう』
航空参謀バスターは大戦の最中に産まれたトランスフォーマーだ。何体もの仲間をサイバトロンに殺されている。彼女自身もイヤーセンサーを半分やられている。
そんな彼女が青い瞳を輝かせながら戦争を終わらせようと言い出したのだ。
参謀会議は一瞬ざわついた。
オクトーンは隣の者と話すわけではなく、ジロリと辺りを見渡した。

目配せしたのは防衛参謀部と陸上参謀。渋い顔をしたのが、攻撃参謀とその副官。空陸参謀はよく分からずに拍手をした。
情報参謀副官は卓上の蝙蝠を撫でている。医療参謀は航空参謀を見て目を細め、遊撃参謀は手悪さをしながらも何か考えているようだ。
科学参謀部は参謀と副官の対応が正反対だ。参謀は今にも殺さんとばかりに航空参謀を睨みつけ、副官は救世主を見つけたかのようだ。

オクトーンは自分の隣の男を見た。輸送参謀は眉を潜めて独り言を呟いた。
「それも悪くないな」
耳ざとい情報参謀は輸送参謀アストロトレインの言葉を聞き逃さなかった。情報参謀がゲラゲラと笑う。
「おや?アストロトレイン、お前んとこの邪魔ばかりしている航空参謀部が言っていることだぞ?」
「……確かに小娘の妄言だ」
そう言いながらも、輸送参謀アストロトレインの航空参謀を見る目は穏やかだ。

輸送参謀副官のオクトーンは心中で舌打ちをした。アストロトレインは戦争に関しては超がつくほど穏健派なのだ。正直なところ、アストロトレインという男は軍人ではなく運び屋だ。軍以外が存在しないデストロンで仕方がなく輸送参謀となっているだけなのだ。ここがサイバトロンならば、アストロトレインは間違いなく民間の輸送組織の頭でもしているだろう。

こんなことなら前の航空参謀を失脚させなければよかった。青瞳はだから嫌いなんだ。

イラつきながらも、航空参謀の友人を思い出した。

ーーーー

オクトーンが資料を集めたのは、参謀会議が終わって数メガサイクル後のことだ。

航空参謀の親友はこのデストロンで反戦活動をしている無茶苦茶な女だ。
この女にあの航空参謀は感化されたに違いない。女同士の友情、美しいじゃないか。壊しがいがある。
青瞳のクソアマめ、せいぜい苦しむがいい。

オクトーンが揉み手をしながら、計画を練っていると人の気配を感じた。
振り返ると大柄な白い男がこちらに向かって笑いかけている。医療参謀のスカイファイアーだ。
スカイファイアーは青い瞳を光らせながらニィっと笑う。スカイファイアーの足元には小さな機体がまとわりついていて、その機体もオクトーンを見ている。
その様子にオクトーンは強烈な違和感を感じた。
「やぁ、輸送参謀副官くん。先ほどの会議はどうだったかい?」
単刀直入にもほどがある。枕詞が一切合切ない質問にオクトーンは不安を拭えないが、相手は医療参謀、デストロンでは実質上5本の指に入るくらいの権力を持った男だ。オクトーンは恭しくお辞儀をしてから言葉を紡いだ。
「興味深いお話でしたね。私には輸送参謀がどのように仰るかが気にかかる会議でした。まぁ、とかく…」
スカイファイアーは首をゆっくり傾けながら笑みを深くする。
「僕は、君がどう思ったかが知りたいなぁ」
スカイファイアーはニコニコしている。その笑みが冷たすぎて、オクトーンは震えそうになったが、敢えてオクトーンは笑った。
「私的には、戦争はやめるべきではないと思います。デストロンにとって利にならない」
「それは君の感情ではないよね?」
「…私の感情が、戦争に何の関係がありますか?」
「ふーん、なるほど。君、サイバトロンから来ただけあるね。個人より大多数の意見に着目するなんて、ココではキチガイのやることだ」
細っこい正体不明の機体がくすくす笑う。
「さいばとろん?ウフフ、一緒!…ぶらすたートモ一緒!!」
「こら、お喋りが過ぎるよ」
「アッ、ゴメンネ。怒ル?」
スカイファイアーの手に細いトランスフォーマーは猫のようにまとわりつく。オクトーンはぞわりと悪寒が走った。
「アレが輸送参謀副官さんは欲しいみたいだよ。ほら」
「オ薬、欲シイノ?……アゲルヨ、タダデ」
細いトランスフォーマーはオクトーンの手に薬瓶をにぎらせた。無色透明の液体だ。オクトーンはしばらくそれを見て考えたが、突っ返した。
「ありがたいですが、遠慮いたします。タダより高いものはない。サイバトロンの中央公文院でもそのように学びました」
オクトーンは細い機体の手に薬瓶を返そうとしたが、細い機体の手をすり抜けて薬瓶はからんと床に落ちた。
薬瓶が割れて細いトランスフォーマーに液体がかかる。スカイファイアーが笑顔を引っ込めて真顔になった。
何かマズイことをしたらしい。

