「山岳、今日ほんとに部活オフなの?ほんっとーに?」
5月の終わりの、とある放課後。
今日は部活がオフだと言って、山岳が私を靴箱で待ち構えていた。一緒に帰りましょう、と爽やかな笑顔で。
しかしそれにしかめっ面で対応しているのにはワケがある。
こやつには前科があるからだ。
先週も山岳は同じように、私を靴箱で待ち構えていて「一緒に帰りましょう」と誘った。
山岳はほぼ毎日部活だし、久しぶりに山岳と過ごせる時間はとっても嬉しかった。
しかし−−−後から発覚したのだが、その日の部活はオフでは無かったのだ!
山岳のヤツ、平坦練習だからってサボって私と帰っていたのだった。
その事実が発覚した時、私はかなりこっぴどく山岳を叱った。
だから今日だって、彼の言葉を鵜呑みにはできなかった。
「もー、そう言ってるじゃないですか。オフですよ〜今日は」
「・・・わかった、お兄ちゃんに電話する。部活なら電話には出られないはずだし」
「ひどいなぁ、オレってそんなに信用無いですかぁ?」
「どの口がそんな事言ってんのよ・・・あ、もしもしお兄ちゃん。今日って部活、オフなの?本当に?」
しかし携帯の向こうで兄もまた、今日は確かに休みだと確かに言うではないか。
「だから言ったじゃないですか」
「信用できないんだもん。先週もそう言ってサボりだったじゃん」
「サボりじゃないですよ。平坦練習、退屈なんですよ。だから、出なくて良いかなあって」
「そういうのがサボりって言うんですけど」
こいつ、全然反省してないな・・・。追試の一件で山岳も、ちょっとは変わったかなと思ったけどこういう所は相変わらずだ。
「・・・で、今日はどこ行くの?先週みたいに、ハンバーガー屋さんでおしゃべりする?」
「んー。それも楽しいけど、今日はオレの家に来ませんか?」
山岳のお家?
正直、その言葉に心が弾む。
追試の日に玄関まで行ったきりだったし、部屋とかどんなだろうって・・・曲がりなりにも彼に恋をしているのだから、もちろん気になる。
しかしそれはマズいのではないか。
コイツはこの頃、部室だろうと廊下だろうと他に人が居ないとなると所構わずキスをする。
あ、そういえば付き合う前、勉強会中に私の胸触ったよね・・・!?あの時は、天然で何も考えてないんだろうと思ってたけど、もしや今思うと計算かもしれない。
・・・とにかく、学校でだってそうなのに、家になんて行ったら・・・。って、考えすぎだろうか。
「夜まで親、いないので」
いやいや、それはまずいかも。
「却下!」
「えー?なんでですか。お金もかかんないし、ゆっくりできますよ?」
「そりゃ、そうだけど・・・なんていうか、その・・・」
変なことしそうだし・・・。ぼそぼそと言う私を見て、山岳はカラリと笑った。
「あはは、そうかも」
「あははじゃないよ、もう!・・・だから、ダメ!」
「えー。オレ今日、誕生日なのにー」
「もう、いいからそういう嘘」
「えーっ、嘘じゃないですよ〜!オレも、忘れてたんだけど。さっき、委員長におめでとうって言われた」
なんだか本当っぽい・・・?いやいや、そう簡単には騙されないんだから。
それにしても。山岳の本当の誕生日っていつなんだろう。今まで聞いたことなかったな。
「ねぇ、山岳の誕生日っていつなの?」
「え?だから、今日だよ。5月29日」
「もー、しつこい」
なんだか山岳が、ちょっと本当に寂しそうな顔をしている・・・え、ほんとに今日が誕生日?
だとしたら、私って彼女として最低なのでは!?
「誕生日だから、名前さんとゆっくり過ごしたかったなぁ。二人っきりでお祝い、したかったなあ」
どうしよう、ほんとに今日だったら。
−−−いや、でも。
これはもしかしたら、私を家に連れ込む為の嘘かもしれないし。
「わかった、じゃあ証拠を見せなさい!あるでしょ、生徒手帳とか!」
「あー、なるほど。・・・あれ?どこにあったかな」
私が身分証明書の提示を求めると、山岳はガサゴソとカバンを探って、かなり奥深くから生徒手帳を取り出した。どうやら、入れっぱなしになっていたようだった。
「生徒手帳ってオレ、いま初めて開きました」
「はい、貸して貸して。どれどれ、山岳の誕生日は・・・」
しかしそこには、堂々と"5月29日"と生年月日が書いてあるではないか・・・。