<真波山岳/ 短編>連載ヒロイン・番外編
5万打企画アンケート作品(リクで頂いたお題を1つの作品に全て盛り込む!という企画でした)
ご参加ありがとうございました*
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「名前さん、大丈夫ですか...?冷えピタ、新しいのに変えようか?」
名前が風邪をひいたと聞いて、山岳は慌てて彼女の暮らす寮へ出向いた。
女子寮への正面突破は無理なので、いつものように建物の裏側にまわって彼女の部屋の窓を叩くと「何で来たのよ、授業中のはずでしょ」と口を尖らせながらも名前は中へ入れてくれた。
「大丈夫だよ、ありがと。...でも、なんか意外。山岳がこんなふうに甲斐甲斐しくお世話してくれるなんて」
「だって、びっくりしたんだもの。風邪で熱まで出てるなんて」
「うん、私もびっくり。風邪なんて、滅多に引かないのにね...でも、お陰さまでもう大丈夫だよ。山岳は学校に戻りなよ、風邪を移したくないしさ」
ありがとね、ともう一度言いながら山岳が買って来てくれた、コンビニの袋に目をやる。
熱冷ましのシート、スポーツドリンクからスイーツまで、これでもかという量の見舞い品の数々が詰め込まれていた。
...いつもは周りから、世話を焼かれる側のくせして。
山岳の優しさがくすぐったくて、でもすごく嬉しかった。
「...いい、まだここに居るよ。...身体が弱ってるときって、心細くなるでしょ」
そう言って彼は名前の眠るベッドの横に腰を下ろした。
その言葉は、随分と寂しげに聴こえた。
名前は熱に浮かされぼうっとした頭で、ああそうか、彼自身の子どもの頃と重ねているのだと思った。
...確かにこうして寝込んでいると、良くない事ばかり考えてしまう気がした。
世界中で自分だけ、切り取られているかのような心細さがあった。
クラスメイト達は自分を心配してるだろうか。それとも、楽しく過ごせているのだろうか。
山岳は子どもの頃は身体が弱く、学校も休みがちだったと聞く。
...こんな寂しさの中に、毎日いたのかな。
すぐに駆けつけてくれたり、差し入れをこんなにくれたりするのは、辛い過去があったから優しい彼をつくったのだろうか。
−−−そう思うと、すごいなぁと心服する反面、さびしくもあった。
「...ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな。...山岳が居てくれると、安心するから」
熱のせいか潤んだ瞳の名前に、上目遣いにそう言われると、山岳は思わず熱い衝動が込み上げる。
いつになく素直な名前が、パジャマ姿に火照った身体を包んでいる。呼吸もすこしだけ早い。
大好きで仕方ない彼女の無防備な姿に、思わずベッドに乗り上げてしまいそうになる....のを、ぐっと堪える。ダメだダメだ、そんな事しに来たわけじゃないんだから。
自分自身にそう言い聞かせて、名前の頭をそっと撫でた。
自分が幼い頃、親にしてもらったような規則的なリズムで撫でてやると、次第に彼女から小さな寝息が聞こえはじめた。
綺麗な寝顔が、すこしだけ熱で苦しそうだった。
...はやく、良くなりますように。
祈るように髪に触れながら、名前さんが体調を崩すなんて珍しいよなぁ、と山岳は思い返していた。出会ってから寝込んだ事なんて、あったっけ?
−−−ああ、そういえば・・・
一度だけ、具合の悪そうな名前さんを見た事がある。
あれはまだ、知り合ってすぐの頃だった。