あれから数日が経った。
別れを告げたきり、彼からは何の連絡も無かった。もう恋人でなく、そして友だちでもないそうだから、こういうのが当然のことなのだろうか。
ーーーだというのに、今、私の視線の先。放課後の校門に彼が立っているのは、どういう事だろう。
アキラくんはこちらに気付くとごく自然に微笑んだ。名前を呼ばれて、私は困惑しながら近付く。今日は一人で良かった。もしまた友人といたなら、彼の事を私にとっての何だと紹介したら良いのか、あの時以上に分からない。
「事前に連絡しようか迷ったのだけれど、突然来てしまってごめんね」
どうやら偶然でも他の誰かに用事という訳でもなく、私を訪ねて来たらしい。
「話があるんだ。この後、時間あるかな」
二つ返事で引き受け、歩き出す彼の後ろに着いてゆく。
道中、アキラくんは何も言わなかった。足取りに迷いが無いから、どこか行く宛があってそこで話すつもりなのだろうか。
何だろう、話って。
先程目の前に突然現れたアキラくんは、日を追うごとに上がってきた気温のせいだろうか、頬をすこし高揚させていた。
失恋したばかりだというのに私の心は実に呑気なもので、先程の彼の表情を思い返すと、期待感でむくむくと華やいでいく。もしかして、関係を戻そうという話だろうかーーーいや、そんな訳は無い。すぐ答えに辿り着いてしまって、ギュッとスカートの裾を掴んでいた手のひらをほどいた。
アキラくんが一度言った事を簡単に曲げる訳はないから。ましてや、あんな大切な話を。私があれから連絡できずにいたのも、そう知っていたからだった。
ふわり、と、あたたかな風がアキラくんの髪を撫でる。迷いのない初夏の太陽がその背中を照らした。
ずっと可愛い男の子だった彼の背中をこんなに逞しく感じるようになったのは、いつからだろうか。
いつまでも隣で生きていけると思っていた。
けれど今思えば友だちだとか恋人だとかそんな目に見えない言葉で繋がった糸、いつ切れたっておかしくはなかったのに。
彼に想ってもらえる事に甘えていたのだろうか。
もっと好きだと言えば良かった。
今もまだ、こんなに好きなのに。
「アキラくん、行かないで・・・」
私はたまらなくなって、彼の背中に抱きついていた。昼下がりの住宅地に人影は疎だったが、たとえ誰が見ていたって、構わないと、今は思った。
「アキラくんが好き。私は、別れたくない」