その人となり


資源と生命に満ち溢れていた頃のセイバートロン。
ナイトスクリームは傷ついた頬をさすりながら、導師に尋ねた。
「導師さま。なんでみんなが私を嫌うのですか」
導師は柔らかく微笑み、ナイトスクリームの額に手をかざした。
「そんなこともわからないのかい。お前は、いらない子だからだよ」





太陽系、第3惑星。現地知性生命体の言語アップデート、完了ーー。
ブレインサーキットが動き始めた。


ナイトスクリームはハッとして目を覚ました。
「アンタ、大丈夫か?」
小さな有機生命体がこちらを見下ろしている。その後ろにはセイバートロンのそれと違い、青く白い綿のような水蒸気の塊が浮かぶ空が広がる。
そうだ。ここは、地球だ。
ナイトスクリームは立ち上がろうとしたが、身体が鉛のように重い。言葉を発そうにも口が開かない。
「おーい生きているかーい?」
有機生命体がナイトスクリームの目の前で手を振った。ナイトスクリームは瞳を明滅させる。
有機生命体はナイトスクリームの顔を覗き込んだ。ナイトスクリームはまた瞳を明滅させた。
「生きてんだな。でも、動けないみたいだ。……サイモン!!ちょっと来いよ!!」
「なんだよー、兄ちゃん。俺まだ飯食ってんのにー」
「いいから来い!!」
有機生命体が呼びかけた方から、顔を現したのはナイトスクリームと同じトランスフォーマーだった。
ナイトスクリームは驚いて瞳を見開き、声が出た。
「こんな、辺境に…」
ナイトスクリームは声が出たことにも驚いて、思わず発声器を手で押さえた。ミシミシと音を立てながらも身体が動こうとし始めている。
有機生命体も少しは驚いたようだが、すぐにトランスフォーマーを振り返った。
「なんと言っている?デストロンじゃないよな?」
「うーん、わかんないな。ねぇ、なんか怖いしほっとこうよ」
トランスフォーマーは黄色い大きな機体で(と言ってもトランスフォーマーにしては中型だ)か弱い有機生命体の後ろに隠れるような仕草を見せた。
ナイトスクリームは首を傾げて有機生命体を見た。
「デストロン…?それは何でしょうか?」
傾げた首から火花が散った。トランスフォーマーは有機生命体の後ろでその背をつついた。
「兄ちゃん、帰ろう。こいつ、きっとサイバトロンじゃない。サンストリーカーも知らない言葉話してるよ。」
「馬鹿言うな。どこでもレスキューの精神が大切なんだ」
「でも、知らない言葉ばかりだって」
知らない言葉?ナイトスクリームはまたも不思議に思った。ナイトスクリームのこの言語はセイバートロン共通語のはずだ。
それから、ナイトスクリームは気づいた。このトランスフォーマーと有機生命体は原生生物の言語で話しているようだ。そして、自分もその言語をアップデートしているようだ。
ナイトスクリームは即座にブレインサーキットを原生生物の言語に適応させた。
「すみませんでした。セイバートロン語で話しかけてしまったようです」
トランスフォーマーはギョッとして身構えたが、有機生命体は瞳を瞬かせてから口笛を軽く吹いた。
「なんだ、言葉が通じるのか!よかったよ。俺は消防士のレイ=ウィトウィッキーだ」
「私はセイバートロンから来たナイトスクリームです」
「ナイトスクリームか。…弟の紹介もした方が良いかな?」
レイの言葉にナイトスクリームは訝しげな顔をした。弟と言ってもここに有機生命体はレイしかいない。
レイはナイトスクリームを機に止めることなく、後ろで様子を伺っているトランスフォーマーを指差した。
「こいつが弟のサイモンさ。ちょっと訳ありでこんなナリだけど、悪い奴じゃないよ」
黄色いトランスフォーマーはまだこちらを警戒している素振りを見せながらも、ナイトスクリームの顔を覗き込んできた。

