- ナノ -

はじめての誕生日2



「ここがオレの部屋だよ。くつろいでって下さいね」


初めて入る、山岳の部屋。
綺麗に整ったベッド。山のポスター。教科書が明らかに適当に積まれている勉強机。そして、棚には盾やトロフィーがいくつか無造作に置かれている。
全てが山岳の私物、という空間の中にいるのはどこか不思議な気分だ。私の好きな人が、ここで寝て起きて、生活してる….そう思うとどきどきするけど、でも何故か居心地が良い。
そうして落ち着かず待つ内、飲み物を取りに行ってくれていた山岳が戻って来た。

「はい、どうぞー。あれ?なんか名前さん、大人しいですね・・・」

そりゃ、大人しくもなりますとも。私は彼氏の言葉を疑い、その上誕生日すら知らなかった残念な彼女なのですから。


「今日は山岳君のお誕生日を、盛大にお祝いさせて頂きます・・・!」
「わーい、ありがとう。でもオレ、名前さんが居てくれるだけで、じゅーぶん嬉しいよ」


そう言って微笑む山岳はまるで天使のようではないか。こんな嫌な女に、変わらずに優しく接してくれるなんて。


「あっ、でもせっかくだから欲しいな。プレゼント」
「・・・ごめんね、なにも用意がなくて・・・今度改めてさせてもらうね」
「気にしないでよ、オレだって今日が誕生日なのさっきまで忘れてたし。プレゼントは・・・そうだなぁ、キスがいいな。それなら、今でもできるよね?」
「・・・うん、それなら・・・ど、どうぞ」
「あー、そうじゃなくて。名前さんから、して?」

彼はニッコリと、爽やかすぎる王子様スマイルでさらりと言い放った。

「えっ!?そ、それは無理」
「なんで?」
「自分からなんてした事ないし、恥ずかしいし・・・無理無理」


ふーん、と山岳は涼しい顔で呟いてから、私の隣に腰掛ける。


「オレ、今日誕生日なんだよねぇ・・・」


・・・前言撤回!さっきは天使だなんて言ったけど、コイツは悪魔だ。
しかし立場的に文句を言えるわけもなく、睨み付ける事しかできない。彼はどこか機嫌の良さそうな表情を浮かべている。コイツたぶん、楽しんでるな?
学校で友人たちが山岳の事をカワイイだの癒し系だのと言っていたけど、こいつの正体はドS王子ですと声を大にして言いたい。

いつもなら、嫌だと押し通す所だけど・・・今日の私は、彼に対する罪悪感がある。


「・・・わかりました。でも、初めてのプレゼントがこんな形だなんて流石に申し訳ないから・・・今度、ちゃんとしたのあげるからね」
「大丈夫です」

ニコニコとした笑顔に若干の不安を感じつつも、私は山岳に身体ごと向き直る。

「じゃあ、目、とじて」
「はぁーい。・・・んー」

そう言って、山岳が目を閉じたものの・・・。

生まれてこのかた、自分からキスなんて事が無い私は、どうしたら良いのかわからなくて。
ど、どうしよう。山岳、どうやってたっけ!?

このまま真っ直ぐ行ったら、鼻がぶつかりそう。顔、傾けるのかな?私はいつ目を閉じたら良いの?にしてもこの人、ほんとに顔キレイすぎるなぁ。

山岳が目を閉じたままの状態で、二人の間には沈黙と時間がただただ流れていった。


「・・・名前さーん。オレ、うっかり寝ちゃいそうです」
「う、うう・・・ごめんね・・・でも、どうしたら良いのか・・・」

ぱち、と開かれた山岳のその大きな瞳と目が合う。私を見て、困ったように眉を下げてから優しく笑った。

「はぁー・・・もう、名前さん可愛い。・・・おいで?」


そう言うと山岳は、胡座をかいていた自身の脚を軽く開く。
この上に座れって事?年上の私が!?恥ずかしい、絶対ヤダ。
でも・・・そんな事言ってられないよね。せっかくのお誕生日に、私なにもしてあげられてないのだし。

そう思って私は、大人しく彼の脚の間に腰を下ろす。すると山岳は片手で私の腰を抱いて、そしてもう片方の手でふわふわと頭を撫でた。
すっぽりと、山岳の身体の中に包まれているような感じになる。・・・意外と身体、おっきいんだ。

「ホラ、これくらい近かったら、できそうじゃない?あと数センチ、顔を近付けるだけで良いんだから」
「う、うん・・・」


私はすこし躊躇いながらも、でも言われるがままにそっと顔を近付ける。

−−−良かった、なんとか成功した−−−そう、安心した瞬間。景色が一転して、私の視界には天井と、そして山岳だけが見えて・・・押し倒された事に気がつく。
その顔には、珍しく余裕の無い瞳が揺れている。




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