- ナノ -

消えた王子様




 そしてついに訪れた、山岳の追試試験の当日。
試験は放課後に空き教室で行われる事になっている。
私は今日一日、それはもう気が気ではなくて。何度も山岳にメールで最終確認や激励のメッセージを送ろうかと迷ったけど、信じようと思った。一緒に勉強してきた時間を。それから、昨日の帰り道の、彼の言葉を。

−−−そろそろ、始まった頃だろうか。
私はいつも二人で勉強会をしていた教室にいる。追試試験が終わったらここに来るよう約束をしていた。そしたら自己採点ができて、合否もすぐにわかる。

 合格したら、二人の勉強会も終わりか…。
でも、もう私は寂しくなんてない。
私は先ほどから手の中で遊ばせていた、昨夜山岳にもらった石ころの指輪を優しく撫でてみる。
だって…その時私は山岳の彼女なのだから。って、改めて考えると結構恥ずかしいけど…。でも、私はすごく楽しみにしている。また山岳が部活にも行けるようになるしね。

こうして一人で何度も時計を見て待っていると、勉強会の初日を思い出す。あの日、あの子はお天気が良いからと授業を抜け出して自転車に乗っていたんだった。ふふ。今思い出すと笑える。本当、ビックリしたなぁ。

山岳、はやく来ないかなあ。
会いたいなあ。

石ころの指輪をぎゅっと握る。山岳の事を想うだけで、こんなにも心が揺れる。顔が見たくて声が聞きたくてたまらなくなる。

私は山岳の事が、大好きになっていた。





もくじへ