ナイトスクリームは、レイとサイモンに助け出されてサイモンの部屋らしきガレージまで連れて行かれた。
その間、ナイトスクリームは驚くことばかりだった。

まず、ナイトスクリームが地球に不時着してから400万年も経っていること。
あんなに豊かだったセイバートロンの資源が枯渇していること。
トランスフォーマーが、サイバトロンとデストロンに別れて戦争をしていること。
そして、何より、ナイトスクリームが信仰しているユニクロン派が廃れてしまっていることだ。

「では、皆様は何を信仰されているのですか?」
「え…。ちょっとサンストリーカーの記憶を出すから待ってよ……うーん。今のトランスフォーマーはプライマスというのを信仰しているみたいだね」
「プライマスですか。あぁ、そのような新興派閥もありましたね。そうですか、全能なるユニクロン様を皆様はお忘れになられているのですね」
「全能なる?」
「もちろんユニクロン様は唯一の神ですから全能ですよ」
サイモンはガレージの角に座り込みながら僅かばかりに嫌みをにじませる。
「アンタ、神様なんか信じてんの?」
ナイトスクリームは身体の錆を落とす手を止めてサイモンを見据える。
「ええ。もちろんです」
「俺、神様なんかいないと思うけどなー?」
サイモンの挑発的な瞳に、ナイトスクリームがニコリと微笑んだ。
「いいえ、神はいらっしゃいますよ」
サイモンが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「じゃあ、証明してよ」
「証明など必要ございません」
ナイトスクリームが答えると、サイモンは腕組みをして勝ち誇ったように言った。
「ほら、いないんだ」
ナイトスクリームは相変わらず、微笑みを絶やさず、人差し指を己の眉間に当てた。そのまま黙ってしまったナイトスクリームにサイモンはいささか動揺した。
「な、なんだよ。急に」
「貴方は今、神の存在を証明せよと仰いましたね。ならば証明いたしましょう。神の存在は、すなわちここに私がいること。そして、貴方がいらっしゃることにあります。ユニクロン様は常に皆様を見守り、宇宙を調律されております。その調律を僭越ながら手助けさせて頂くのが我々の使命でございます」
サイモンはナイトスクリームが諭すように語るのを聞き、肩を竦めた。
「その割には、もうユニクロンを誰も信じちゃいないんだろ?」
「私が思うには、きっとそれもユニクロン様が何か考えられてのことです。第一私は貴方からしかまだ我が宗派が廃れたとは聞いておりませんし」
サイモンは困ってしまって、不貞腐れる。ナイトスクリームが言うのももっともだ。確かにサイモンが嘘をついているのかもしれないと思うだろう。他のトランスフォーマーからも聞かなければ自分だって信じないはずだ。
その時、サイモンは、良いことを考えついた。
サイモンが立ち上がり、ナイトスクリームはその様子を眩しいものを見るように見つめた。
「じゃあ、サイバトロン軍に連れてったげるよ。だーれもそのユニクロンサマなんか信じてないの確認してみれば?」

サイモンは立ち上がり、ガレージのシャッターを開いた。そして、外に出るとロボットモードからビークルモードにトランスフォームする。ナイトスクリームは大型トランスフォーマーらしい大きな身体を屈めながら、物に当たらないようゆっくりとサイモンを追った。
ビークルモードのサイモンは何もせずにガレージから出てきたナイトスクリームを待つ。サイモンもナイトスクリームも正面を向き合い沈黙している。
サイモンが痺れを切らせた。
「サイバトロン基地に連れてったげるよ。トランスフォームしないの?」
ナイトスクリームはまた微笑んだ。
「私、宗教上の都合でトランスフォームコグを抜いているんです」
サイモンは唖然としてしまった。
ロボットモードならば、口をぽかんと開けてしまっていたところだ。

mae ato
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