- ナノ -

はじめての誕生日4


名前さんに押しのけられたオレはかなりビックリして。何度か瞬きをして、彼女を見つめた。
床からやっとの思いで身体を起こした名前さんは、まだ顔が真っ赤だ。

本気で嫌がってるようには、見えなかったけどなぁ。

「…そんなに嫌ですか。オレとのキス」
「そんな…嫌なわけないじゃない…」
「じゃあ、続きしても良い?」
「駄目!今日はもうおしまいにしようよ」

あ…これは本気の駄目なヤツだ。

何が、嫌だったんだろう?
オレだって本気で名前さんの事が好きだよ。
だから自分の衝動はもちろんあったけど、名前さんが嫌がってないかどうかちゃんと気にしながらしてたつもりなのに。


「名前さん、オレのことほんとは好きじゃないんじゃないですか」
「えっ…そんな事、あるわけないじゃない、大好きだよ」
「でも、こんな風にされたら、オレに触られるのがイヤなのかなって思っちゃいます」


そう言うと、名前さんはハッとした様子をして眉を下げた。


「違うよ…ただこういう事、その、まだ早いんじゃないかなって思って」
「こういう事って?」
「えっと…私は山岳が大好きだし、キスするのも、ぎゅってしてもらうのも、山岳が触ってくれるのは全部、幸せでいっぱいになるよ。なのに、誤解させたらごめんね」
「えー。じゃあ、いいじゃん。なんでダメなの?」
「だって私たち、まだ高校生だよ!?頭が固いって言われるかもしれないけど、山岳には部活もあるでしょ。私、大事にしたいと思ってるんだ。山岳にとっての自転車とか、山岳の未来とか」


名前さんはまた、顔を真っ赤にして気持ちを伝えてくれた。
・・・そっか、そんなふうに思ってくれてたんだ。

オレが名前さんの頭を優しく撫でると、名前さんはすこし安心したみたいだった。

「私さ、山岳の事もっと知りたい。誕生日すら知らなかったんだよ?山岳とくっついてたり、き、キスしたり。ぎゅってしてもらったりも、幸せだけど…もっと、たくさんお話もしたい。…頭、硬くて、ごめん」

一生懸命に気持ちを伝えてくれた姿をみて、かわいいって、すきだって、そう改めて思った。
そんな気持ちをいっぱいに込めて、オレは名前さんをぎゅうっと抱きしめた。


「ちょっと山岳…話聞いてた!?」
「好き、です。オレも、名前さんの事もっと知りたい」
「…ありがとう」
「名前さんがオレの事ちゃんと考えてくれてて、ちゃんと好きでいてくれてるの、いっぱい伝わった。オレ、名前さんの彼氏になれたのが嬉しくて…オレと同じくらい、もっと好きになってほしくて…色々止められなくて、ゴメン」
「…ばか。私、山岳の事すきだよ。でも、これからもっと、ちゃんと伝えるね。…ありがとう」
「オレ、すっげー幸せ!最高の誕生日だ」
「いやいや、誕生日については、また今度改めてお祝いさせて…
「って事でとりあえず、ちゅーしても良いですかぁ?」
「…話きいてた!?」


それからオレ達は、随分と色んな事を話した。

学校のこと。部活のこと。友だちのこと。今までの事。

名前さんは、改めて誕生日プレゼントをくれるなんて言ってたけど…。
オレにとっては、名前さん事をひとつ知る度に、それがどんな物をもらうよりも嬉しくて。
そっか、名前さんが言ってた"もっと知りたい"って、こういう事だったんだ・・・。やっぱり名前さんは、すごいなぁ。


初めて知る、名前さんの全てが。

今日名前さんがくれた、オレへの言葉のぜんぶが。

オレにとって、大切な宝物になって・・・何より幸せな、プレゼントだった。





もくじへ