実は私は今までにも、男子に告白をされた事が無いわけではなかった。でも部活一筋だったし、余裕も無かったからお付き合いをした経験というのは皆無だ。そんな、まさか。真波と…!?
思わず身を堅くした私の手を、真波も握る手に力を込めて言った。
「もしよかったら・・・マネージャーになってください!!」
・・・え?
そのときの私は正に、目が点であったと思う。
ま、マネージャー・・・!?何故!?
「い、いや…真波?私は、自転車部のマネージャーは、やらないよ?ロードレースの知識も無いし。それに、お兄ちゃんがいるからちょっと恥ずかしいっていうか」
「え。いやだなあ、ちがいますよお。名前さんってば、何言ってるんですかー」
何言ってるんですかとか、君には一番言われたくない。そして一瞬でもコイツにドキドキした自分が恥ずかしくなる。私のときめきを返せ・・・!
「じゃ、じゃあどういう事?」
「自転車部のマネージャーじゃなくて、オレのです。オレのマネージャーになってください!」
ニコ!と、真波は笑った。
いやいや、さらに意味不明である。
「そ、それはどういう…」
「えー、だからあ、マネージャーですってば。オレの」
説明になっていない。
「名前さんと一緒にいたら楽しいし、なんかもっと頑張れそうなんです。これからも一緒にいれたらいいのに、って思ったら、わくわくしたんです!というわけで、よろしくお願いします!」
きらきらの瞳に見つめられる。ヤバイ、意味わかんないのに押し負けそう。
えええ?彼にとってのマネージャーって何なんだろう?
運動部の女子マネや、芸能人のマネージャーみたいに、彼のサポートをする事?…だとしたら、何で私がそんな事をしなくちゃいけないわけ!?
確かに、真波の走りをもっと見たい、応援したい、って思ったけど、さあ。
私が頭を抱えていると、「そろそろ行きますよー」と彼の声が後ろからした。振り向くと、自転車に再び跨る真波の姿があった。その視線の先には、まだまだ続く箱根の山脈の景色が広がる。
「えっ…まさか、まだ登るの!?っていうか、マネージャーって何!?」
「当然じゃないですかあ。名前さんに褒めてもらって、やる気いっぱいなんです、オレ。さあ、行きましょう!」
かくして私は、彼と更に山を登った。完全に振り回されている。
登りきった後には、マネージャーって何なのと聞く気力も残っていなかった。連絡先を教えてほしいと言われて、交換までした。
その後私を待ち受けていたのは、結局二限目までサボった事による教師のお説教、そしていろんな意味で手ごわすぎる彼の追試対策と、靖友さんのジャージをどう返却しようかという悩みであった。
ちなみに私が乗ったあのブルーのロードは、初心者の新入部員用に部が貸し出していた自転車で。そしてあのジャージは、部室に置いてあったものを真波が「その辺にあったので、適当に持ってきた」らしい。先輩の物、勝手に持ち出すなよ・・・。