- ナノ -

アイドル 2


 しかし正直、どこまで話せば良いのか…ちょっと困ったしまう。
なんだか全て話すのは気が引ける。特に、昨日の放課後の事ーーーあれは一体、何だったのだろうか。
どうして彼は、急に私の髪に触れたんだろうか。
ゴミがついてたと言っていたけど、それにしては様子が変だった。真波の表情だって…優しいような、苦しいような。そんな顔してたし。私は思い出すと、胸の奥がきゅーっとなった。

だから、あの事を言葉にするのは憚られた。もったいない様な、後ろめたいような。自分だけが持っていたいと、どうしてだか私はそんなふうに思った。


「えー、真波くんってそんな感じなんだね。天然なんだー」
「へぇー、カワイイ。名前マジ羨ましい」

 一部の事を除いて話せる範囲でマネージャー宣言の件なんかを一通り話したものの、彼女らのリアクションは私の期待していたそれではなくて。解決へのヒントか、そうじゃなくてもせめて同情してほしかったというのに…。

「ちょ、ちょっと!可愛い、で済まされるの?私は恐ろしく振り回されてるんだよ!最初の頃なんて、全然時間通りに来ないし、復習もしてきてくれないし…!それから、今話した”マネージャー”って何だと思う?」
「さぁ?運動部の女子マネみたいなもん?真波くん、何か言ってなかったの?」
「真波曰く、一緒に下校したり、学校で一緒にお昼食べたり、お昼寝したりするモノらしいけど…」

 私の言葉に、友人達は眉を寄せた。

「ねぇ名前…それってマネージャーっていうか”彼女”じゃない?」

ーーーまるで予期せぬ単語に、私は再びむせてしまう。ケホケホとせきをする私をよそに、彼女らは嬉々として好き勝手に話し始めた。

「真波くんと名前がカレカノ?わぁ、良いじゃん!」
「結構お似合いじゃない?名前って中身は男子みたいな時あるけど、見た目だけはカワイイし」
「ちょ…ちょっと!勝手にそんな…!みんな、誤解だってば。真波って、何も考えてないだけだから、」
「オレが、どうかしましたあ?」

背後からした聞き覚えある声に、まさかと思って振り向くとそこには先ほどからの話題の中心人物の姿が。箱学ブレザーの中に着た白いワイシャツの首元のネクタイは、まだ新入生だというのに今にも解けそうな程ゆるく巻かれている。

「げ、真波!いつからいたの?!」
「え?あはは。あ、そのタコライスおいしそー。名前さんのですか」
「ち、違います」
「わーい、いただきまーす」
「話を聞け!」

 ちょっとちょっと…まさか学校生活でもコイツと出会ってしまうとは。友人達に助けを求めようと横を向くも彼女達の姿が忽然と消えていた。え、逃げた!?最悪…!
かくして私は昼休みの学食で、真波と二人きりになってしまった…。






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