ドキンと大きく心臓が跳ねる。なまえちゃんは依然、心配そうに瞳を揺らしている。
本当はこの手を払うべきだ。彼女には悪いが、露骨に突き放せば流石になまえちゃんだってボクに呆れて、こうして会いにも来なくなるだろう。
なのにボクは何故、彼女の手に、自分の手を重ねているんだろう。
何も言わずに見つめ合う。なまえちゃんの手は冷たかった。いや、ボクの手が熱を帯びているのかもしれない。
キミの事が好きで苦しいのだと、言ってしまいそうになる。
「なまえちゃん、ボクはーーー」
「アキラ、いるぅ?」
能天気な声と共に自室の引き戸が開け放たれる。びっくりして振り向くと、そこにいたのは芦原さんで、同じくびっくりしてボク達を見ている。慌ててなまえちゃんから離れて、立ち上がる。
「芦原さん、どうしたのさ」
「いや、早く着いたしアキラいるかなーって。ごめんごめん、お邪魔して」
芦原さんはボクの後ろにいるなまえちゃんが気になって仕方ないみたいだった。
だけど、正直助かったかも。芦原さんが来てくれなかったら、ボクは・・・。
「えっと、アキラの彼女?」
安直な芦原さんの発言に、顔に熱が集まる。しかしボクより先に否定したのはなまえちゃんで、「いえ、お友だちです」とキッパリ言った。
「みょうじなまえといいます。アキラくんとは小さい頃から、家族ぐるみで仲良くさせて頂いてます」
「フーン、幼馴染ってヤツかあ」
ーーーそうなのだけど。その通りなのだけど、なんだか口惜しい。
「なまえちゃん、この方は芦原さん。父の門下で、ボクの兄弟子」
「芦原さん、よろしくお願いします」
彼女はそう言って、美しい所作で礼をした。普段のそそっかしさとは別人のように折り目正しい。そんななまえちゃんを紹介するのは、なんだか誇らしい気持ちだった。彼女はボクの自慢なんだ。それから、芦原さんも、ボクの自慢の先輩。二人を会わせる事ができて、良かった。
そう思って芦原さんを見上げてーーー、ぎょっとした。見たことが無い位、顔が緩んでる。「なまえちゃんかあ」なんて言って見惚れているじゃないか。
「ちょ、ちょっと芦原さん」
「何だよ、アキラ?」
「….芦原さん、先に客間へ行っていてよ。なまえちゃんはボクに渡したい物があって来てくれたそうだから、受け取ったらボクも行くから」
半ば強引に芦原さんの背中を押して引き戸を閉める。戸の向こうから「なんだよ、もう」と情け無い声が聞こえた。なんだよじゃないよ、全く。
そんなボク等の様子を、気付けばなまえちゃんは嬉しそうに見つめていた。
「アキラくん、楽しそう」
そう言って幸せそうに笑ってる。ふふ。楽しそうなのは、なまえちゃんの方だ。
「ごめん、せっかく来てくれたのに、バタバタして。ええとーーーそれで、ボクに渡したいものっていうのは」
そうだった、とハッとして、彼女は持って来た小ぶりな紙袋から、中身を取り出した。