そのひととなり


円盤に変形したアダムスを仲間たちは笑って見上げる。銀色に仄かに発光する円盤は仲間たちには随分と優しく可愛らしく見えたものだった。



アダムスはサイファーで産まれた最初期のトランスフォーマーだ。
サイファーで産まれたアダムスは、開拓地で暮らしていて、他のトランスフォーマーたちと違って円盤という不思議な形のビークルモードを持っていた。そして、何人かの家族のような仲間たちと同じ屋根の下で生きていた。

アダムス以外のトランスフォーマーはみんなセイバートロンから来たトランスフォーマーだ。一番年下にあたるアダムスはよく彼らに注意を受けた。
「あんまり遠くへ行かないことだ。テラーコンに喰われちまうからな」
テラーコンとは、トランスフォーマーの失敗作が逃げ出して生きのびている化け物のようなものだ。
注意されるたびに、アダムスは瞳を瞬かせて答えた。
「トランスフォーマーなんて硬いもの食べ辛いのに。エネルゴンやオイルのほうがよっぽどおいしいのに」
「でもテラーコンはトランスフォーマーを襲うんだよ」
「ほんとかなぁ」
アダムスは仲間たちの言葉はよくわからなかった。

アダムスたちの集落の北の方には鬼の角のように尖った山があった。
この山にテラーコンのシャドウホークが住んでいた。
シャドウホークはテラーコンの中でも特に凶暴で、戦闘用に特化して作られていた。廃棄処分を自力で免れたシャドウホークは山の主として住み着き、時たま離れた集落などを襲って生きていた。
シャドウホークの飛ぶ姿は、アダムスたちの集落からもよく晴れた日には点のように見えることがあった。

ある夜のことだ。
テラーコンのシャドウホークは山を下りて、アダムスの集落を襲撃してきた。
真っ暗な闇の中で、アダムスの仲間たちの死にものぐるいの戦いが続いた。

そして、アダムスの仲間たちは物置にアダムスを庇って隠して死んでしまった。

アダムスは泣きながらシャドウホークの住む山へと登っていった。険しい山だった。それでも登っていった。

アダムスの仲間を食い散らかして、腹が一杯になって居眠りをしていたシャドウホークはキラリとした円盤の光で目を覚ました。
「なんだい、お前さんは?」
「おいら、麓の集落のアダムスだ。おいらもあんたみたいな強いテラーコンになりたくてやってきたんだ」
シャドウホークはちらりとアダムスの姿を見た。普通のトランスフォーマーと違って円盤という異様なものに変形するアダムスは確かにテラーコンのようにも見えた。
「おいらをあんたの弟子にしてください」
テラーコンのシャドウホークはこんなことを言われるのは初めてだった。シャドウホークのスパークはわずかにふわっと暖かくなった。

こうしてアダムスはテラーコンのシャドウホークの弟子になった。
毎日激しい訓練が続く。
「そんなことじゃあダメだね。コイツをかわしてみな」
そう言ってシャドウホークが尖った手裏剣のようなものを投げた。アダムスに幾つか刺さりアダムスは転倒した。
ただのトランスフォーマーのアダムスには、戦闘用のシャドウホークのようになるのはやはり無理のようだった。

そして、幾度かの季節が過ぎ去り、幾サイクルかのステラサイクルが過ぎていった。

ただの円盤に変形するだけだったアダムスは、自分の姿に似た戦輪を投げる戦士へと成長していった。シャドウホークの投擲兵器によく似たそれをアダムスは0.5アストロメートル離れた所からでも命中させることができた。銃と異なり大した音を立てない戦輪は暗殺者の兵器に他ならない。
アダムスは、以前の彼からは想像もつかない姿になっていた。その姿は、そう、まさにテラーコンだった。

アダムスは昔のように円盤へと変形したが、今ではその姿を見ただけでみんな震え上がってしまう。
アダムスとシャドウホークは2体の荒くれ者として、この一帯では誰も知らぬ者もいないほど恐れられるようになっていたのだった。
「いいかい、アダムス。今晩はあの開拓者の集落を襲ってやろう」
「承知した。某らにできぬ事などない」

その晩は激しい電磁嵐になった。
電磁嵐をついてアダムスは集落へと飛んでいく。
「某が門番を始末しよう。銃声が聞こえたらシャドウホークは真っ直ぐに集落へ向かってくれ」
そう言い残しアダムスの姿は闇の中へ消えた。
やがて、銃声が聞こえる。
「さて、行こうかね」

シャドウホークも続いて集落へと飛んでいく。
しかしあと一息という所で物陰から何かが飛び出してきてシャドウホークに襲いかかった。

電磁嵐に伴う放電に照らし出されたのはアダムスだった。
「アダムス、よくもアタシを裏切ったもんだ」
「某の仲間は貴様に殺されたのだ。貴様は仇だ」
「なんだって?」
「某はこの時が来るのを一日千秋の思いで待っていた。貴様よりも強くなるために。あの世へ送ってやる、シャドウホーク」
アダムスが戦輪を投げる。シャドウホークも投擲兵器を繰り出す。アダムスもシャドウホークも手練だ。早々には当たらない。
何度も何度も空中を刃が飛び、そして、ついに刃はスパークに突き刺さった。
刃に貫かれたのはシャドウホークのスパークだった。

シャドウホークは次第に弱くなっていく瞳の光を光らせながら言った。
「随分と昔からいつかはくると覚悟していたよ。お前さんにやられてよかった。アタシは幸せ者さ」

電磁嵐があけて、アダムスは山の断崖の上でうなだれた。
「おいら、仲間の仇をとれたんだ。でも、何でだろう。これっぽっちもいい気分はしないんだ。
シャドウホーク、許してくれ。貴様が死んでからようやく合点した。貴様が某の師で親だったのだな。ーーー某は、ただの開拓用トランスフォーマーには戻れぬ。だが、テラーコンにもなりきれぬのだ」
アダムスは1人、空を仰いだ。



その後、サイファーで銀色に仄かに光る円盤を見た者は、誰一人としていない。

mae ato
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