夜が明けるのが怖くてたまらなかったけど、窓から差し込む日差しは私の心とは正反対に、あたたかく初夏の訪れをも感じさせた。
私が目を細めてそれを見ていると、突然携帯電話が震えて、ビクリと身体を揺らす。時刻はまだ5時を回ったばかりだ。
こんなに時間に電話?一体誰から?
画面を開くと、そこには、昨日はずっと繋がらなかったはずの名が表示されていた。
「も、もしもし」
声が震えた。もしかしたら私の事を、恨んでいるのかもしれない。
『あ、もしもし名前さん?起きてましたぁ?』
しかし電話の向こうからは、間の抜けた声が聞こえてくる。
『名前さん、ごめんね・・・追試、行けなくて。あんなに勉強、教えてくれたのに・・・。昨日、家まで来てくれたんでしょ?丸一日ずーっと寝てたら、やっと動けるようになりました』
「山岳っ・・・自転車で転んだって・・・」
『うん・・・。大きな怪我じゃなかったし、切ったり折ったりしたわけじゃあないんだけど。打った所が悪かったのかな、すげー気分悪くて。持病の事もあったし、一応病院も行きました。でも大丈夫って言われたよ』
「山岳・・・そうだったんだ・・・」
『信じてくれるの?オレの話』
「え・・・、どうして?」
『だってオレって、学校とか気分次第で遅れたり行かなかったりだったから。今回のだって、そう思われてもしょうがないかなーって思ってます』
「そんなわけないじゃない!私が前に、怪我しちゃえば良いとか言ったから・・・それで山岳、ほんとに怪我したのかなとか・・・私が勉強の組み立てするの下手くそで、山岳がロードに乗る時間とれなくなっちゃったんだろうなとか・・・っ」
私が堪えきれず泣き声混じりに泣き言うと、山岳が慌てているのが電話ごしでもわかった。
良かった、これが電話で。私はきっと今、めちゃめちゃな顔してるのだろう。
『ちょ、ちょっとちょっと〜・・・泣かないで、名前さん。前に言った事なんて、気にしないでよ。オレだってよっぽど、ひどい事したり、言ったと思うし。それに、名前さんは勉強の先生役だっただけで、オレの練習時間まで考えなくて良いんだよ』
「だって私、マネージャーだったのに」
そういうと山岳は、それ自分で言うんだ?なんて言って笑った。
『・・・でも、追試の事・・・ゴメン、本当。あんなに教えてくれたのに・・・。今度の大会はオレ、出られないけど。その次は出られるように、また頑張るから』
「・・・山岳、もう身体は大丈夫なの?」
『え?うん。もう全然大丈夫』
「じゃあ今日、早めに学校来て!朝イチで教科担任に謝って、もっかい追試してもらおう!私も、一緒に行くから!」
諦めない。きっと大丈夫。
『うわー。さすがですねぇ、その粘り強さ・・・』
「まぁね。・・・これでも元、アスリートですから!」
あはは、と山岳の明るい声が響いた。私は安堵で胸がいっぱいになる。心配で夜はまともに寝れなかったはずの身体なのに、力がみなぎってくるようだった。
大丈夫、先生だってきっと分かってくれる。