机上の携帯電話が震えた。
山岳からだと直感的に思って画面を見ると、そこに表示されているのは兄の名前。電話なんて珍しい。ましてや今、部活中のはず…。私は胸騒ぎを感じながら、通話ボタンを押す。
「もしもし、お兄ちゃん?」
繋がった電話の向こうで、兄の声からもまた緊張した様子が伝わる。
『名前、今どこにいる?』
「教室だよ。山岳の試験が終わるのを待ってて」
『その真波を知らないか?』
「え?山岳なら今、追試を受けてるんじゃ…」
『…来ていないそうだ。追試試験の会場に』
え!?
私は、自分の耳を疑った。
『追試試験の教科担任が、いつまで待っても真波が来ないと…もしかしたら部活に行ってるのではないかと、部に連絡が来てな。しかし、当然こっちにも来ていない。名前が毎日一緒に勉強していたから、もしかしたら何か知らないかと思って電話したんだ』
嘘。嘘でしょ。
そんなわけない。
だって昨日も、あんなに・・・。
「−−−山岳が追試に行かないなんて事、ありえない。もしかしたら何かトラブルかもしれない。私、探してみる!」
また連絡するねと言いながら通話を終え、携帯電話だけを握りしめて、飛ぶように教室を出る。
きっと、何かあったんだ。
もし、前のままの山岳だったら追試を受けないで自転車に乗ってるなんて事もあるかもしれない。
でも、今の山岳ならありえない。絶対、って言える。
私はまず一番に、山岳の教室を目指して走った。−−−けれどそこには山岳どころか誰も居なかった。
廊下、階段、空き教室…、私は闇雲に校舎を走り抜けた。探す、って言ったけど・・・一体どこを探したら良いのだろう?
山岳と出会って、まだ1週間と少ししか経っていないのだ。山岳の行きそうな所なんていくつも浮かばなかった。