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きみとの帰り道

<青八木一/ 読み切り>
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 私、苗字名前とクラスメイトの青八木くんとのお付き合いが叶ったのは、奇跡のような事なのだ。それは入学してすぐの一目惚れだった。好きになってから、毎日毎日見つめていて、分かった事がある。青八木くんの発する数少ない言葉はどれも、嘘のひとつもないのだ。
言葉だけじゃない。人知れずするどんな行動ひとつとっても、誠実さに溢れていた。
見た目や言葉をトレンドで飾り付けする同世代の男子の中で、そんな彼の存在は稀有であった。しかし目立つものではなかった。だからこそ、ひとたび見つけたら、目を離せなくなった。


「ーーー青八木くん」


終業のホームルームが終わり、自席の前に人の気配を感じて顔を上げるとそこには彼がいた。スクールバッグを肩に下げ、何も言わずに私を見下ろしている。一緒に帰ろう、という合図だった。
彼とのお付き合いが叶った事を”奇跡のよう”と評したのは、夢のように幸せという意味だけでは無い。否、勿論そうなのだけれど、それだけではなく….彼のこの寡黙さにある。
飾らない彼に恋をしたけれど、こんな調子では関係の進展は難しいだろうと思っていた。
なのにーーーまさか、青八木くんの方から「好きだ」なんて。あの時は本当に驚いた。
 目の前の青八木くんの瞳をじっと見つめ、頷く。私も立ち上がった。


夕暮れの通学路、手を繋ぐ二人の間をゆるやかな風が抜けた。
青八木くんと過ごす時間の、こういう瞬間がたまらなく好きだ。
雑音がない。無理に次の言葉も探さなくていい。隣に青八木くんがいる、ただそれだけで幸せだと思う。

ふと視線を感じて顔を横に向けると、意外にも青八木くんと目が合った。見ていたのは彼のくせに、目が合った事に驚いたようで、瞳を丸くして顔を逸らした。頬がすこし紅い。
かわいいなぁ、なんて思ってしまう。彼がなにを考えていたのかなんとなく分かって、私もそっと見つめてみる。


「しあわせだね」


私がそう言うと、彼は驚いた顔でもう一度こちらを見た。俺も同じ事考えてた、なんて思っているのだろう。ふふ。実は、分かったから言ったんだよ。
青八木くんのこと、大好きだよ。
そう言おうとして、彼に向き直る。



「好きだよ。苗字の事が」



ーーーえっ。
不意を突かれて、面食らってしまう。
何も言えずに、大きく瞬きを繰り返す私を見て、青八木くんが、ふ、とすこし悪戯っぽく笑った。顎先まで伸びた金色の綺麗な髪を、紅く染まった頬を、夕日が静かに照らした。


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