細いトランスフォーマーがオクトーンにさらに近づいてきた。
細いトランスフォーマーは瞳を高速で明滅させている。オクトーンが身を引こうとすると、突然細いトランスフォーマーはしゃがれた低い男の声を出した。
「『貴様、サイバトロンとしての誇りはないのか?仮にも中央政務に関わったならば死んでも報いようと思わないのか?』《やだやだ、まぁた勘違い君かよぉー。あーあ、いいよいいよ。こいつね、頭おかしいの。気にすんなぁあ?》"嘘つきガ、イくありまセン。気おツケましょー"」
若い男の声、舌足らずな女の声がそれに重なる。
スカイファイアーが細いトランスフォーマーの肩を掴んだ。
「トレパン」
「『恥知らずめ、寄るな!!』《うわ、ひ、人殺し!来るな、来ないでくれぇ!》"二人とモ、落ちツく"」
細いトランスフォーマーは急に暴れ出す。暴れる手がスカイファイアーの瞳を掠る。パキリと軽い音がした。
片目から体内循環オイルが滴れる。
スカイファイアーはそれを気にせず、細いトランスフォーマーを抱きしめた。
「帰っておいで、トレパン」
細いトランスフォーマーは何かを叫んでいたが、糸の切れた操り人形のようにくたりと大人しくなった。
「トレパンは僕を一人にしないよね?」
「……トレパン、スカイファイアー、大切。1人、シナイヨ」
「よかった。じゃあ、何もしない」
スカイファイアーの顎をどろりとオイルが滑り落ちる。スカイファイアーはオクトーンを見て微笑んだ。
「ねぇ、オクトーン。この薬、使おうよ。ね?」
スカイファイアーが収納ケースから薬瓶を取り出した。生物としての勘が、オクトーンの手を薬瓶に伸ばす。
4つの瞳がその様子をじっと眺めている。

ーーーー

「はぁ?青瞳が欲しい次は、恋がしてみたいだと?」
フェリクス7でマフィアの使い走りをしていた頃だ。
ボスのクロスカットと話をしていたら話の流れで色話になった。クロスカットの隣で警護をしている大柄な男ジャンクヒープが噴き出した。
クロスカットもジャンクヒープの背を叩きながら笑いをかみ殺している。
ジャンクヒープは涙目になりながら、オクトーンの顔を見て苦しそうにしている。
「冷血漢のオクトーンが、恋とか…お前、笑い殺しにかかってるだろ」
「ジャンクヒープ、笑うなよ。恋がしたいん…無理だ!!可笑しすぎる!!」
クロスカットもひいひい笑い出す。オクトーンが苦虫を潰したような表情をしても、お構いなしだ。
「…なんで、オレがそんなこと言われなきゃいけねぇんですかい」
オクトーンの呟きを無視して、マフィアのボスとその側近はふざけ始める。
「オクトーンに恋をさせる委員会発足だ。委員長はボスで良いですね?」
「いや、俺は書記だ。お前が委員長をやれ。委員長!私は何をしたら良いですか!!」
「よし、女の子を連れてこい」
「ラジャー。チェリー撲滅委員、がんばりまーす」
おちゃらける2人とは対照的に辺りからは硝煙が立ち上り、トランスフォーマーの身体が方々に飛び散っている。
「隊長、女の子発見しました!」
クロスカットが指差したのは女性トランスフォーマーらしき腕だ。ジャンクヒープは片目を歪める。
「本当ですね。おい、オクトーン。女の子だ」
「オレは生きてる女の子でないと無理ですぜ」
オクトーンはそう言いつつ顎を撫でた。クロスカットとジャンクヒープも顔を見合わせている。
「おかしいな。いたのは野郎だけのはずだぞ?」
クロスカットが片手を出すと、オクトーンは持っていた葉巻を差し出した。火をつけるところまで流れるような動作だ。
「オクトーン、今回の仕事は誰だ」
「ワイルドシーカーですかね」
「……ワイルドシーカーか。ジャンクヒープ任せたぞ」
「分かりました、ボス」
ジャンクヒープがぐるりと背を向けて歩き出そうとすると、クロスカットはオクトーンに目配せをした。
オクトーンが意を図りかねていると、クロスカットはボイスレコーダーをオクトーンに投げ渡した。
「お前も行ってこい」
オクトーンはボイスレコーダーをちらりと見てからクロスカットを見返した。ニヤリと笑っている。
「お前なら、大丈夫だろ?」
クロスカットの葉巻から紫煙があがる。オクトーンがボイスレコーダーを握りしめていると、戻ってきたジャンクヒープがオクトーンの背を叩いた。
「サイバトロン出のファミリーはお前が初めてだぜ?」
ボイスレコーダーを持つオクトーンの手は震えていた。

