- ナノ -

別人


昨日の放課後の後悔を未だに引きずりながら、私は重たい足取りで登校する。
どうして、こうなんだろ・・・。
後悔するってわかってるのに、人を傷つけるような事言っちゃうんだろう。
真波のヤツに、悪いことした。

アイツは何も悪くないのに・・・いや、勉強教えてもらう後輩の態度としては、最悪だったけど。
でも、私が怪我したとか、もう部活できないとか、アイツにはなんにも関係無い事で。

怪我をした辛さや、部活ができない苦しみはこれでもかという位に痛感しているはずなのに・・・それなのに、真波に言ってしまった。
怪我すれば良い、なんて。
・・・最低なのは、どっちよ。

「・・・ハァ」
「おはよ、名前・・・なんだよ、今日は元気無えなぁ」

同じく昨日、私に暴言を吐かれた黒田はそのくせ優しく気遣ってくれた。
私はなんだかもう、誰としゃべっても傷つける気しかしなくて。席についたらそのまま、机に突っ伏していた。


「オーイ、名前ー」

黒田に呼ばれても、私は聞こえないフリを敢行する。

「オーイ、名前さーん」

聞こえないフリ、聞こえないフリ・・・って、あれこの声・・・

「あれ。名前さん、もしかして寝ちゃってる?まぁ、この時間に寝るのって最高ですもんねえ」

この、間の抜けた声、まさか・・・。そう思って顔を上げると案の定、夏空色の瞳をした男が私の机で頬杖をついている。

「あ、起きた。おはよー、名前さん」

昨日、私にこれでもかという位八つ当たりをされた当の本人・真波山岳が何食わぬ顔で現れた。

え、なんでコイツが!?
私の教室に!?
もしかして昨日の事、文句言いに来た!?

予想だにしなかった事態に、私は口をぱくぱくさせる事しかできない。隣の席の黒田も、目を丸くしている。
真波はいつもの呑気な調子で言った。

「名前さん、怪我して部活辞めたって言ってましたけど。どこの怪我ですかぁ?」

…何を言ってんだ、コイツは!?
まぁ訳わかんないのはいつものことだけど・・・。
私は、どこから突っ込めば良いのかわからなかったのと、昨日の罪悪感から、真波の質問に大人しく答えた。


「えと…肩、だけど」
「そっか!良かったぁ」

良かった!?
怪我をしてから初めて言われる感想に、困惑していると。なぜだか真波は私の腕を掴んで、

「ついてきて!」

そしてそのまま、ドアの方向へと走り出す。

「はぁ!?ちょ、ちょっと?!どこ行くの!?」

彼に引っ張られるがままに、私は朝のホームルーム開始のチャイムを背中で聞きながら、校舎を駆け抜けていく。







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