- ナノ -

私、宮原といいます 4


「私、宮原さんの事が正直羨ましいよ。昔からずっと山岳の走りを見てきたんでしょう?いいなぁって思う。私も、もっと早く出会ってたかった…けど、過去は変えられないから、私は山岳をロードに出会わせてくれた宮原さんに感謝しようって、いま話聞いてて思ったの」

 さっぱりとそう言い切った名前先輩を、私は素直に、いいなあと思った。
過去は変えれない。分かっていても、誰もが執着してしまう。
強い人なんだな、この人。名前先輩は、過去に囚われて落ち込んだ事なんて無いのかもしれない。

私は先程からの涙が止まらなくて、顔を上げられずにいた。
返事のない私を不審に思ったのか、顔を覗き込んだ先輩がぎょっとして声をあげた。

「えっ…宮原さん、泣いてるの?」
「ご、ごめんなさい…気にしないでください、何でもないんです」
「宮原さん…大丈夫だよ」

そう言って先輩は、私の頭を撫でてくれた。

「心配しなくて大丈夫だよ。必ず追試に合格させるからね。それでちゃんと、部活にも戻してみせるから!」

…この人は…ちょっと、ズレてる?まさか私が、そんな理由で泣いているとでも思っているのかしら。
私はなんだかおかしくなって、こんどは笑ってしまう。

−−−福富名前さん。

山岳の大切な人。

不思議な人だな、と思った。

この人と話して、分かった事がある。山岳が彼女に惹かれた理由。それからやっぱり私も、山岳が好きなのだということ。これが恋かは分からない。けれど、何であれすごく大切なのだ。
でも、だからといって執着していては彼の為にならないのだ。幼馴染だからって成長が寂しくても、ちゃんと応援してあげなくちゃ。


「名前さーん、待たせちゃってすみませーん・・・って、えぇ!委員長と名前さん、何してるの!?」


教室に入って来た山岳が、私の頭を撫でる名前さんを見て慌てている。
ふふ、そうよね。
山岳の気持ち、すこしわかった気がするの。
それでもやっぱり、すこし寂しいけれど、ね。






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