とうとうボスの仲間になれた。
こんなに嬉しい事はない。

オクトーンは少しばかり跳ねながら、ジャンクヒープを追う。ボスの笑い声が死体だらけの街の一角に木霊する。

「オクトーン、尋問のアドバイスだ!《難所では太々しく笑え》!」
ボスの声がして、オクトーンは一瞬振り返った。

ーーー

男の笑い声でオクトーンは赤い瞳に灯をともした。
スカイファイアーに違いない。
スカイファイアーにまとわりついていたあのトランスフォーマーの声もする。
「オクトーン、オ部屋デ航空参謀ガ待ッテルヨ」
医療参謀が去ったのを察知してからオクトーンはむくりと立ち上がった。

医療参謀から渡された薬はドラッグだった。

ドラッグを渡されたオクトーンは始めは航空参謀に甘い顔をして近づいた。それなりに上手く近づけば、一本気な航空参謀は簡単に落ちた。所詮はデストロンだ。短絡的で感情的な集団なのだ。
あとは簡単だ。ドラッグに手を出させ、ズルズルと引きずり込む。錯乱した航空参謀は支離滅裂で凶暴な指示をだす。
極めつけは、閣議なしでのサイバトロン捕虜の射殺だ。
とても反戦派だった参謀だとは思えない。

「いやー、ドラッグは怖いねぇ」
ケラケラ笑いながら長い廊下を歩くと、最近遊撃参謀部から引き込んだスパイが肩をすくめる。
「ドラッグもだが、某には貴殿も恐ろしいでござる」
銀色に光る新しい部下はオクトーンの2歩後ろを歩きながらあたりを見渡している。一般のデストロン兵士が他参謀部の政務区域に入ることはそうそうない。きっと珍しいのだろう。そろそろ、政務区域の中心にある航空参謀の執務室だ。
オクトーンは部下を振り返った。
「アダムス、アレの手配をしてくれ」
「御意」
銀色のトランスフォーマーは変形すると音もなく飛んで行った。
オクトーンはそれを見送ると、一つ咳払いをしてから航空参謀の執務室へ入った。

航空参謀バスターは机に座り青エネルゴンをあおっていた。聡明だった面影はない。
振り返らずに胸にかけたペンダントを眺めている。
「ハイドラーか?」
掠れた不健康な声が部屋に響き、オクトーンは軽く微笑んだ。
「いいえ、輸送参謀副官のオクトーンです」
バスターはちらりとオクトーンを青い瞳で見る。オクトーンは若干背筋に冷たいものが走った。輸送参謀部のオクトーンと違い、バスターは戦闘の花形である航空参謀部だ。暴れられればとてもでないが、手に負えない。

バスターがゆらりとオクトーンに近づいてくる。
オクトーンは笑顔を崩さずにバスターを正面から見た。
「お久しぶりです、航空参謀閣下」
わざと芝居かかった挨拶をすると、バスターはピタリと立ち止まった。
「貴様、私を嵌めたな?」
オクトーンは片眉をあげた。被害妄想が強くなっている。バスターの手元を見ると、やはりといえばなんだが、拳銃が握られている。
オクトーンはスパークが縮こまった。これは、死んだかもしれない。
オクトーンは不意にフェリクス7でのボスを思い出し、サイバトロン中央区公文院での仕事を思い出した。ボスの言葉と公文院の文献がブレインサーキットを駆け巡る。
一擲を成して乾坤を賭せん
難所では太々しく笑え。
オクトーンは思い出して、バスターに笑いかけた。
「私が怪しいと言われるのですか?」
「そうに決まっているだろう!」
バスターが吠えたが、オクトーンは瞳を明滅させてから尋ねた。
「どうしてでしょう」
「ど、どうしてだと!!貴様が私に渡したあの薬瓶から全てがおかしいんだ!あの薬瓶が無ければ、私はこんな状態には陥っていない!」
大声でまくし立て始める。
これでいい。時間を稼げばいいだけだ。部下が帰ってくるまで、このバカな女に怒鳴らせていれば良いのだ。

不意に部屋の空気が変わる。怒鳴り続けるバスターは分かっていないようだが、あの部下が帰ってきたようだ。
オクトーンは微笑んでから、お辞儀をした。バスターが言葉を止めた。

