<真波山岳/ 読み切り>
1万打HIT企画アンケート作品/テーマ:文化祭
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「うーん、坂道くんの話によると・・・カレの模擬店のある教室、この辺りのはずなんだけどなぁ」
今日、オレは初めて総北高校に来た。
オレにとっては慣れない校舎だけど、坂道くんは毎日ココに通ってるんだーって思ったら、なんかフシギだなあ。
「ちょっと山岳、早く行かないと小野田君のお店番終わっちゃうんじゃないの?ただでさえアンタが寝坊したから、総北に着くの午後になっちゃったんだからねっ」
「あはは。名前さん、今日もおっかないですねぇ」
誰のせいよ、ってぷんすかしてる彼女の手をとって、たくさんの人が行き交う廊下を進む。
文化祭があるって、坂道くんと電話してるときに聞いて・・・ちょうど部活もオフだったし、恋人である名前さんを連れて一緒に来てみた。
最初に誘ったときは「千葉なんて遠い」とか「アンタとそんな所行くと目立つからイヤなんだよね」なんて言ってたけど、今回はどうしても一緒に来たかった。
だから、自転車部の練習が覗けるかもですよーってニンジンぶら下げ作戦で誘ったんだ。そしたら案の定、すぐにOKしてくれた。(名前さんはウチの部のマネージャーで、総北ってどんな練習してるんだろう?って前から言ってたから。)
オレのカノジョは、ひとつ年上。
彼女と同じクラスの黒田さんはよく、「真波、名前と付き合うのなんて大変じゃねぇの?アイツ、美人だけど無愛想だし頭固くて、扱い難いだろ?」なんて言う。
そうかなぁ、意外と単純だと思うんだけどな、この人。
「なんか、デートみたいで嬉しいですねえ」
「・・・お気楽でいいよね、山岳は。こっちはさっきから、アンタにポーッとしてる女の子達の視線が突き刺さって大変なんですけど・・・。でも、なんで私と来たいって言ってくれたの?他の箱学自転車部の人と来た方が、小野田君達だって喜んだんじゃないの。」
「紹介したかったんだ。坂道くんは、オレの大事な友だちだから」
「小野田くんの事なら知ってるよ。レースで走ってるの、みた事あるから」
「・・・ふふっ。そうじゃないですよー」
坂道くんにオレのカノジョを紹介したかった、って事なんだけどなぁ。名前さんは意味がわかってないみたいで、「またワケわかんない事言って...」って、ため息ついてる。
坂道くんに教えてもらった教室に着くと、『メイド喫茶』って大きく書いてある。中に入るとメイドや執事の格好をした人たちが接客していた。
「ああっ、真波くん!来てくれたんだね!」
教室の中はなかなかの盛況ぶりで、テーブルは満席だった。人混みからひょっこりと顔を出した坂道くんがこちらに近づいて来てくれて、彼もまた執事服に身を包んでる。
「坂道くーん、来たよ〜。あれ、キミまだ店番してたの?午前までだって言ってなかったっけ」
「・・・ちょっと待って、山岳。だとしたら私達、何の為に急いで来たわけ?小野田君の店番に間に合うように、じゃなかったの?」
「えーっと。真波くん、このヒトは・・・?」
坂道くん執事の服似合うね、なんて話してるオレに、名前さんはまた眉間にシワを寄せてる。すこし緊張して名前さんの前に立つ坂道くんに、オレのカノジョなんだ、と紹介するのはなんだか誇らしいような気持ちだった。
「えっ?!か、かの、かのじょ?!」
「なんや小野田くん、でっかい声出して」
「小野田、なにか客とトラブルでも・・・って、ん?オマエ、ハコガクの・・・真波じゃないか。」
真っ赤になって口をパクパクさせる坂道くんの様子を見て、鳴子くんと今泉くんが近寄って来た。ふたりとも、坂道くんとお揃いの執事服姿だった。
「おー、真波クンやないの!よう来たなぁ!なんや、そんなべっぴんさん連れて!」
「えへへ。この人、オレのカノジョなんだ。」
「「カ、カノジョ!!」」
