♯1


サニー、どこへ行くんだ?

パワースポット巡りだよ、姉さん。

……またワケのわからないことを。とりあえず、夜明けまでには帰れよな。


その会話が姉弟の最後の会話だった。



サンストリーカーを見送った後、アラートはアーク28内の自室に帰ろうとした。が、すぐに携帯端末に連絡が入る。差出人を見るとトラックスからで、連絡の重要レベルは緊急重要になっている。
アラートは制御室に足早に向かった。

制御室に着くと、トラックスとロータストーム、ファイアスターがいた。アラートは、アーク28のトップ3しかいなかったことに少しばかり面食らってから、皆に挨拶をした。トラックスは相変わらずニコニコしているが、他の2人は若干緊張気味だ。ロータストームなんかは部屋の中を行ったり来たりして動物園のクマのようだ。
「どうしたんだよ。腹でも減ったのか?」
アラートがロータストームに話しかけると、ロータストームは勢いよく振り返りそれから口を真一文字に結んで黙り込んでしまった。
アラートがロータストームの背を叩くとロータストームはポツリと呟いた。
「第3戦艦タイタニアを知っているか?」
「そりゃ、知ってるよ。デストロンの大型戦艦で今の所、最新鋭の船舶だろ?」
アラートが訝しげにすると、ロータストームはその場にへなへなと座り込んでしまった。
「こんな脳筋でも知っているんだ!もうおしまいだ!」
「だ、誰が脳筋だ!」
アラートが怒ってロータストームに言ってもロータストームは頭をかかえるばかりだ。アラートが頭のセンサーをバチバチ光らせながらロータストームを睨んでいると、ファイアスターが苛立ちを隠さずに吐き出すように言った。
「脳筋と言われても致し方がないのでは?ここまでの流れで大体は察するべきだ」
「は?何ですか?」
アラートが今度はファイアスターを睨む。が、アラートはファイアスターから目を逸らしてしまった。やっぱり私なんかより、ファイアスターはキレイだしプロポーションもいい。胸が大きいのが羨ましくなんかないんだから…。
と、突然トラックスが手を叩いた。全員が振り返る。
「ここにいる人だけの話にしよう。まぁ、2人にはもう言ったんだけど、地球にデストロン戦艦が来ているんだ。……それが、デストロン第3戦艦タイタニアというネメシス級戦艦なんだよ。輸送参謀部と科学参謀部、それから医療参謀部が管理している戦艦で……ま、丸くいうと、そんな船が58アストロメートル先にいるから、ヤバイってこと」
アラートは今度こそ本当に驚いて頭のセンサーがショートする寸前までバチリと放電した。
「そ、それでどうするんです!?」
アラートが叫ぶと、トラックスは微笑みを絶やさずに人差し指を口元に立てた。
「とりあえず、戦略的撤退だね。別の場所に移動しよう」
アラートはそれを聞き、すぐにサンストリーカーとの個人回線を繋ごうとした。が、それをロータストームに止められる。
「移動するなら外出中の弟のサニーに連絡を入れないと」
アラートがロータストームに言うとロータストームは肩を竦めた。
「君こそ何をしている。タイタニアのセンサーはサイバトロンのどの戦艦よりも精密だ。見つかったらどうする」
「…暗号化するよ!いいだろ?」
「馬鹿なのか?!トランスフォーマーは地球にはタイタニアのクルーと我々しかいないんだ!一瞬でサイバトロンがいると分かるだろうが!」
「…確かに。じゃあ、ライトサインだけ今停泊しているところに置いていくよ」

アラートがライトサインを置くと、すぐにアーク28は移動を始めた。

4人以外のクルーは首をかしげていたが、トラックスの言うことなのでとりあえず従った。ただグラップルだけがこう言った。
「サニーは後で来るのかい?おいら、心配だよ」
アラートは仕方がなくうなずいた。


次の停泊場所に向かう時、アラートはサンストリーカーがいるであろうあたりを見た。山に囲まれたのどかな街だ。
「お、落盤があったぞー」
スプラングがゲラゲラ笑いながら言った。アラートは慌てて窓からその様子を見ようとしたが、すでに地球の大気にある雲に飲まれて街の様子は見えなくなっていた。



