名前さんは、ほんとズルい。キミだって好きなくせして。
オレがもっとしたくなるのは、そのせいなのに。
名前さんは、年上で。綺麗で、勉強もなんでもできて。
福富さんの前ではいつもしっかり者の妹で。荒北さんの前でも、カワイイ後輩で。でもこんな彼女はオレしか知らない。
それが嬉しくて、抱きしめる腕にぎゅうっと力を込める。
この人を何よりも大事にしたいと思う。なのに、めちゃくちゃにしたいとも思う。どうしてなんだろう。
「もうっ、さんがく・・・そろそろ離してっ」
あれ?なんだか名前さんの様子がおかしい。いつもなら抵抗する時、もっと遠慮なくするはずだ。
あ。もしかして・・・。
オレは小さく微笑んで、わざと彼女の顔を自分の胸に押し当てる。
「わっ・・・ちょっと山岳!?」
「どうしたんですか?・・・抱きしめるのなんて、初めてじゃ無いじゃない」
「いや、その、だって」
「もしかしてーーーオレの肌に直接触れてるからってドキドキしてるの?名前さんの、えっち」
それが図星だったみたいで、名前さんは何も言い返せずにいる。
ああ、もう。かわいいなあ。
そんな姿を見ていたら悪戯心がむくむくとわいてきて、オレはやめる所か益々エスカレートしていく。
「ね、名前さん。オレの胸に、直接触れてみてよ」
「は、はぁ!?む、無理無理」
「いいから、ホラ」
真っ赤な顔で両手ブンブンと振る彼女の、その手を片方掴んで強引にオレの左胸に当てる。驚いた名前さんが小さく声をあげた。
「ドキドキしてるでしょ?・・・オレが名前さんの事を大好きだって、証拠だよ」
耳元でそう言うと、名前さんは今にも泣き出しそうなくらい真っ赤な顔で硬直してる。
あー。ちょっと、やりすぎちゃったかな。
結局その日は仕事が全然進まなかったとかで、次の日名前さんはめちゃくちゃ機嫌が悪かった。ごめんね。でも、名前さんがカワイイのが悪いですよ。なんて言ったらまた、怒られるだろうか。