坂道くんと同様に目を丸くする二人の前で、名前さんは少し恥ずかしそうだ。
年上か、とか、いつからだ、とか聞く鳴子くんの向こうでお客さんの、店員を呼ぶ声が響いた。
「坂道くん。キミのクラスの模擬店、なんだかずいぶん混んでるみたいじゃない?メイド&執事喫茶って書いてあったけど・・・秋葉原にあるっていう、あれのこと?」
「そうなんだよ真波くん、文化祭の定番だからね!!でも、今日は大変な事になってて・・・。ボクのクラスで風邪が流行って、今日5人も休んじゃってるんだ。だから、ホントはボクも今泉くんも午前までの店番だったんだけど、この時間まで残ってて・・・」
「そいで、ワイも助っ人で来てやったっちゅーワケや!かっかっか!」
「鳴子くんが来てくれて、すっごく助かってるんだ。・・・でも、鳴子くんの接客は盛り上げ上手だし、今泉くんのファンの子も次々に来るし、ホントにもう人手が足りなくって・・・。」
「え。じゃあ、オレも手伝おうか?」
それって今泉君と鳴子君が居るせいで逆に忙しくなってるんじゃないの、ってぼそりと突っ込んだ名前さんの隣で、オレはそんな提案をしてみる。
「えっ・・・真波くんが?!そ、そんな悪いよ。キミは違う学校なんだし、今日は遊びに来てくれたのに・・・」
「でも、困ってるんでしょ?オレ、坂道くんが困ってるの放っておけないよ。大丈夫、オレひとりなら心配かもしれないけど、名前さんも手伝うからさ!」
「そうそう。アンタが手伝ったら、色んな意味で仕事が増えるんだから・・・・って、はぁ?!な、なんで私まで」
「いいじゃない、名前さん。坂道くん、困ってるみたいだし。それに、オレたち学年が違うから、こんな機会でもなきゃ一緒にお店番なんてできないでしょ?」
「え、ええー・・・。」
「せやせや、美人がメイドでおったら百人力やで」
鳴子くん、ナイスアシスト!
そうだよね。名前さんのメイド服姿、ぜったいカワイイもの。
オレも見たいし、みんなに見せびらかしたい!坂道くんの手伝いもできるし、願ったり叶ったりだ。
でも、当の名前さんは「でもやっぱり、メイド服だなんて恥ずかしいし無理!」って、険しい表情だ。
・・・うーん、どうしたら良いかなぁ。
「あの、名前センパイ、さん?無理しなくて良いんですっ、ホント、真波くんが手伝ってくれるだけでも充分すぎるくらいで・・・!真波くん、このお礼は必ずするねっ」
「ナルホド、その手があったか。・・・坂道くん、それじゃあお礼ってコトで・・・二人で模擬店手伝ったらオレと走ってくれる?」
「え・・・も、もちろんだよ!っていうかそんなの、ボクこそ嬉しいよ!」
「だってさ、名前さん。坂道くんの走りがみれるよ。」
「・・・・・・・。・・・ったく、しょうがないなぁっ。そうと決まれば、早速着替えなくちゃね!」
−−−案の定、名前さんは大張り切りでパーテーションで仕切られている控え室の方へと去っていった。
「え、えーっと・・・真波くんの彼女さん、良い人だね?・・・最初は怖い人かと思っちゃったけど。」
「あはは、オレもー。けど、だからこそ笑ったときは可愛いんだよ、すっごく!・・・名前さん、今きっとわくわくしてるだろうなぁ。彼女、坂道くんの走りを近くで見たいって前から言ったんだ。」
「ふふ。真波くんは、ホントに名前さんのコトが好きなんだね。」
「え、なんで?」
「だって今、すっごく優しい顔してるから。」
「・・・そっか。うん、好きだよ。すごく好きなんだ。」
「わっ、えっ、えっと?!」
「あははっ。なんで、坂道くんが照れるの?」
「だって、真波くんカッコいいんだもの・・・!」
「ハイハイお二人サーン。仲良いのはええけど、そろそろオシゴトに戻るでー。真波くんの自由人っぷりは、ロード降りても同じなんやなぁ。彼女さん、さぞかし振り回されてるんとちゃう?」
鳴子くんに衣装を手渡され、オレも着替えに向かう。
ふふ、なんだか楽しい事になったなぁ。