ぎゅっと抱き締められて目を覚ました。目の前にある肌色の壁は、恋人である真波山岳のものだろう。昨日の事を思い出して顔がかっと熱くなった。
後片付けを終えた後にはもうすっかりくたくたで、真波のパジャマの上着を奪って寝たのだ。当然彼は上半身裸である。
だから寒いのかもしれない。つい最近まで幅を利かせていた太陽は、最近すっかり大人しくなっていた。それに激しい雨が屋根を叩いている。今日は随分気温が低いのだろうと思うと溜息が出た。
「山岳……?」
「んー?」
カーテンを閉め切っているから部屋に光は入らない。そもそも先程から聞こえている物凄い雨音からして太陽は望めまい。けれどその声音から真波が上機嫌である事は予想出来た。こうして自分を抱き締めているのに不満があるとなるとこちらも困るのだが。
大学生になって、真波も大分大人びた。高校生の頃は細かった腕や足にもしっかりと筋肉が付いたし、幼い顔立ちも精悍になった。けれどこうしてなまえに甘えているところは出会った頃のままで、どこか擽ったい気持ちになる。
「寒いねー」
「そうだね、で……」
「こうしてると暖かいねー」
「うん、それは確かにそうなんだけど……」
少し身を捩るとがっしりと抱き締められるから、これが意図したものなのだとわかる。逃がすつもりがないのだ。
けれど、なまえにも都合がある。
「連休でよかったよねぇ、山走れないのは残念だけど」
「今日が雨なのは昨日からわかってたでしょ?だから色々買い物に行こうって言ったじゃない」
「でもさぁ、外寒いよ」
「ロード乗ってる時は平気でしょうが」
「だって今日は乗れないんだよ」
暗がりに目が慣れたから、真波が唇を尖らせているのが分かるようになった。頬を膨らませて抗議する様は幼いくせに。
する、と真波の手が背中を撫でた。びく、と身体が跳ねる。
「寒いからさぁ……暖かくなろ?」
こんな時だけ低い、男の声で。大学生になって大人らしくなったと思ったが、根幹の快楽主義者なところは変わらない。
熱い身体が抵抗の意思を溶かしていく。
「こ、こんだけ暖かかったら大丈夫でしょ……」
「布団の中にいるから気持ちいいんだよ。ね、もっと気持ちいい事しよ」
抱き締めていた手が蠢き始める。止めようとしたなまえの手が真波の手を握り締めるまで、時間はかからなかった。