丈から連絡をもらって駆けつけた病院には共通点のある人間が何名か運び込まれていた。”意識不明という以外は身体に何の異常のない”、そして”パートナーデジモンがいる”ということ。その中にはミミちゃんと、そしてーーーなまえが、いた。
もう少し丈と話したいという光子郎を残し、俺とヤマトはパートナーデジモンと共にもう一度なまえの病室へ戻った。
どうやらあの生放送のあと楽屋で倒れたようで、ついさっきまで一緒にテレビに出演していたロップモンはまるで消えたように姿がなかったらしい。時間的に、俺と電話をしたすぐ後くらいだろう。
「……なまえのヤツ。気をつけろって、あれだけ言ったのに……」
行き場のない苛立ちを持て余してそう言うも、無論なまえは何も答えない。気持ち良さそうに眠った顔は、意識が無いなんてまるで信じられない。
久しぶりの再会が、まさかこんな形になるなんて。
「……お前、なまえとうまくいっていないのか?」
なんてこと無いという口調で、けれど明らかにタイミングを見計らって、ヤマトが言った。
「うまくいってない、つーか…まぁ、うまくはいってないか。何かあったわけじゃないんだけど…お互いバタバタしてて、っていうか…」
頭を掻きながらそう言うも、きっとコイツには何も誤魔化せてはいないだろう。
しかし、ヤマトの次の言葉に、俺は耳を疑う事になる。
「…まァ、なまえの忙しいのもあと少しだろうから」
「え?」
「年内って言っていたから、あと半年か。まさか芸能界ごとスッパリ辞めるなんてな。その後は光子郎の会社に入るんだろ」
まぁでも、光子郎の所なら安心か。そう言ったヤマトは、顰めていた眉のシワをすこしほどいて、なまえを見て目を細めた。
やめるって……まさか、アイドルをやめるって事か?は……なまえが?うそだろ。その上、光子郎の会社に入るって?
「えーっ、なまえ、アイドルやめちゃうの?」
「アグモン、知らなかったのか?」
「ボク、知らない。ねぇ、太一も知らなかったよね?」
アグモンとガブモンの会話に、ヤマトが再び眉を顰める。…まさか俺が聞いていないだなんて、夢にも思っていないって顔だ。
「……太一…知らなかったのか?」
「ああ……。何が『彼氏』だよって、おもうだろ。きっと俺には隠しておきたかったんじゃないか。俺がこんな…就活どころか、卒論のテーマすら決まってないからって気にして、」
「なまえがお前に隠す訳無いだろ!お前達ひょっとして、そもそも全然話自体出来ていないんじゃないのか」
「…なぁヤマト、もういいだろ。今、こんな話してる場合かよ」
「太一!誤魔化すなよ!」
ーーーそうだ。…俺だよ。
なまえと仕事や将来の話をする事をさけてたの、俺じゃないか。
それどころか最近は、そもそも話自体できていない。自分が惨めになるのが嫌で。ヤマトの、言う通りだった。
「……きっとなまえはもう、俺の事好きじゃねぇよ」
「……なまえがそう言ったのか」
「いいや。でも、わかるだろ。こんなんじゃ……俺がなまえならとっくに冷めてるって。アイツはさ、イケメン俳優とでも付き合った方がお似合いだ」
「太一!」
叫ぶと同時に、ヤマトが俺の胸ぐらを掴んだ。何すんだよ、という俺の声と、ヤマト、と心配そうに掛けよるガブモンの声が重なる。
「本気で言ってんのかよ!…もしそうなら、俺はお前を見損なうぞ。なまえがお前の事、どれだけ……」
ヤマトはそこまで言うと、突き飛ばすように俺の胸を押し返した。
「……心変わりしちまったのか、お前」
そんなわけない。だから、苦しいんだ。アイツの為だけ考えて身を引けたら、まだカッコイイだろうに。
「……すごく好きだよ」
絞りだすようにそう言うと、ヤマトは瞳を丸くして、そして安心したような、呆れたような表情で息をついた。
「…ソレ、なまえに言ってやれ」
言いたいよ。
だから頼む、目を開けてくれ。
なまえの寝顔なんて、滅多に見ない事に気付く。なんでって、一緒に寝ていてもいつもアイツの方が先に目を覚ましているから。
抱きしめ合って眠って、朝にふかふかの羽毛布団の中で目が合うと、なまえはバツが悪そうに「勝手に見ててごめんね」って、「一緒にいられるのが夢みたいで」って、頬を染めて言っていた。アイツの方が仕事で疲れているはずなのに早起きですごいな、くらいにしか思っていなかったけど。
あれが全部の答えだったじゃないか。
今ごろ気付くなんて。
前にもこんな事があった。いっぱいいっぱいになった俺は、なまえの気持ちが見えなくなったんだ。
ーーーなぁ、目をあけてくれ。
俺だけじゃない。きっと世界中の選ばれし子どもの大切な人たちが今、そう願っている。
…戦わなくちゃ。俺たちがやらなきゃ。
なまえの寝顔を覗き込んでいたアグモンがこちらを振り向いた。言葉がなくても伝わったように、二人で頷き合った。
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