「参謀閣下、実を言うと贈り物がありまして」

銀色のトランスフォーマーがスッと部屋に現れる。オクトーンの部下は、大層大きなずた袋をひっくり返した。

ごとりと何かが落ちた。
バスターは歯噛みしながらも瞳を細めて、それを見る。
何かの金属に棒が何本か刺さったそれは初めは何かわからなかった。皮を剥がれたターボフォックスかもしれないと思った。
気味が悪くて顔を歪め身を引くと、それが動いているのが分かった。
「解体場へ持っていくものを見せないでくれ」
バスターの言葉にオクトーンは笑みを深くした。
「参謀閣下よくご覧ください」
オクトーンは相変わらず微笑んでいる。
バスターはふとソレからトランスフォーマーの手が生えているのに気づいた。いや、トランスフォーマーなのだ。
目も抉れていれば歯も抜かれている。所々皮を剥がされているが、指だって殆ど潰されているが、口やら排泄口などの開口部には釘や鉄パイプがぐじゃぐじゃになるまで突っ込まれているが。

しかし、ソレは、よく見知った姿の一部だ。いや、よくよく見れば、むしろ全体だった。

バスターは見るのも憚れるソレを食い入るように見た。

ソレは時たまもぞりと動く。まだ生きている。おそらく音も光も匂いも何もない世界で。

バスターがソレから目を反らせないのは、ソレを見知っていたはずだからだ。ソレは、最高の理解者で、助言者のはずだった。

「ハイドラー……」

バスターはそれだけ呟いてから、えづき嘔吐した。
オクトーンはまだ微笑んでいる。
嘔吐物を気にせずに、ゆっくりとバスターに歩み寄るとひざまづいた。
「反対勢力の首謀者を貴方の言う通りに始末しただけです。何故それほど動揺するのです」
「ハイドラーが、私に、銃を向けるはずがない」
バスターの言葉には覇気がない。オクトーンはすくりと立ち上がって床に膝をついたままのバスターを見下ろした。
「それはどうでしょう?薬物依存のお偉方には分からないかもしれませんね。戦争に加担し、権力を傘に捕虜を射殺した。そんな方に、貴方のお友達は手を貸してくれますか?ーーーあぁ、貸してくれようとはしていたかもしれませんね。何せ彼女は喋れる段階ではずっと貴方を心配していましたから」
バスターが再び吐いた。嘔吐物で汚れた手で顔を覆ったまま彼女はぶつぶつ呟いた。
「……もういい。もうたくさんだ、航空参謀の地位なんかいらない。私がやりたかったのはこんなことじゃない。こんな所、充分だ」
「では、これにサインを」
オクトーンが書状を差し出すと航空参謀は何も読まずにサインを書いた。

オクトーンはそのサインを確認する。
「復讐なんて、詰まらないことは考えないでくださいよ?」
まぁ、そもそも、考えさせる隙も与える気はないが。オクトーンはほくそ笑む。


その後、失脚した青瞳の航空参謀が行方不明になったのは言うまでもない。

ーーー

紫色の機体がこちらを振り向いた。

青いバイザーをかけた青年は至極大切そうにアナログ媒体の書籍を見つめている。あれは大昔の伝記だ。あの青年が初めて解読し読み切ることになる本だ。本の感想を聞きたくて、かけようとした声をなんとか飲み込む。
バイザーの青年は本を抱えたまま歩き去っていく。

サイバトロンのエンブレムを剥がした青年は銃の手入れに余念がない。自分の安っぽい銃ではない。尊敬するボスの高性能な銃だ。
その銃は、ボスが君に贈ろうと思ったからこそ、君に1番いいのを選ばせた銃なんだ。
青年は磨き終わった銃に一礼すると、ボスの部屋へと軽い足取りで歩いていく。


次に夢から覚めるのは……。


ーーーー

「オクトーン、お願いがあるんだ」
まどろんでいたようだ。オレンジ色の照明に大柄な男の影がぼんやりと浮かぶ。
寝起きのオクトーンは右手を光にかざして男の姿をとらえようとした。
男は青い瞳を歪に曲げてオクトーンを見下ろしている。
「第3戦艦タイタニアに僕の副官を乗せてほしい。あぁ、傷なんかはつけないでくれよ?下士官と偽るが、冷遇は避けること。それから、生体AIの管理者に任命し、僕との個人回線を常に秘密裏に使わせてやってほしいんだ」
オクトーンは男に向かい口角を上げた。
「条件が多すぎる。無理だ」
リチャージスラブに寝転がったままのオクトーンに男は呟いた。ねっとりとした声がオクトーンのイヤーセンサーにまとわりつく。
「条件をのめるならば、君に青い瞳をあげよう」
オクトーンは赤い瞳を見開いた。






ーーー

僕には望みがある。
皆と同じ青い瞳が欲しい。

俺には夢がある。
心を許せる仲間を持ちたい。

私には事実しかない。
それでも、望みと夢に溺れたい。

あぁ、力無きプライマス。
我らのちぐはぐな瞳に、どうか光を授けたまえ。

mae ato
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