数日後。
なまえが僕の部屋に遊びに来てくれて数時間が経つけれど、僕はまだあのリボンを渡せずにいた。
渡すなら今日と思って机の上に置いておいたのだけれど、いざとなると良くない想像ばかりしてしまって…。
彼女はパソコンやプログラミングが好きで、時々遊びに来ては一緒にパソコンをいじったり、ゲームをしたりする仲だった。
最近はデジモンにも興味津々で、テリアモンの存在も理解してくれてる。
今日も一緒にパソコンをしていたんだけど、僕はプレゼントを渡す勇気が出せないまま…もうそろそろ夕方で、いつもならなまえが帰る頃だ。
…もう、いいや。”アレ”、渡さないでおこう。
そう諦めかけた頃、なまえが机の上の紙袋に、気付いてしまった。
「ジェン!あの袋って」
なぜだか嬉しそうに指さすなまえに、僕は色んな意味でドキドキして。渡す時の言葉、たくさん準備していたのに、真っ白になってしまう。
「え…ああ、あれは…」
「駅のアクセサリー屋さんのだよね。私、あのお店大好きなの。どうしてジェンのお部屋にもあるの?」
まさか、なまえの好きなお店だったんだ。その事にすこし安心もして、袋を手に取り彼女に差し出す。大きな瞳をぱちぱちとさせるなまえに、緊張しながら伝える。
「キミに、渡そうと思って」
「えっ、私に?」
僕が頷くと、ぱっと花が開いたかのようになまえが笑った。可愛くて、まっすぐに見れない。
受け取ったなまえの、開けてもいい?っていう言葉に、何も言えずに頷く。
なまえが、僕の選んだピンクのラッピングをほどいていく。あんなに悩んで、恥ずかしい思いをして、ようやく買ったことがぼんやりと思い出された。
ラッピングを開いたなまえは中からリボンを取り出して、瞳をキラキラと瞬かせた。
「すっごくかわいい!」
普段は落ち着いている彼女が、ぴょんと跳ねて喜んでくれて、僕は心の底からほっとする。
「でも、どうして?急に、プレゼントなんて」
「それは…その。似合うと思ったから…」
歯切れ悪くそう言った僕に、なまえは嬉しそうに笑った。心なしか、頬を染めて。
そして、そのリボンをその場ですぐに、髪につけてくれた。
「…どうかな?」
「すごく可愛い!似合っているよ」
後から思い出したら歯の浮くようなセリフなのに、僕は嬉しくなってそう言ってしまった。
だって、本当にすごく似合ってる。
「毎日、つけるね」
「ええ、毎日?だってキミは、いつも色んなリボンで結んでいるじゃないか。わざわざ、こればかりつけなくたって…」
「すごく可愛くて気にいっちゃった。それに、ジェンとは学校も違うから…このリボンつけてたら、離れていてもジェンのこと、近くに感じられるし」
「なまえ…」
笑って言ったなまえの横で、リボンが愛らしく揺れた。
可愛いなぁ。本当に似合ってる。
見惚れていると、なぜかなまえも僕をじっと見つめた。なまえの顔が紅い。でもきっと、僕の方がもっとだろう。見つめ合う形になっちゃって、二人で照れ臭くなって笑った。
時が止まってくれたら良いのに。そんな非現実的な事を考えたとき、部屋の扉がノックされる音がした。
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