- ナノ -

快楽主義 3


「今は、ダメ」
「って事は、後でなら良いって事?わかりました、じゃあ1分だけ待ちます」
「もうっ、揚げ足取るのやめてよ」

困ったなぁ、何とか宥められないものかな。
ため息をつきながら彼を見ると、大きく開かれたサイクルジャージの下に覗く、山岳の引き締まった身体と目が合ってしまい、慌てて視線をノートに戻す。
同世代の男子の身体なんて見る事が無い。ましてや、好きな人。
こんな可愛い顔してるのに、身体はやっぱり男子なんだな・・・なんて思ったら、自分が心音が速まるのを感じた。


「あ、じゃあ、逆に1分だけキスするっていうのはどう?」
「はあ?」

何が逆になのよ!私の反論虚しく、山岳の瞳がキラリ嬉しそうに輝いたかと思えば、なかば強引に唇を重ねられる。この場所でこんな事をするのはすごい罪悪感だ。

「・・・ちょ、ちょっと。山岳クン。もう1分経ったんじゃないですか?」
「名前さん。キスって、気持ち良いよね」
「話聞いてる!?」

山岳が優しく頬を撫でる。顔近い。まさかこいつ、自分がカッコ良いって事わかってやってるんじゃないだろうな。これだけ至近距離で見ても非の打ち所がない、端正に整った顔。そしてその瞳が愛おしむように揺れている。


「・・・すき。キスしてるときの顔、とくに好きだ」
「は、恥ずかしい事言わないで」
「だってほんとの事だから・・・。ね、もう一回して良い?」

返事も聞かないで、山岳は再び私の唇を奪う。
山岳の鼻と、私の鼻が触れる。
彼の前髪が、私の額をくすぐる。
すぐ近くに、お日さまのような香りが揺れる。そのひとつひとつに、彼がこんなにも近くにいる事を感じさせる。


「・・・も、もうおしまい!」
「あれぇ。今日はずいぶん粘りますね」
「当たり前でしょ!ここ、部室だよ?メニューを考えるために貸してくれたんだよ!」
「え?だからむしろ燃えません?こういうシチュエーション」
「このヘンタイ・・・」
「・・・名前さんは、ズルいよ」

そう言った山岳に、ぎゅうっと抱きしめられる。




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