地球へくるまで


メガトロンに会ったことが、ある。

『Fight for freedom, release from deception.』

どんなに頑張ったって、『赤瞳』だと青や緑、黄色の奴らに言われて後ろ指を指されていた。俺は、『赤瞳』のメガトロンの言葉を聞いて柄にもなく、泣いた。

赤瞳は良くても俺みたいな低所得者、普通なんかはスラムが当然だった。学を積めばリンチされ、武を磨けば投獄だ。その先に待っているのは、間違いなく死しかない。

俺たちは諦めていた。
だが、メガトロンは違った。
『過去のゼータプライムが失敗したのは、平和的交渉に徹しすぎたからだ。我々は戦ってでも自由と平等を勝ち取る。いや、奪い取らねばならないのだ!剣をとれ、銃をとれ!!貴様らが勝利するまでは我が貴様らの先駆者だ!!』
メガトロンの横にいるのはスタースクリーム、それから黄色の瞳のサウンドウェーブだ。

気づくと俺たちは怒鳴っていた。怒鳴るように泣いていたんだ。
『ハイル、メガトロン!ハイル、デストロン!!』

戦え、自由のために。
放たれよ、欺瞞から。


この世界は、俺たち『赤瞳』のモノでもあるのだ。

ーーーー


「『Fight for freedom, release from deception.』」

オンスロートの口からデストロン軍創起の言葉が洩れた。
メガトロンがたおれてから久しいとも言える時が流れた。
あの頃は若者だったオンスロートも、既に若いとは言い切れない。
一度は人口が20分の1まで減少したデストロンでは、オンスロートのようなまだアブラののったトランスフォーマーでも年寄り呼ばわりされることもある。デストロンの75%が稼働してまだ500ステラサイクルも経っていない若い個体だ。サイバトロンでは考えられないような数値のはずだ。

「よぅ、オンスロート!栄転したじゃねぇか」
オンスロートがデッキでだだっ広い宇宙を眺めタバコを吹かしていると旧友のBBがやってきた。オンスロートは頭をかきながら肩をすくめた。
「栄転ってのは、艦内整備責任者になったお前みたいのを言うんだよ。俺のは、ただの子守だ」
「ははは!言うねぇ!!俺っちにも1本くれよ」
BBに言われてオンスロートはタバコのケースを投げた。タバコはBBの指を弾きデッキの外に出てしまった。オンスロートは思わず舌打ちをする。
「勘弁してくれよ。ソイツはたけぇんだぞ」
「は?テメェが投げたんだろ?」
「……んだと?やるかコラ」
「そいつぁ、俺っちの台詞だよ」
オンスロートがタバコを吐き出して指を鳴らせば、BBも負けずに自身の拳を叩きあわせた。周りにいた若いクルーはその様子を見たがすぐに目を離した。デストロンでは殴り合いなんて日常茶飯事だ。それは、老いも若きも同じである。
殴り合っている空陸参謀副官と艦内整備責任者を尻目にデッキのクルーは見張りを続ける。椅子にどっかり座りながらレーダーを見ながら欠伸をしていると、レーダーに真っ青な光が突然映った。クルーは椅子から勢いよく立ち上がった。『サイバトロン、リンクス級戦艦』。レーダーにはそう映っている。クルーは怒鳴った。
「空陸参謀副官!!艦内整備長!!殴り合ってるヒマじゃないですぜ!!」
クルーの叫び声がした時、オンスロートとBBは丁度クロスカウンターが決まっていた。

それから、参謀会が開かれたのはたったの15サイクル後だった。

寝起きで眠いのか空陸参謀ブリッツウィングは欠伸をしている。副官であるオンスロートがため息をつくと、空陸参謀は不服だったのか人差し指で頭を撃ち抜く真似をしてくる。間違いなく、ガキでなければ殴っていたがオンスロートはなんとか飲み込んだ。

『サイバトロン戦艦フォートレス』。
それが、今近づいてきている戦艦だそうだ。科学参謀部の調べではタイタニアよりもランクは落ちるが中々の船らしい。
科学参謀マグニフィカスが言うには、戦艦フォートレスからはデストロンの救援信号が出てきているらしい。
「……私の読みが間違いでなければ、ガーラス9から出ている船でしょう。簡単に言えば、違法な取り調べを受けた捕虜が大量に乗っている。そんな船舶です」
「それなら、助けにいかねぇとな」
オンスロートが言うと、すぐ近くに座っていた輸送参謀副官のオクトーンが笑い声をあげる。
「そんな事はしなくて結構です。たかが50名ごときに時間の無駄……で、なくてハイリスク過ぎます」
「テメェ!同胞が乗ってんだぞ?!デストロン、舐めてんのか!」
輸送参謀副官オクトーンの言葉に整備長のBBが食ってかかった。殴りかかろうとしているBBを遊撃参謀デッドエンドがなだめている。
艦長のアストロトレインはアゴを撫でながら科学参謀マグニフィカスに尋ねた。
「相手は、こっちに気づいているのか?」
「まさか。こちらのレーダーは通常の10倍以上の能力があります。操舵支援AIがジャグミングを常に使ってくるアーク系巡宙艦以外には敵はありませんよ」
「そうか。儂等が少しばかり脅せば捕虜を受け渡しそうだな」
アストロトレインがうなずきながら艦内放送マイクに手を伸ばした瞬間だ。輸送参謀副官オクトーンがその手を掴んだ。
「待ってください、艦長」
アストロトレインが面倒そうにオクトーンを見ると、オクトーンはいつもの調子で笑った。
「あの船舶にレッカーズ数名と軍警20名が乗っていても、脅しますか?」
その場にいた皆が息を飲んだ。