それから、数日が経った。

サンストリーカーは未だに現れない。アーク28のクルーは不思議に思いながらものん気に地質調査やエネルギー調査に励んでいる。
アラートは船外に出て膝を抱えて空を見上げていた。
「アラート」
声をかけられて振り返ると、ロータストームがいた。アラートは自分の膝小僧に顔を埋めた。アラートのすぐ隣で砂利の擦れ合う音がした。
アラートの隣にロータストームが座ったようだ。
しばらく2人で黙って座り込む。遠くで地球の動物の鳴き声がした。
「サニーが、デストロンに捕まってたらどうしよう」
アラートがポツリと呟くと、ロータストームはアラートの肩に手を回して軽く背を叩いた。
「大丈夫だよ」
「どこにそんな保証があるの?」
横目でロータストームを見ると、ロータストームは困ってしまったようで忙しなく瞳を明滅させていた。
また動物の鳴き声がする。あれは、牛という生き物だ。
ロータストームが立ち上がった。
「アラート、少佐には内緒だけど、サニーを探しに行こう」
アラートは俯いたままうなずいた。

ロータストームがアパッチに、アラートがランボルギーニに変形する。アパッチは空高く飛び上がる。アパッチから青白い光が幾度も伸びる。
『サイバトロンの反応は北北西から。原住民の家から出ている』
ロータストームから通信が入り、アラートに座標が送られてくる。
『私は目立つから迂回していくよ。少し遅れる』
そう連絡が入るとロータストームはさらに空高く飛び始めた。

砂利だらけの道を走っていると、タイヤがキズだらけになる。アラートはこんな悪路を走ったのは初めてだった。思わずロボットモードになりたくなったが何度も人間の車とすれ違うので我慢した。
『ひどい道だよ、ロータストーム!』
『だろうね。私はヘリコプターでよかったよ』
『何だい、その言い草!子リスちゃんのくせに!』
『誰が子リスちゃんだ!……まぁ、君が元気になってよかったよ、アラート』
2人でたわいも無い通信をしていると、目的の座標についた。郊外にある一軒家だ。座標をさらに細かく見るとそこのガレージから反応が出ている。
『後でね、ロータストーム』
『あぁ。アラート、また後で』
アラートはガレージに突進する勢いで乗り込んだ。

本当に突進するものだから、ガレージの入り口が壊れる。ビークルモードのままあたりを見渡すと、確かに黄色いランボルギーニがそこには、『いた』。ランボルギーニにはサイバトロンのマークがある。

「サニー!!」
アラートがトランスフォームして見知ったランボルギーニに近寄るとガレージの中でランボルギーニは後ずさりをした。
「心配したぞ!帰ろう、みんな待っている」
アラートは弟に手を伸ばした。しかし、弟は聞き慣れた声で知らない言語を叫び出す。
地球の言葉だ。アラートは艦内で配られた地球の言語プログラムを急いで経口摂取した。
すっと言語がブレインに入り込む様になる。
「ぱ、パパ!ママ!!お化けだ!!お化けがいる!!」
不思議な事を必死に叫んでいる弟にアラートは焦った。
「サニー、どうしたんだ…?」
突然アラートの顔に高圧の水が飛んでくる。アラートが顔を抑えながら振り返ると、未だに水が垂れているホースを抱えた地球人の若い男がこちらを向き仁王立ちしている。

「俺の弟に何の用だ!!」
「君の弟?」
アラートが顔の水を拭っていると小さな地球人は多少の怯えを見せながらもサンストリーカーを庇うように立ちはだかる。

「そうだ、サイモンは俺たちのたった一人の弟だ!!」
「何を言っているのかさっぱりだ。サニーは、"私の"弟だ。助けてもらっていたようだから感謝するが、そろそろ帰らないといけない。ほら、サニー。帰ろう」
アラートが促してもサンストリーカーはトランスフォームしない。アラートは肩をすくめた。たまにサンストリーカーは意味のわからないことでごねる事がある。今回もその口だと思った。
「おい、アーク28に帰らないと…」
「…俺、家、ここだけど?」
「もっとマシなジョークを言えよ。サニーの家はセイバートロン、アイアコーン、第9居住区5ストリート-682ブロック-1062-11だろ」
「…セイバートロン……何それ」

アラートは呆気にとられて口を開いてしまった。
アラートを睨みつける地球人。様子のおかしい弟。

アラートのセンサーがまた青白い光を帯び始めた。


ーーー

デストロン第3戦艦タイタニア、中央制御室ーー。

様々な色の光がモニターの上を光っては消え、流れては消えを繰り返す。
そのモニターの上を青白い光が走ったのを、輸送参謀オクトーンは見逃さなかった。
その光に手を伸ばせば、通信音声が傍受モードで展開される。

『後でね、ロータストーム』
『あぁ。アラート、また後で』

オクトーンはニタリと赤い瞳を歪めて笑う。
「見つけたぞ、青瞳ども」

だが、オクトーンは艦内中枢回路に走った紫色のメッセージは見逃していた。

ーアラート?アラートがそこにいるのか?ー

そのメッセージは確かにそう打たれていた。

mae ato
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