「すごい、お庭が見えるようになっているのね。綺麗」
そのラウンジカフェに着いた頃にはもう、あらかじめの予約時間は大幅に過ぎていた。ボクがこの店で言おうと思っていた事を、道すがら話してしまったせいだ。
恐縮するボクに嫌な顔ひとつせず、店員さんは静かに席へ通してくれた。壁一面が庭に面してガラス張りの店内でもひときわ眺めの素晴らしい席だった。彼女を椅子に座らせると、小ぶりな日本庭園を見たなまえは感嘆の声を挙げた。そのリアクションが想像通りで、ボクは小さく微笑む。
この場所で話そうと思っていた。
ボクがキミとの将来を真剣に考えている事。
これからはもしなまえや進藤が心配しているような噂話で周囲に迷惑がかかりそうになったら、結婚を考えている関係なのだと誠実に伝えれば良いんじゃないかと思った。
「アキラくん、よくこんなお店知っていたね。カフェなのに、ホテルのラウンジみたい」
「うん。人に聞いて参考にしながら、自分で調べたんだ。大事な話をするつもりだったから」
「大事な話・・・」
彼女は先程の事を思い出したのか、頬を染めて俯いた。ああ、もう。かわいいな。
彼女が俯いているのを良い事に、その間だけボクはこっそりとなまえを見つめる事が許された。
「参考にしたくて、お母さんにもプロポーズされた時のことを聞いたりしたよ」
「えっ、明子さんにも?」
「うん。でも、ここに着く前に言ってしまったけどね・・・キミがせがむものだから」
「ご、ごめん。だってまさか、そんな話だとは思わなかったし。・・・それにしても、綺麗なお庭ね。色んな植物や木があるのね」
彼女が話を逸らすように、再び大きな窓の向こうへ目線を泳がせる。
「そうでしょう。珍しい野鳥なんかも飛んで来る事があるみたいだよーーー予約通りの時間だったら、まだ空も明るかったし見れたかも?だけどなにせ、到着が遅くなったものね」
「も、もう!だから、ごめんってば」
すこし意地悪をすれば、情け無い声を挙げる彼女が愛しくて、つい笑ってしまう。
ーーーしかし、まさか、あれを別れ話と思っていたとは、本当に驚いた。
ボクがキミを手離す訳は無いのだからひどく心外だけれど、今日までなまえがどんな気持ちで過ごしていたかと思うと胸が痛む。
“アキラくんが好き。もし叶うなら、これからも一緒に生きていきたいから”
ーーーそう言ってくれた彼女の言葉を、抱きしめてくれた腕の強さを、飴玉を転がすように味わいたくなる。
恋人になったときも、はじめてのデートの誘いも、いつも頷くだけだったキミが本音がぶつけてくれた事が嬉しかった。
「・・・それと、渡したかった物もあるんだ」
鞄の中に潜ませていた紙袋から、ターコイズがかったブルーの小箱を取り出す。その中からさらにジュエリーケースを取り出して開けると、小さな石を携えたネックレスが、待ち侘びていたように輝いている。
キミがびっくりしてそれを見ているのを良い事に、その間だけボクはこっそりとなまえを見つめる事が許された。