レッカーズとはサイバトロンの中でも戦闘のプロ達のことだ。レッカーズ相手であれば相当の被害は覚悟しなければならない。その上、サイバトロンの拷問吏と言われる軍警までいれば尚更だ。
場の空気が凍りついたことにオクトーンはほくそ笑んだ。オンスロートは思わず舌打ちをしたくなり隣にいたBBに目配せをした。が、BBはすっかり怖気付いてしまったようで右手で口を押さえて震えている。
遊撃参謀デッドエンドだけがため息をついて椅子に深く座った。
「レッカーズ数名かい?アタイら遊撃参謀部はそんな奴らとの交戦は慣れてるぜ?まぁ、何人かは死ぬけどね。空陸参謀部はどうだい、空陸参謀ブリッツウィングさんよぉ」
突然話を振られてブリッツウィングは目を瞬かせた。ブリッツウィングは首を傾げながら呟いた。
「分かんないけど、コロシアイならオレたちできる。Recht?!」
幼い空陸参謀はオンスロートをつついた。オンスロートは呆れながらも適当に相槌を打った。
「科学参謀部は爆撃程度なら手伝おう。それしかできないからな」
オンスロートはアストロトレインを見た。アストロトレインは考え込んでいる。その顔はどこか浮かない。
輸送参謀であるアストロトレインにとってはレッカーズは敵ではなくただの脅威だ。オクトーンはニッと笑って整備長BBに言った。
「実を言うと、どのようなレッカーズがいるか、どのような軍警がいるかも把握していましてね。軍警には艦船殺しで有名な第5課が大量にいるそうで」
整備長BBはギョッとした様子で立ち上がって叫んだ。
「ムリだムリだムリだ!!我々には戦闘員が少なすぎる!!相手はサイバトロンの大型戦艦だぞ?!しかも壊し屋の拷問吏が大量に乗っている!!やめてくれ!!また艦が壊れる!!」
艦内設備責任者BBが怒鳴る。アストロトレインは困って周りを見渡した。輸送参謀副官オクトーンがニコリと微笑んだ。
「まぁ、確かに捕虜は大量に乗っていますよ。でも、捕まった奴が悪いじゃないですか?面倒ですよ」
それを聞き、遊撃参謀デッドエンドが呟いた。
「……アタイは艦長の言う通りにする。どうする?」
「科学参謀部も同じく」
艦長であるアストロトレインは椅子に深く座りなおした。
空陸参謀の方をちらりと見たが、空陸参謀はポカンと口を開いているだけだ。アストロトレインはため息をついて口を開く。
「そうだな。確かに同胞はーー。」

「輸送参謀。アンタ、破壊大帝メガトロンを知っているか」

突然、空陸参謀の隣にいたオンスロートが言葉を発した。皆がオンスロートに注目する。艦長アストロトレインが目を見開いた。オンスロートは立ち上がって静かに言った。
「デストロンの創始者が、何を言ったか覚えているか。忘れたなら教えてやる」
静まり返った部屋の中オンスロートはまっすぐとアストロトレインを見た。
『Fight for freedom, release from deception.』
オンスロートが唄うように口ずさんだ。オンスロートの言葉にアストロトレインも立ち上がり、言葉を繰り返す。
『Fight for freedom, release from deception.』
先ほどまで文句を言っていたBBも立ち上がる。BBが立ち上がればそれに遊撃参謀デッドエンド、科学参謀マグニフィカスも続く。空陸参謀ブリッツウィングもよく分からないながら立ち上がった。
輸送参謀副官のオクトーンだけが忌々しげにそれを見ていた。
「これはサイバトロンの罠だ。我々が交戦することを見透かし艦船の運行状況を把握しようとしている」
オクトーンはぼそりと口早に呟いたが、周りの様子を見て渋々と立ち上がった。
アストロトレインが胸に手を当て言った。
『ハイル、メガトロン!ハイル、デストロン!!』
場にいたデストロンが声を合わせて怒鳴った。

怒鳴ると皆が一斉に座る。アストロトレインが祈るように瞳を暗くした。
「自由を。解放を。それがデストロンだったな」

アストロトレインの瞳がカッと赤く輝いた。第3戦艦タイタニア艦長は指をゆっくりと組みなおす。

「第3戦艦タイタニア、総員に告ぐ。我々の同胞が捕縛され、苦しんでいる。交戦だ。同胞を取り返せ」

オンスロートはニヤリと笑ってBBとオクトーンを見た。BBは感激したのか少しばかり涙ぐんでいたが、オクトーンは酷い形相でオンスロートを睨んでいる。
オクトーンはぼそりと呟いた。

「これで、どの艦が地球へ向かっているかバレたわけだ。覚えてろよ、古びた骨董品めが」

mae ato
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