- ナノ -

気持ちの正体 2





「嫌いじゃないですけど…」


なんでだろう。どうしてこんな嫌な気持ちになるんだろう?パワーバー、好きだよ。新開さんの事だって。あと、お腹だって空いてる。
でもなんでだか、名前さんが新開さんからソレをもらってる所を想像しちゃって、良い気分がしなかった。

「えー、いらないなら私、食べちゃうよ。私もちょっとお腹空いてきたし」
「ええっ、それはもっとヤダ!」

咄嗟に身体が反応して、名前さんの手からそれを奪う。彼女はびっくりして、瞳をまんまるにしてる。

「もー、なんなの?真波ってホント意味わかんない」
「えっと…名前さんはオレのマネージャーなんだから、オレ以外の人から物もらうの、禁止!」

自分でもよくわからない気持ちなんだから、名前さんにもわかるわけないよなぁと思いながら、パワーバーの袋をビリリと破く。

「出た、謎のマネージャー設定!ねぇ、その”マネージャー”って何?真波の言う事、全体的に意味わかんないけどソレがわけわかんない事No.1だよ!あーあ、天然は天然でも、真波が隼人さんみたいだったらなー。同じ天然系でも隼人さんは話通じるし、すごく頼りになるし!」

その言葉に、ピタリとオレの手が止まる。彼女は何の気無しに言ったのか、カラリと笑っている。

「隼人サン、隼人サンって…。名前さんって新開さんと付き合ってるんですか?」
「はぁ?付き合ってないよ。どうして?」

自転車部の3年生は皆んな良くしてくれるだけだよ、なんて軽く答える名前さん。
ふーん…そうだよね。お兄さんの同級生だもんね。それは、当たり前の事なんだろう。なのにオレは、なんだかとっても面白くなかった。

たぶん新開さんは、全然わるくない。
なのに、なんでだろ。名前さんがオレと新開さんを比べることも、”隼人サン”だなんて名前で呼ぶことも、全部全部気に食わない。
名前さんはオレとこの間初めて会って、そして先輩たちはもっと前から知り合ってたんだから…名前で呼んだって、仲がよくったって、自然なことなのに。

「ちょっと真波?なに疑ってるか知らないけど…うーんと、自転車部の先輩達はきっと、私のことお兄ちゃんの妹だから良くしてくれるっていうか…あと、たぶん私が怪我したのもあって、気にしてくれてるのもあるんだよ。隼人さんだけじゃないよ、靖友さんだってよく私の頭なでたりとかしてくれてさ、妹みたいに思ってくれてるんだよ」

オレがムスッとしているせいか、新開さんとの関係を弁明するみたいに話してくれたけど、それはオレにとって逆効果だ。モヤモヤは、更に膨れ上がった。

話をする名前さんの、きれいな髪がふわふわ揺れる。この髪に、荒北さんが触ったの?そう思ったら、身体が勝手に動いた。パワーバーを持っていた右手はそれを机の上に置き、気がついたら名前さんの髪を撫でていた。


「・・・ま、真波・・・?」


ーーー名前さんの声で我に返った。
自分自身びっくりして、サッと手を引っ込める。やばい、顔があつい。オレは手の甲で顔を隠して目線を逸らす。…名前さんの顔は、こわくて見れない。

「え、えーっと、私の髪に、何かついてた?」

彼女も驚いたのだろうか。嫌だったのかもしれない。すこし声を裏返らせながら、変に明るくそう言った。

「あ、う、うん。そーなんです。でも、もう取れたから、ダイジョウブです」

負けず劣らず、オレも声がひっくり返った。

「そ、そっか?あ、ありがと。…うんと、じゃあ、そろそろ勉強再開しよっか」
「う、うん。あ、コレ、食べちゃわないと」

あわてて食べたパワーバーは、緊張のせいでぜんぜん味がしなかった。緊張なんて、ふだんはしないオレなのに…。







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